社会不安障害:SAD、ボランティアとセカンドライフ

SADで会社を休職したが、一年で復帰し、無事定年を務めて、その後の生活とボランティアについて気ままに掲載中

野沢尚『呼人(よひと)』

2009-03-15 08:25:28 | 趣味(読書)

野沢尚『眠れぬ夜を抱いて』に続いての氏の作品です。実はこの作品は古本屋のブックオフで、図書館にないと思い105円で購入した文庫本ですが、その後図書館に行ったらチャンとハードカバーの同作品があったと言う落ちもある作品です。

従って、図書館で借りる時には返却日を気にしながら、一方それを目標として読む事にしているが、この『呼人』はそんなに急いで読む必要はなかった。しかし文庫本の為に会社に持って行き易い事とその奇想天外さ、つまり氏の作品の中では極めて珍しいSF(的な部類の作品?)であり、かつ12歳の時の友情がその後も続く物語であり、かなり面白く読ませていただいた。この作品も一気に読める作品であり、一方色々考えさせられる作品である。

主人公『呼人』は12歳で、年齢(と言うか成長)が止まってしまう。大阪の知人の病院に見てもらう為に日本航空の飛行機で、出発寸前乗り遅れるが、その飛行機は、御巣鷹山に墜落してしまう。改めて呼人の両親(実の母親の妹妙子つまりおばさん、実の母親のお母さんに呼人を預けるが、妙子が、高校生の時に亡くなった為、その後ズット母親代わりをと言うか母親として、呼人を育ててきた。その妙子に幸せを与えた夫悠二)は、呼人が死なない運命を背負っていると認識していた。それはなぜなのか?

この物語は、12歳で成長が止まった呼人の小学校からの友人である厚介小春との関係から、呼人の実の母親(テロリスト)にたどり着き、最後は小春と呼人の間に生まれた子供と将来を歩いていこうとするけなげでもあるが、ある意味永遠の命つまり、回りが全て過ぎ去ってゆく恐怖を抱きながら希望を見出そうとする呼人の物語でもある。最後が呼人と小春との子供と会う所などは、かなり感動でもあり、呼人に取っては、自分の子供に直ぐ追い越されていく人生をどう生きて行くのか?と思わずには入られない作品です

つまり、12歳の友達がどんどん成長し、大人になる中で、自分だけが子供の形で残される。20歳を越えても、小学生と見られる事により、酒やたばこも気安く吸えないし飲めない。仕事でも子供の容姿の為、面と向かう仕事をする事は出来なかった。社会がそれを許してくれなかった。教員免除を取得しながら、学校で働く事はかなわなかった。唯一その教員免除を生かして、子供達の通信教育の添削をする仕事で、食いつなぐ事になる。と言うような事を考えると、一種知能障害の方には大変失礼であるが、身体が12歳でと言うだけで、そういう見方をしてしまうのは、小説の世界ではなく、現実の問題でもあると思う。そういう意味では、この作品の真の意味を考えても見たい・・・。

最も私と作者の考え方では、おそらく違うと思うが・・・。 

呼人.jpg書 籍:『呼人(よひと)
著 者:野沢 尚(のざわ ひさし)
発行年:2002年7月15日初版発行
発行所:株式会社 講談社
初 出:1999年7月単行本として刊行

価 格:667円(税別) 縦1段組み476ページ

<カバー裏の紹介>

年は、12歳にして「永遠の命」に閉じ込められた!?僕はなぜ大人にならないのだろう。心も躰も成長を止め、純粋な子供のまま生きて行くことは果たして幸せなのだろうか。出生の秘密を自ら探る呼人が辿り着いた驚くべき真実とは。 感動のラスト、権力者の理想が引き起こす現代の恐怖をリアルに描いた傑作長編。

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《あらすじ》

久我呼人は(くが よひと)1985年12歳で成長が止まる。阪神優勝の年であるが、日航機墜落を呼人がまぬがれた年でもある。若松小春(わかまつ こはる)は水泳の代表選手として出場した大会で、途中棄権してしまう。その後夏休みの後半に小春が、突然行方不明となるが、秀島潤(ひでじま じゅん)や里村厚介(さとむら こうすけ)と共に小春を救出する事に成功し、2学期始業式に間に合わせた。

