しばやんの日々 (旧BLOGariの記事とコメントを中心に)

50歳を過ぎたあたりからわが国の歴史や文化に興味を覚えるようになり、調べたことをブログに書くようになりました。

天平彫刻の宝庫、東大寺三月堂の解体修理

2010年04月16日 | 奈良歴史散策

東大寺は治承4年(1180年)の平重衡の兵火と、永禄10年(1567年)の三好・松永の兵乱とにより、創建当時の建物の多くが失われたが、奈良時代の建物としては転害門(てがいもん)と本坊経庫などの校倉(あぜくら)と三月堂(法華堂)が残されている。

そして三月堂(法華堂)は東大寺大仏殿が建立された時代よりも前に建てられた東大寺最古の建物で、創建は天平12年(740)から19年(747)の間と言われている。



東大寺は何度か行っているのだが、この三月堂(法華堂) には高校の頃に行ってから40年近く行っていない。ここには本尊の不空羂索観音立像(国宝)のほか、日光・月光菩薩立像(国宝)、執金剛神立像(国宝)、金剛力士立像(国宝)、四天王立像(国宝)など合計16体の仏像が安置されており、そのうち天平時代に制作されたものが14体(内国宝12体、重要文化財2体)もあるので、ずっと前からもう一度じっくり参拝したいと思っていたのだが、この三月堂が工事に入るとの報道があった。

東大寺のホームページによると、鎌倉時代に作られたとされる板張りの須弥檀がシロアリの被害などで傷みが激しく、地震対策のなどのために三月堂が5月から3年間の予定で本格的解体修理に入るために5月18日から7月31日までは拝観停止になり、全仏像が一時的に移動される。

8月から入堂拝観が再開されるそうだが内陣の中には入れず礼堂からの参拝となり、堂内に残る仏像も弁才天(重要文化財)、日光菩薩・月光菩薩(国宝)、帝釋天(国宝)、梵天(国宝)、地蔵菩薩(重要文化財)、不動明王(重要文化財)の7体が予定されているだけだ。

そして3年後の修理完成後は塑像の日光・月光菩薩立像(国宝)と弁財天堂(重要文化財)、吉祥天像(重要文化財)の4体は、南大門近くで建設されている寺総合文化センターに半永久的に移されると書いてある。

ということは、16体の仏像が須弥檀に林立する姿があとおおよそ1ヶ月で見られなくなってしまうのだ。

というわけで先日、桜の咲く東大寺大仏殿を横目に、家内と朝一番で東大寺三月堂へ行って来た。よほど人が多いかと思っていたのだが、修理されることがあまり知られていないのか、拝観料(@\500)を払ってすぐに内陣に入ることができたのは意外だった。



中に入ると、林立している16体の巨大な仏像の神々しさにまず圧倒される。また、本尊の不空羂索観音像をはじめとする16体の仏像それぞれが素晴らしく、それらの仏像が醸し出す荘厳な空気が、観る人をいにしえの時代にいざなっていく。

ここは博物館ではない。仏像と観光客とは空間を共有し、遮るものは何もない。建物も、仏像も、1250年近く古いものが今も残されて目の前に祈りの対象として存在し、観光客も千年以上前と同じ状態の仏像に手を合わせて参拝することができるのだ。

度重なる兵乱や地震や台風や廃仏毀釈などの大変な危機を乗り越えて、これらの仏像が今も残されている。素晴らしい仏像を制作したことも凄いことなのだが、私は1250年近く守られて、今も信仰の対象であることに日本人の凄さを感じている。

三月堂のパンフレットには、これらの仏像を制作した仏師の名前は記されていないが、田中英道氏は、「国民の芸術」という著書の中で不空羂索観音立像(国宝)や日光・月光菩薩立像(国宝)を制作したのは国中連公麻呂(くになかむらじきみまろ)と推定している。国中連公麻呂は東大寺大仏を制作したことでも有名であるが、三月堂の秘仏である執金剛神像や東大寺戒壇院にある四天王像も公麻呂の制作だとされ、それらの仏像の質的レベルの高さから、田中英道氏は公麻呂のことを「天平のミケランジェロ」と呼んでいる。

ミケランジェロもすばらしい作品を残しているが、お寺で生まれ育った私には西洋彫刻に精神性の高さがあまり感じられず、個人的にはミケランジェロよりも天平仏の方が好きなのだ。

京都出身でありながら、仏像は奈良のものが以前から好きだったのだが、私が写真などで見て好きだった奈良の仏像の多くが、公麻呂の制作によるものであることに気がついた。、奈良の仏像が好きだったのは公麻呂の仏像が好きだったということなのか。

仏像は本来祈りのためにある。お寺の建物の中で参拝者と空間を共有できてこそ祈りの対象となりうるのだが、三月堂の14体もの天平仏を参拝できるのはあと1ヶ月が残されているだけである。 
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