苦節6年「BSデジタル」 機は熟し攻勢へ

2006年11月30日 10時58分14秒 | ニュース
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FujiSankei Business i. 2006/11/29



 高画質や高機能を特長とするBS(放送衛星)デジタル放送の普及数が、12月中にも2000万件の大台に手が届きそうだ。経営難が続いてきた地上波在京キー局系列のBS民放5社にとって強力な追い風。媒体価値が高まる中で“攻めの経営”へと舵を切り始めたBS民放の今を探る。(臼井慎太郎)


 ■年内2000万件の大台に「手応え」



 
 11月2日。NHKは、10月末時点のBSデジタル放送の普及数(速報値)が約1887万件に達したと発表した。BSデジタル放送受信機とケーブルテレビ経由の視聴世帯の合計値で後、約113万件で2000万件となる。

 その数字の重みは大きい。BS朝日(東京都渋谷区)の神村謙二社長は「2004年6月に社長に就任したときはまだ500万件超だったが、それから1300万件以上増えた。BSの認知度、そして存在感が確実に上昇している。手応えを今、非常に感じている」と明かす。

 BSフジ(同港区)の浪久圭司社長も実感している。

 「地上波の普及世帯数は、約4800万。その中でのBSの位置づけを考えた場合、40%以上に達する。これは大変な数だ。また、500万単位で普及の足取りをみると、間隔が狭まりスピードアップしている。勢いを感じる」

 00年12月に開局したBSデジタル放送が急伸した要因は、アテネやトリノ五輪、サッカー・ワールドカップ(W杯)の日韓やドイツ大会に代表されるソフト面と、薄型デジタルテレビへの買い替え需要拡大というハード面からの追い風が吹いたことだ。


 ■近く黒字化でコンテンツに軸足

 普及の加速を背景に03年度、161億円だったBS民放5社の広告収入は、これを底に回復し、05年度に212億円を確保。06年度は261億円になる見込みだ。

 創業以来、赤字が続いてきた各社にも光が差し始めた。BS朝日の06年度上期(4~9月)の売上高は、前年同期比18・7%増の24億円とふたけた増収。03年度23億円だった通期の売上高を、上期だけで上回った。9月には「単月黒字」も達成している。

 BSフジも、開局以来初めての「上期黒字」となった。06年度上期の最終損益は、5659万円の黒字。売上高も同22・8%増の約22億円と、こちらもふたけた増を計上した。

 同社のほか、BSジャパン(同)も初の上期黒字を達成。07年度には、5社がそろって単年度黒字となる見込みだ。

 業績の黒字化は、何を意味するのか。BS朝日の神村社長は「これからは“縮小均衡”から“拡大均衡”に経営の舵を切ることになる」と話す。

 つまり、広告収入を基盤に無料放送を行う民放5社が、経営の軸足をコンテンツ(情報の内容)や双方向サービスの充実に移すというのだ。

 「番組が充実すれば、見て満足する人が増える。そうなれば、広告メディアとしての価値も評価され、広告収入を獲得する機会も増える。これによって数字(業績)が上がれば、コンテンツに制作費を投じやすくなる。今までの負のサイクルから脱し、この好循環に入る潮の目に来たといえる」(BS朝日の神村社長)。

 すでに各局は、好循環の構築に向けてBSらしい番組の編成・制作に力を注いでいる。

 BS朝日は9月30日、日中共同制作のドキュメンタリー「中国の至宝・大紫禁城(しきんじょう)のすべて」を放送した。昨年の開局5周年に合わせて社員から募集した企画を番組化したもので、中国皇帝政治のシンボル「紫禁城」の謎に迫る内容。2時間の単発番組としては、過去最高の広告収入を獲得した。


BS朝日が放送した「中国の至宝・大紫禁城のすべて」。女優の井川遥さん(右)が案内役を務めた
 
 BSフジも売れる番組づくりを強化。「老若男女を意識したBSフジらしい番組と、スポンサーのニーズを合致させることが大事。これから先、ますます企画力と制作力が問われるだろう」(浪久社長)との姿勢で、05年6月に編成局と営業局を一体化させ機動力を高めた。

 その成果の一つが、新しいスポーツエンターテインメントの開拓。05年に発足した国内初のプロバスケットボールリーグ「bjリーグ」の魅力を伝える番組を今月17日から放映した。さらに、地方自治体から持ち込まれた企画を、地元密着の岡山放送と低コストで全国発信できるBSフジが協力し「わが青春の観音寺」を12月に番組化する。 

 「コストを抑えた形でいかに局の姿勢と独自色を発揮するか」というテーマを掲げて工夫を重ねてきたBSが、地上波局を補完する放送以外でも実績を上げつつある。


 ■規制緩和で地方局などと補完へ 

 こうしたなか、各社を取り巻く環境が大きく変わろうとしている。総務省の研究会は7月、11年にBSデジタル放送のチャンネル数を大幅に増やし新規参入を促す方針を提示した。この多チャンネル化により、メディアの多様性が確保されれば、一つの企業が複数の放送局の大株主となり経営支配することを禁じた「マスメディア集中排除原則」も緩和される見通しだ。

 多くの放送局を傘下に収められる「放送持ち株会社」の設立を解禁する動きも焦点。これらは、5社合計で1000億円超(06年3月末)の累損を抱えるBS民放にとって無視できない問題だ。

 規制が緩和されると、民放キー局が、BS局を完全子会社化することも可能となるほか、キー局が地方局など複数の放送局を効率よく運営しやすくなる。ただ現時点では、「今は自立する力を高めることに尽きる」(BS朝日の神村社長)「毎年毎年きちっと黒字を出さないと株主は納得しない」(BSフジの浪久社長)との姿勢で基盤固めに集中する。

 富士キメラ総研の足立吉弘主任研究員は「BSが勢力を拡大すると地方局を脅かすといわれてきたが、放送波の壁を越えて自由に番組編成できるNHKのように補完し合える体制にうまく移行できるとみている。ただ、BS民放にとって、これからはいかに、地上波にない『番組の品位や質』で本領を発揮するかが問われるとき」と指摘する。


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