同じ中学に進んだ呼人、厚介と小春。体は大きいが気の弱い厚介、小学生のようなチビの呼人。二人はいつも、いじめられていたが、小春に守ってもらっていた

1992年高校を卒業した厚介は、自衛隊に入り、訓練に継ぐ訓練に明け暮れ、同じく呼人は大学の教育学部に入学し、奇異な目で見られながら、夢である小学校の教師を目指していた。一方両親が離婚し、父親の方に引き取られた小春は陰の番長を言われていた中学時代と異なり、普通の高校生となっていた。その後父親の再婚話が出ると同時に、高校をやめ、一人暮らしを始めると同時に美容師見習いとなるが、それだけでは食べて行けず、夜のアルバイトも始めていた。潤の方は高校卒業後、アメリカの大学に留学した

1999年大学を卒業した呼人は、社会人4年目となっていた。教員免除は取得したが、小学校の教師にも採用されず、教育機関関係の会社への採用も断わられていたが、小学校時代の先生が呼人にうってつけの仕事を紹介してくれた。小学生の通信教育の指導員だった。「小学校の教員免状を持つ方」と言う条件を満たし、且つ家でできる為、人目に付く事もなかった。

この年、北朝鮮からノドン・ミサイルが発射された。この時丁度北朝鮮に行っていたツアー客10人が取り残され、自衛隊4人とアメリカ海兵隊3人+韓国塀の計8名で救出に向かったが、拉致された10人の人質は、韓国側に直ぐ返してくれたが、問題は救出に向かった8名が地獄を経験する事になり、迷い込んだ地雷原で7人死亡し、自衛隊員1名が重傷で生き残った事が放映されたその生き残った重傷のタダ一人の自衛隊員とは、厚介だった。北朝鮮で起きた事実を、確認したい自衛隊は、呼人を厚介に合わせて、北朝鮮で起きた事を話させようとする。白髪と化しやせ細った厚介と会った呼人は、北朝鮮での出来事を厚介から全て聞く事になる。

全ての話をした後で、アメリカ海兵隊の少佐から、マサチューセッツ工科大学に、日本から来た薬学専攻の研究者がおり、対バイオ兵器プログラムの研究を行なっていた話を聞く。その日本人は「ワタルさん」と呼ばれ、母親のマウスに成長抑制剤を投与する事で、生まれてくる子マウスの成長を一定期間止める事が出来たらしいが、その研究成果を発表しようとしていた矢先に、そのワタルさんはアパートで一緒に住んでいた日本人の女性に殺されたらしいと。

呼人はこの厚介の話を聞き、マサチューセッツ工科大学のあるボストンに行く事にする。二人が住んでいたアパートを訪ね、中を見させてもらい、管理人さんから当時の二人の様子を聞いた。旅行土産(釣竿)をもらった事からその旅行先マーサス・ヴィニヤードの二人が泊まった民宿まで足を伸ばす。その二人が泊まった部屋には漢字で「永遠」の文字が刻み込まれていた。この文字を刻んだのは間違いなく呼人の母親だと確信するが、その文字の意味とは?

ゲイ・ヘッドの岸壁で、死と向かい合う事で自分に取っての「永遠」とは「永遠」を望めば果てしなく永遠であるが、望まなければ、消えてなくなるという。要は呼人の意思次第である単純な事だったと理解する。

ボストンを後にし、潤に会うためニューヨークに行くが、何と潤は、為替取引で損をだし、顧客の預かり証券を無断でさばいて損出分を埋めようとしたが結果的に銀行に20万ドルの穴をあけ、FBIに逮捕されていた。やっと面会した潤から今回の背景と結果を聞いた後に、ミスターホワイトと言う民主党員だが実はアメリカの刑務所を裏で支配するプリズン・ギャングの首領の話を聞く事になる。ミスターホワイトには、娘と孫娘を事故で失っていたが、これから作るとの事。しかも200年もその子供は生きるという意味の事を潤に言ったらしい。しかも地球が永遠ならその子供も永遠だと。

呼人はミスターホワイトと会う目的の女性を知ったのは、その女性の元の亭主アジジ・ムバラク、ミスターホワイトの娘と孫をプラステック爆弾で吹き飛ばした爆弾犯人だった。逮捕され刑務所で、ホワイトと面会したアジジは命乞いの為に元妻を差し出した。魔女(神)として。

