フジテレビのUstream連携番組が話題に、生放送の舞台裏

2010年04月19日 16時15分59秒 | ニュース
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20100416/1031530/?P=1

4月15日夜、地上波のテレビ放送とインターネットのライブ放送「Ustream」をミックスした画期的な放送がオンエアされた。Ustreamを利用した「ダダ漏れ」で有名なケツダンポトフと、フジテレビのアニメーション番組「ノイタミナ」(毎週木曜日、深夜24時45分~)とのコラボレーション番組「朝ダダ×ノイタミナ Ustream座談会」だ。地上波とインターネット動画サービスという異なるメディアがタッグを組んだきっかけは何だったのか、新しい試みでの苦労はあったのかを取材した。

テレビとUstreamを融合させる野心的な試み

 「ノイタミナ」は、フジテレビの深夜枠で放送されているアニメーション番組だ。「ハチミツとクローバー」「のだめカンタービレ」「東のエデン」など、クオリティーの高いアニメーションを放送してきた。4月の改編で1時間番組に拡大したことを記念し、初の生特番としてUstreamとの融合が企画された。

 「朝ダダ」は、ケツダンポトフ・そらのさんが企画してUstreamで放送されているインターネットライブ放送だ。2010年2月、評論家の田原総一郎氏と津田大介氏の司会による討論番組を放送して話題を呼んだ。第2回として企画されたのが、今回の「朝ダダ×ノイタミナ Ustream座談会」だ。

「朝ダダ×ノイタミナ Ustream座談会」は、東京・お台場のフジテレビV6スタジオを利用して放送された。参加者は、左からアニメーション監督の水島精二氏、批評家の東 浩紀氏、法学者の白田秀彰氏だ(画像クリックで拡大)
 放送のテーマは、東京都が目指す青少年健全育成条例改正で話題となった「非実在青少年」にまつわる問題で、成年マンガの表現規制に関するものだ。スケジュールは、まずUstreamによるインターネット放送を深夜1時までオンエアし、深夜1時からはテレビの地上波へと受け継ぐスタイルとなった。

 基本はスタジオでの討論だが、インターネットとの融合が積極的に図られたのが特徴だ。インターネット電話のSkypeを利用して、漫画家や漫画評論家も番組に参加。同時に、視聴者がTwitterで発したつぶやき(タイムライン)を司会と参加者に常に見せることで、視聴者の声を討論に取り入れたのも注目される。Twitterのアイコン画像で著作権の問題が発生することを防止するため、フジテレビはアイコン画像をカットしたタイムライン表示システムを今回のために作ったほどだ。


司会を務めたメディアジャーナリストの津田大介氏。後ろのモニターには、視聴者が寄せたTwitterのタイムライン(TL)が流れている。フジテレビが作った独自システムで、アイコンをカットして表示する仕組みだ(画像クリックで拡大)

ケツダンポトフ・そらの氏。今回の企画では、Skypeを利用した討論参加者との橋渡し役に徹し、いつもの「ダダ漏れ」と違って撮影はしなかった(画像クリックで拡大)
 東氏は、討論の中で「これだけ濃い議論をテレビ局のスタジオでできたことに価値がある」と述べた。「Ustreamをはじめとするインターネットライブ放送の勢いがあるなかで、『テレビとUstream』という対立軸ではなく、お互いがコラボレーションして放送できたことは画期的だ。歴史に残る放送になったと思う」とも語った。

 討論自体は成功だったものの、Ustream放送ではトラブルにも見舞われた。音声が割れて放送を中断したり、Ustreamの表示をしていた番組のWebサイトがダウンするなどのトラブルが発生したのだ。今回のUstream放送は、数多くの回数をこなしてノウハウが蓄積したケツダンポトフではなく、Ustreamに不慣れなフジテレビ側が担当していたことも理由といえよう。Twitterを取り入れたドラマ「素直になれなくて」が同時間帯に放送された不運もあり、Ustreamの同時視聴者数は最大でも4300人程度に留まった。

Ustream放送とテレビの生放送とのギャップに戸惑う

 Ustreamでの放送は3時間近くにわたり、深夜1時前に終了。そこからは、フジテレビによる生放送が始まった。だが、まったりとしたペースのUstream放送から、進行が秒単位で決まっているテレビ放送とのギャップに、視聴者の戸惑いが生じた。Twitterのタイムラインでは「Ustreamとのギャップがすごい」「テレビ的すぎてつまらない」という声も見受けられた。

