横浜にぎわい座へ。恒例、立川志の輔独演会”志の輔 no にぎわい”、に行ってきました~ん♪。
ためしてガッテン!の人っていえばわかりますか。
実は今回のチケット、母の日とちょっと早い父の日にあわせて両親にプレゼントしたもの。
ところが前日の夜になって父に急用が入り、足の悪い母のお供に私が急遽駆り出されたという、逆プレゼントのようなうれしい展開に思わずニンマリ。母と一緒にルンルンで出かけました。
さてこの日は昼夜二席。
私たちは昼の部。平日昼間のこの時の客層は実にバラバラ。年配のお客ばかりかと思えば、学生もいる。男女比も心持ち女性が多いかな?という感じでほぼ半々。
高座にあがった志の輔さんはしばらく逡巡しているように見えました。
ポツリ、ポツリ。
会場を見回しながら話題は今回の震災へ。
落語家のみなさんも、順次被災地に入って避難所で被災者のみなさんを寄席に招待されているそうです。志の輔さんも避難所を訪問されています。しかし、震災後しばらくの間、人前でいわゆる「古典の人情話」が演じられなかった、と、おっしゃるではありませんか。
現地の惨状と避難されている人たちの様子を目の当たりにして、ご自身の『噺』としての人情けと、被災現場でのお客さんが自分たちを歓迎し喜んでくれる気持ちに応えたい思いとに、どうにも説明できない違和感を感じてしまったからだ、と。
口調は柔らかですが、リアルな凄みに思わず身を乗り出してしまいました。
次の瞬間
口調が微妙に変わり、
原発事故についての後手後手の発表と状況説明にちくりと皮肉をきかせて、一気に志の輔ワールドへ、ぐぐっと舵がきられていたのです。
新作が2題続きました。
終了後に、張り出される当日の演目表(しかしこの字、何とかならんか…orz)
落語にはプログラムがありません。その日のお客の入り、客層をみて、その場で噺家さんたちは出し物を決めます。初めて寄席にいった時、このことを全く知らず危うく受付の人に
『プログラムはどこですか?』と聞きそうになりました。(ド素人ですみません。)
手持の噺が多ければ多いほど有利にちがいないけれど、独演会での2~3話をひとりでこなすには噺家さんそれぞれの個性とセンスも必要です。当日高座にあがり、客席に向かって話題を振り、その反応をみて、瞬時にこの回の出し物を構築する。いや、おそらく会場(寄席)に入る前から、その道すがら街の様子、行き交う人の雰囲気、聞こえる話題に五感をすませているはず。
後半の〆は、なんと!古典。人のいい豆腐やさんと貧乏長屋にすむさえない学者先生の話です。古典は演じてもらえないかも、とちょっと考えていただけにワクワクしました。それは他のみなさんも同じだったと思います。
噺が徐々に盛り上がってきたところで、急に志の輔さんの声のトーンが変わりました。
「光ってますよ、光ってます。そこのあなた。」
それがあまりに自然なので、会場が「?」となるのに、ちょっとした間がありました。
「わかりますか?あなたですよ。携帯が、さっきからチカチカチカチカ私の目に痛いんです。」
そうなんです。
前の席の男性の携帯が、マナーモードのまま着信し続けていたのです。胸ポケットに入れたままの携帯が点滅しているのは、おそらく一度ではなかったかも。後半、いやもしかしたら中入りの前から、何度も着信していたとも考えられます。
横浜にぎわい座は寄席のためのホールです。おそらく高座から客席がいい感じに確認できる広ささ、これを念頭に設計されました。照明もコンサートや上映会の時と違い、真っ暗にはなりません。
師匠の口調があまりに自然なので、その男性は現実の自分の事を言っているのだとは気がつかなかったようでした。
「あのね、私のみている方向のあなた、そう、あなた!」
いわれた別の人が自分を思わず指さしたのがわかりました。
「その右の、あなた…!はいそう!」
右隣のひとが反応します。
「その後ろの白い…」
このあたりで会場全体が何となく事情を飲みこんで、微妙な空気が漂いはじめました。しかし、志の輔さんはあいかわらず柔らかく話し続けています。
「その白いシャツの…」
やっと当人がもぞもぞと動きました。
「そう、あなたですよ。わかりますか?携帯」
男性が周りを気にしながら携帯をとりだし……、その瞬間、
「あ~よかった~!ガッテンしていただけましたか!!ありがとうございます!!」
おなじみの台詞に会場がフワッと湧きました。
「…でね、あ~何でこんな話になったかというと…」
気がつくと、いつの間にか再び古典の世界へ。見事な話術、いや、話芸でした。誰も不快にならず、責められることも、恥をかくこともなく。大盛況のうちにお開き。2時間たっぷり、そして何とも心地よい余韻が残りました。
立川志の輔さんの落語の「粋」を見せていただいた、と思いました。
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ところで、休憩時間に突然奇妙な人たちが客席に入ってきました。
「何をしているんですか?」とたずねたところ
「会場内のCO2を測ってるんです。」
「なぜ?」
「規則なんです」
だから、なぜ規則なのかということをききたかったのですが、後半のブザーがなってとうとうわからずじまい。このご時世、すわ放射能!と思った人は多かったよ、きっと。
それから、私の隣で大笑いをしていた30代くらいの女性。中入り後に戻ってきませんでしたよ。そう言えばななめ後ろのおじさまが、
「ホントかよ.2時間も志の輔が話すわけないだろ、せいぜい一つか二つ。」
と開場前に声高に(ホントに大きい声でした)話されていましたっけ。これを真に受けて、二話で終わったと思ったンじゃあるまいな…。
なんて、そんな諸々の思いもまた、下町の寄席の醍醐味であります。