その女とは、日本人で日本の革命組織からもドロップアウトして、たった一人で世界のあらゆる宗教戦争に加わっており、テロの傭兵であり、爆弾魔のその腹から生まれる子供は不老不死になるという噂だった。アジジが会い、生まれた子供は、1歳で成長が止まった。敵対する組織により爆破されその子供はなくなったが、その女は「所詮、失敗作だった。だから爆弾なんかで死んでしまった」と。生んだ子供はある時期から成長を止めてしまい不老不死のカリスマを宿す力を秘める為、その子は失敗作と言ったらしい。

アジジは生き残る為に、この女のいる場所と思われる所と名前「アミ」をホワイトに教えたミスターホワイトは部下に命じ、その女を見つけさせ、踏み込ませようとしたが、トラップに引っ掛かり、部下のギャング達は、吹き飛ばされてしまった。消防士の服装でその場をまぎれて逃れたアミ。標識等によじのぼり、呼人は思わず「アミ!」と何回も叫んだ。

日本に戻り、両親久我悠二妙子に今までの事を話す。「ワタル」と言う科学者、そして不老不死の子供を産もうとした女テロリスト「アミ」の事を。

妙子から、実の姉は野力(のりき)亜美、父親は製薬会社に勤めている研究者で、妊娠3ヶ月の時に恋人から開発中の薬を注射された。彼は「僕達の子供を神様にしよう」と言った。亜美は「本当にこの子は、ずっと年をとらないのかな」と呼人をあやしていたらしい事を聞く更に1971年から日本を脱出する3年間の日本で起こった爆弾テロの半分は野力亜美の仕業だったと公安から言われたらしい。つまり日本を脱出するのに呼人をつれてゆくわけにはいかず、お母さんに預けたらしい。

2005年、厚介はまだ本格的な社会復帰はできず、精神科で入退院を繰り返していたが、その持ち前の力で、病院の雑役の仕事を得ていた。潤はアメリカでの刑期を追え、日本に帰ってきていた。この中で「奥多摩の最終処分場建設、合意へ」の記事を新聞で見かけた。小学時代に呼人たちが目指した奥多摩の水源が失われてしまういてもたってもいられなくて、呼人は武蔵五日市まで電車を乗り継いで行く。そこには同じように小春が、居た。ゴーストタウン化した町の一つの旅館に、親子として止まった二人。呼人は今までの事を、春子に話す。話しながら、呼人はずっと小春が好きだった事を再認識する。翌日、水源をたどって、川に沿って登り、昔3人で野宿した場所にでる。そして小春が倒れていた場所まで行き、原生林の水源まで辿り着く。やっと小春から、昔ここを目指した真の目的と「私をいつまでも忘れないで!」と言った理由を聞く事ができると呼人は思う。小春は12歳の頃夢を見たと話する。顔は分からないが、女が「呼人を守れ。お前の愛で呼人をまもってやれ」と。小春はどうして呼人を守らなくてはいけないのか、あたしの愛って一体どういう愛なのかもわからなかった。と

12歳の時に小春は呼人を試した事を打ち明ける。自分が家出をしたら、呼人が探してくれる。その為の複線を張ったと。呼人を試したと言うより神様を試そうとしたんだと。呼人たちが小春を見つけてくれたら、あの夢を神の啓示としようと。河原で力尽き、気づいた時に、みんなの顔が並んでいた事で、小春は重い責任を抱える事になり、次は小春が呼人を守る番だと思ったが、何で呼人を守らなければいけないのかがやがて分かった事。呼人が12歳で成長が止まった事から。

水源で、二人は「最初の一滴」に書かれていた儀式をする。水源の水をお互いに飲み友情が永遠になると言う伝説。そして、二人は結ばれる

2010年フランスの旧式の軽水炉がコンピュータ事故で操業を停止したが、チェルノブイリ級の爆発事故であった事が明らかになった。撒き散らされた放射能は、フランスより隣国のベルギーを汚染する事になり、ベルギーからは難民となった人がオランダへと避難していたこの中でベルギーに潜伏していたテロリストが、偶然操作網に引っ掛かり、捕まった。彼はもう一人のテロリストとペアで行動しており、ベルギー内で爆弾を作り続けていた。そのもう一人のテロリストとは「エイミー」と言う名の日本人の伝説的な傭兵テロリスト。11年前のマンハッタンの雑居ビル爆破も関係しているとCNNが流していた