 それ以上に戸惑ったのは、Ustream放送での流れを引き継いだ討論参加者だ。生放送が30分しかないのに、外部ホールからの中継やコマーシャルに時間を割かれ、スタジオでの討論に割り当てられたのはわずか10分ほど。議論が盛り上がりかけたところでコマーシャルに入ったり、参加者が進行を担当するフロアディレクターに急かされたりと、中途半端な内容で終わってしまった。時間が短いにもかかわらず、台本を細かく作りすぎていたのが原因だろう。

 終わってみると、“グダグダ”なはずのUstream放送が大いに盛り上がった反面、きっちりお膳立てしたはずのテレビ生放送は消化不良のまま終了、という皮肉な結果になった。フロアディレクターは「Ustreamとテレビ生放送とのスピードの違いに、パネラーさんが戸惑われたようだ。今回は我々側に反省点がある」と語った。

Ustreamとのコラボでテレビは復権するか?


津田大介氏。3時間半にわたったUstreamの討論とテレビの生放送を的確にさばく技はお見事だ(画像クリックで拡大)
 今回の企画は3月中旬から進められてきたが、放送スタイルを決めるまでにさまざまな紆余曲折があったという。秒単位で放送のスケジュールが決められ、しかも高いクオリティーを求められるテレビに対し、Ustreamは放送中の裏側を隠さず自由奔放なスタイルが売りだ。まったく性格の異なるメディアだけに、お互いの主張をぶつけ合った折衝がギリギリまで重ねられた。

 ケツダンポトフのプロデューサーは「Ustream放送で自由にダダ漏れしたい私たちと、きっちり作らなければならないテレビ局との間でせめぎあいになった。一度はあきらめようかと思ったが、そらのが『ともかくやってみたい』と頑張った。お互いに納得いかない点は残っているだろうが、やれたことに意義がある」と述べた。

 折衝の結果、撮影・進行・放送はすべてフジテレビ側が担当することに決定。フジテレビとしては初めてのUstream放送だったため、トラブルが起きたのは仕方がないといえる。ただ、TwitterのつぶやきではUstreamのトラブルはさほど問題にはならず、逆に「プロのカメラワークはすごい!」と肯定的な声も多かった。

 放送終了後、司会の津田大介氏は「テレビとのコラボレーションは思っていたよりも難しい」と率直な感想を述べた。「テレビ局のコンテンツ制作能力はとても高いので、それをUstreamと組み合わせて生かすのが理想的だ。今後、先にテレビ番組でテーマを振り、そのあとにUstreamで突っ込んだ議論をする形がよいのではないかと思う。Ustreamとの融合によって、テレビは魅力を取り戻して復権できるのではないか」と語った。

 ケツダンポトフのプロデューサーは「ネットの世界には、テレビなどのマスコミへの反感が強く存在する。今回の放送は試行錯誤の面が強いが、それでも今後そのような意識が変わってくるのではないか」と述べた。そらの氏は「今回はSkypeからの議論を拾って討論に合わせる進行がうまくいかなった。次回はもっと工夫したい」と反省していた。


津田氏(右)と打ち合わせをするフジテレビの山本幸治プロデューサー(左)。UstreamやTwitterの特性をよく理解した熟練のテレビマンだ(画像クリックで拡大)
 番組の総指揮を担当するフジテレビの山本幸治プロデューサーは、「途中でノイタミナのWebサイトが落ちてしまったことで、ビューが伸び悩んだようだ。それがちょっと心残り」とした。「Ustreamはとてもうまくいったと思うが、地上波は『うまくいかずにすみません』のひとこと。反省すべき部分が多い」と自身のTwitterでつぶやいていた。

 決して順調とはいえなかったコラボレーション放送だが、テレビ放送とUstream放送が譲れるところは譲り合いながら放送にたどり着けたことは快挙だといえる。テレビ局がUstream放送に挑戦すること自体が画期的だし、ケツダンポトフが「ダダ漏れ」というコンセプトを譲って協力したところは、賞賛すべき「決断」だろう。

 今回のコラボレーションは、フジテレビの山本プロデューサーがUstreamやネットの状況を理解し、かつ熱意を持って折衝に臨んだからこそ実現できた企画だ。他の番組や放送局ですぐにできるものではないのは確かだ。だが、今後メディアの形が大きく変わることは間違いなく、今はまさに試行錯誤のまっただ中。津田氏が指す「テレビの復権」は、このタイミングをどう生かすかにかかってくるだろう。


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