背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

『シンシナティ・キッド』

2012年05月03日 04時12分22秒 | アメリカ映画
 歴代のアメリカ人男優スターで誰が一番カッコいいと思い、誰に一番憧れていたかと問われれば、私の場合、断然スティーブ・マックィーンである。私とほぼ同世代の人たち、昭和30年代後半にティーンエージャーだった男子の多くは、マックィーンのファンだったと思うし、このように問われれば、まずスティーブ・マックィーンを上げるのではなかろうか。ちょっと上の世代なら、ポール・ニューマンとかマーロン・ブランド、もっと上の世代なら、渋いところでハンフリー・ボガードなんて言うかもしれない。女子たちのことは分らないが、私より上の世代の女性なら、ジェームス・ディーン、同世代なら、ロバート・レッドフォードを上げるのかもしれない。それはともかく、私は正直に言って、スティーブ・マックィーンである。
 小学生の頃、テレビで「拳銃無宿」という西部劇をやっていて、毎週欠かさず見ていた。その主役がマックィーンだった。同じ頃、映画『荒野の七人』(1960年)が封切られ、その七人の一人がマックィーンだった。彼を目当てに映画を観に行った客が多かったのではあるまいか。私もそうで、最後にマックィーンが死ななかったので、ほっとした覚えがある。七人のうちリーダー格のユル・ブリンナーは有名だったが、ジェイムス・コバーンもロバート・ヴォーンもチャールズ・ブロンソンもまだ無名に近かった。
 が、スティーブ・マックィーンの人気を決定づけたのは、やはり『大脱走』(1963年)だったと思う。この映画は、脱走モノでは最高に楽しい娯楽作で、マックィーンの魅力が満ち溢れていた。
 スティーブ・マックィーンという俳優は、孤独なヒーローを演じても、茶目っ気があり、人情味と親しみやすさがあった。ハードボイルドでも、人に優しいところがあり、老人にも子供にも気をつかい、また女に対してもベタベタしないし、かといって決して女を邪慳にしないところが良かった。そのさりげなさが男らしく、カッコ良かったのだと思う。



 『シンシナティ・キッド』(1965年)は、中学生の頃観て、マックィーンの魅力に完全に取りつかれた映画である。先日久しぶりにビデオで再見し、やっぱりマックィーンの素晴らしさを再認識させられた。私は今でもスティーブ・マックィーンのファンなんだなとつくづく実感した。この映画はポーカーの新旧勝負師の対決を描いた作品だが、勝負師でもビリヤードの対決を扱った作品にはポール・ニューマンの『ハスラー』があり、こちらの方が作品的には優れていると思うし、私はポール・ニューマンのファンでもあるが、どちらが好きかと言われれば、やはり、『シンシナティ・キッド』である。
 昔映画館で観て感動した映画を今になってまたビデオやDVDで観ると失望することがあり、観なきゃ良かったと思うことがある。だから、半面観ない方がいいかなと思いながら、恐る恐る観る。先月だったが、高校の頃観て大感動したアラン・ドロンの『冒険者たち』をビデオで再見したら、それほどでもなく、がっかりした。しかし、『シンシナティ・キッド』は、失望どころか、以前気づかなかった新たな発見も得られて、改めて感心した。
 この映画の監督は、当時まだ駆け出しのノーマン・ジュイソンだが、登場人物の最初の出し方が実にうまいと思った。主役のマックィーンは冒頭すぐに登場するが、クレジットタイトルが終った後、賭博場での再登場の仕方が実にカッコいい。相手の名人を演じるエドワード・G・ロビンソンは、汽車の煙の中から忽然と現れ、猿回しの猿にチップをやって、ニューオリンズの高級ホテルに乗り込んでくる。次がカール・マルデン、その次に恋人役のテューズデイ・ウェルドが登場して、最後にセクシーなアン・マーグレットという順。それぞれ初登場のシーンから個性を際立たせた演出ぶり。テューズデイ・ウェルドは当時この映画で初めて観て好きになった女優だが、今観ると、それほどでもない。可愛いが、喋り方が甘ったるく、知的魅力に欠けるような感じだ。


(テューズデイ・ウェルド)


(エドワード・G・ロビンソンとマックィーン)

 後半に老女のディーラー(配り手)が登場し、このベテラン女優が大変印象的なのだが、彼女はジョーン・ブロンデルと言って、戦前の大スターだったことを今になって知った。
 冒頭の葬式シーンと途中の闘鶏シーンはドキュメンタリータッチの撮影で臨場感があって良かった。また、ちょっとだけだったが酒場で歌うおばさんジャズシンガーと年老いた演奏者は一体誰なのか、知りたいと思う。


(若き頃のジョーン・ブロンデル)

 音楽は、まだ無名だったラロ・シフリン。ラストにレイ・チャールズの主題歌が流れる。
 『シンシナティ・キッド』は、今にして振り返れば、新旧とりまぜた俳優とスタッフの意欲作であり、スティーブ・マックィーンにとってもその後10年の活躍を予測しうる作品だったと言える。かく言う私も、この映画を観て以後、マックィーンの映画が掛かれば、必ず映画館へ足を運ぶことになった。『ネバダスミス』、『砲艦サンパブロ』、『華麗なる賭け』、『ブリット』、『栄光のル・マン』、『ゲッタウェイ』、『ジュニア・ボナー』、『パピヨン』、『タワーリング・インフェルノ』など、今でもまた観たいと思う映画ばかりである。




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