呼人は、オランダからベルギーに行く事にするが、この事を潤と厚介に話すと、彼らも付いてゆくと言う

オランダからベルギーに入り、その荒れ果てた中で自警団から、聖母マリア大聖堂からルーベンスの絵を持ち去った人間がおり、昨日捕まえて国連軍に渡したらしいが、その4点の内1点を髪の長い東洋人の女が買ったらしい。アントワープの大聖堂まで辿り着くが、押し寄せる盗賊を相手に、呼人を守る為に生きてきたという厚介は、一人で5人の盗賊に立ち向かう

大聖堂を逃げ出した、潤と呼人は、海岸近くの古城を見つける。5人の盗賊がその古城への橋を渡ろうしていたが、トラップに引っ掛かり、5人とも爆風に吹き飛ばされてしまう。呼人は確信する。あそこにアミがいると。

古城の広間で遂にアミと対峙し、アミは奇跡を起した事を理解する。そして、アミから今までの全ての事を聞く。この世の中が汚れきった地球が一歩一歩自滅に向かっている。どうせ壊れる物なら早く壊してあげたくて、私は壊し続けたと・・・。しかし私が生涯かけて破壊を繰り返しても、地球に最後まで生き残る事は不可能だった。時間がなさ過ぎた。ワタルと言う研究員と知り合い、不老不死の子供を作る事ができるかもしれないと聞き、妊娠3ヶ月でその注射を受けた事。ワタルはその後研究の糾弾を恐れ、国外へ逃亡し、自分もその後生まれた子供を母親と妹に預けて国外に逃亡した事。アメリカでワタルと再会し、新婚生活の真似事もしたが、私の本質を理解し、私を恐れ、当局に売り渡そうとしたワタルには死んで貰った。その彼から一つ重要な事を教えて貰った。成長ホルモン抑制剤を投与した母マウスは、一度だけの妊娠だけで終わる遺伝効果では無い事。この為に何度でも不老不死の子供を産む事ができると希望を持った。5回の流産の後にやっと一人出産する事ができたが、一歳で成長が止まり、報復爆弾で死亡すると、その亭主を捨ててヨーロッパ中を回ったが、終わりはあっけなかったと。生理がとまっり、打ち止めとなった。

呼人は何回も野力亜美に問う。「どうしてぼくはこの世に生まれてきたんだ」と

あなたは、ないたのよ。わずか六ヶ月で。私が読んであげたネルロの物語に。私は本当に驚いた。あなたを宿したのは18歳の時だった。生まれてくる子供にはいつまでもいき続けてほしい。子供が生き続ける事で味わう不幸な孤独なんて思いもやらなかったと。」と呼人はいつまでも元気でとそう言いたかった。私はあなたを愛しただけだったと。コテージに「永遠」と刻み赤ん坊の僕に臍の緒を残していったアミ。ようやくつながった。盗賊も放射能も迫る中、潤と二人で古城を後にしオランダ側へと逃げる中で、お守りの臍の緒を放射能の待つ大地に葬った。

日本に帰国後、厚介の墓参りに潤と訪れる。同行した元自衛官が武装した暴徒から二人を守ったというニュースがヒロイックな物語として日本に伝わったが、放射能に汚染された厚介の死体は直ぐに償却されて骨だけで日本の家族に引き渡された。二人は買ってきたコーラを厚介の墓にかけてやった。そこに小春と幼稚園の年中ぐらいの子供が一緒に現れる。子供の名は「直人」、あの水源で授かった呼人の子供だった。呼人が母親と会うまで、黙っていたが、やっと家族で会う事ができた。呼人に背負わせてはいけないと思ったけど呼人にもあたしの人生を背負って欲しい、一緒に家族を作って欲しいと小春は言った。

呼人は直人を抱きしめた瞬間、親が子供を温める意味を認識し、確かに自分が母親に愛され事を実感すると同時に直人に「よく生まれて着てくれたね」と泣きながら言うが一方で、息子の死も予感した呼人はこれからも多くの命の消滅を見届ける事になると・・・。小春と直人の3人家族。それは呼人の「永遠」におけるほんの束の間のつながりでしかない。直人がこの世に生まれてきた意味を、その生涯をかけて見届ける事で僕は確かめる事ができる。それがぼくにもたらされた幸せなのだと思いたい。・・・・


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