充電日記     

オフな話で一息を。

文法事項で概念崩し

2008年06月16日 | 学問・大学
・「未然形…… 「形」とは言うけれど、連用形・終止形・連体形とは違って、意味による名前だよね。「未だ然(しか)らず」。ね、〈まだ実現してませんよ〉形なのさ。だから、まだ実現していない動作・行為をあらわす時の形です。未来や意志や打消の助動詞が付くのもうなずけるでしょ?
・「今、「だから」と言ったけれど、本当は逆だけれどね。〈まだ実現してませんよ〉を現わす助動詞が付く形だったので「未然形」と呼んだ、というのが順序です。そのあたり、面倒なので「未然形だから未来を現わすのに適している」なんて言うわけですが、ちゃんと断りがないといけませんね。
・「さて、奈良時代の完了の助動詞リ。このテキストだと単に「四段動詞は命令形に接続」となってます。が、上記ことを踏まえれば、変だというのが分かりますか? 実は〈まだ実現してない〉から命令するんでしょ? 言ってみれば、命令形だって未然的要素があるものなのさ。なのに、奈良時代では完了(!)の助動詞が付くっていうんだから。どこかに辻褄合わせがありそうだ、と疑えるよね。
・「平安時代のカガハバマ行の四段動詞なら、已然形・命令形はケゲヘベメになる。これなら完了リは、已然形(すでにそうなっている形)と相性が抜群なので問題なし。「已然形に接続する」でよい。ところが、奈良時代のケゲヘベメという音には二種類の区別があった(上代特殊仮名遣のためだね)。調べてみると、已然形は乙類、命令形は甲類になっていたわけ。
・「で、こんどは完了リを調べてみると、甲類のケゲヘベメに付いていた。乙類のケゲヘベメには付いていない。そこで、「完了リは命令形接続」となるわけ。どう、分かる? 難しい? 実は三段論法のマジックがあるんだけど、分かるかな。最近は「ゲーム脳」とか騒がれていて、反射的な回答しかできないんじゃないかと恐れております。なので、私からは正解は言いません。このくらいは考えましょう。
・「已然形に2種類あると考えるといい。普通の已然形は乙類なんだけれど、完了リだけが接続する甲類の已然形というわけ。だから、已然形の欄にはカ行四段なら「ケ甲/ケ乙」とあればいいだけのはなし。現代のカ行五段活用だって未然形のところには「カ/コ」、連用形のところには「キ/イ」とあるじゃないですか。2形式載せて何が悪い、ってとこですね。

・という話をすると、みんなガツンと殴られたように思うらしい。「今までの常識って何? 本以外に何を信じればいいの?」。でも、これをやらないと大学の講義ってはじまらないようなところがありますからね。一方では、「未然形/已然形」なんかの意味も初めて(!)説明されて納得もしている風。

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3 コメント

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Unknown (捨豚)
2008-06-18 22:47:59
・未然形にはル~ラル,ス~サスも付きます。「未然」とは本来無関係でしょう。
・「鏡に色形あらましかば,映らざらまし」(徒然草)の「映ら」は未然形ですが,実際は映ります。
・「完了リだけが接続する甲類の已然形というわけ」はいいアイデアですね。ただ,乙類已然形は係助詞の結びにもなる,叙法含みの形です。推量ムも乙類已然形を持っています(まだそうなっていない)。已然形に助動詞が付くとするより,完了リの前の形は「第 2 連用形」とでも呼ぶほうがよいように思います。
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Unknown (佐藤)
2008-06-19 23:31:58
お教え、ありがとうございます。
・ル・ラル、ス・サスが未然形に接続することは、この際、無視していました。六活用形で何とかまかなおうとすることの限界を感じます。本式の説明をすべきだと思います。が、相手は教育学部の学生ですので、学校文法の範疇で収めることも必要なと余計な配慮がはいり、中途半端になったかと自省しております。
・完了リも、そうですね。出自を考えれば「第二連用形」がよい(連用形は万能ですね)。ここでもやはり、「余計な配慮」が入ってしまいました。
・学校文法的活用形のほかに、意味・表現形とでもいうべきものを、きちんと教えたいところです。が、これまた「余計な配慮」のため、断片的に語るだけになってますね(「「静かにする!」でも命令を表現できるよね」)。
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Unknown (佐藤)
2008-06-20 23:17:08
反実仮想や反語での「裏の(真の?)意味」などは、語用論的なものとして、一旦括弧でくくって、狭義の文法から切り離す立場もありそうですね…… 出張先のホテルその1がダメダメで、睡眠不足の頭でふと思い浮かんだことなので、無責任きわまりないことですが。
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