随縁記

つれづれなるままに、ものの歴史や、社会に対して思いつくことどもを記す

交渉術とWIN、WINの原則

2005-09-20 12:57:26 | 経済
ビジネスの実務とは、基本的には交渉事である。ビジネスとしての交渉の基本とは、要約すると以下のようになる。
まず、商品又はサービスを、それを必要とすると思われる所へ、商品又はサービスの特徴と、それを使用する事のメリットを訴求し、その代価としての条件提示を行う。
そして提案条件に対する先方の受け入れ可能条件や、拒絶反応をみながら更なる条件提案を繰り返して、双方納得できる妥協点を見いだす事が出来れば交渉成立となる。

交渉事には、ビジネスとしての交渉の他に、個人同士の問題解決の交渉、個人と企業の問題解決交渉、企業同士の交渉、企業と国家の交渉、そして外交交渉という国家間の交渉まで、さまざまなレベルの形態がある。
しかし、どのレベルの交渉でも、その基本は同じである。

基本の第一は、事前準備を入念に行うことである。まず交渉相手の情報を集めて、分析しなければならない。
交渉相手が企業であれば、企業の内部状況と企業の業績や問題点を発見する。
企業の成長の要因は何か。成長の継続性はあるのか。或いは赤字の原因は何か。構造的赤字か、一過性の赤字なのか。財務バランスはどうなっているか。資産は増加しているか、減少しているのか。経営者はワンマンか。経営者の性格的な弱点は何か。中堅の人材は育っているのか。

交渉相手の企業情報は、多い程分析に役に立つ。その分析された情報結果を基にして、ビジネス戦略を立案する。
交渉相手の内部的問題点や構造的弱点を把握した上で、提案する商品又はサービスを利用することで、交渉相手の抱える問題点の解決に役立ち、さらに具体的数値としてのメリットを、グラフその他ビジュアルに提案書にまとめておく。
そして、交渉相手企業の、誰を交渉窓口にするかを決める。企業によっては、決められた窓口を通す事を要求されることも多い。その交渉事項に対して、窓口の担当者が決定権を有しているのか、情報が必要である。

ここまで事前の準備を整えれば、商談は半ば成功したとも言える。
秀吉は、木下藤吉郎時代から、相手を理解した上での交渉事には天分を発揮した。
相手のレベルに応じて充分なメリットを与えた上で、秀吉の大いなる戦略的希望条件をのませるから、必ず成功した。
また、戦(いくさ)では、一度も負けたことがない。
なぜなら、戦(いくさ)の現場に到着する前に、戦略的にさまざまな手を打ち、戦(いくさ)相手の戦意を失わせるか、または内部に協力者をつくって内部崩壊をさせるか、戦相手の協力者を懐柔して裏切らせるか、ともかく現場に到着する前に勝負が付いている。
つまり、戦(いくさ)相手を徹底的に研究し、相手の弱点や問題点を利用して、先手を打って布石が済んでいる。だから、殆ど戦死者のでない戦ばかりであった。
戦場は、いわば相手の面子をたてて先方の降伏を受け入れる、儀式の場でしかなかった。
このことは、ビジネスの戦いでも原理は同じなのである。

基本の第二は、交渉のテーブルでは、できるだけ喋らない方が良い。
事前準備が充分に整い、交渉のテーブルに就いても、いきなり提案書を広げて一方的に喋る事は厳禁である。
まずは、計画されたさまざまな誘導的な質問を並べて、交渉相手に喋らせることである。
交渉相手自身に、問題点を喋らせることができれば、交渉は成功したも同然である。
交渉相手が、自身の抱えている問題点に気が付くように、質問を誘導することが交渉技術となる。

問題点がはっきり相手に認識された時に、はじめてその問題解決案としての提案書を提示し、その要点を短く説明する。
そして、しばらく相手の反応を見る。ここで慌ててはいけない。追加説明も加えず、じっと先方の反応を注視する。
提案書を見て、交渉相手が発する質問や評価反応に依って、問題解決への提案を相手がどの程度理解したか、あるいは本当にその問題を解決する意志があるのか、又は予想していなかった障害がまだ残っているのかが分かる。

相手の反応を見ながら、さらに質問を繰り返すことで、新たな問題や課題が明確になってくる。さらなる問題があれば、その解決方法について再提案を行えば良い。
決定権があるのか、決定するための隠れた障害があるか、提案の何処に問題を感じているのか、交渉相手に、如何に喋らせる工夫をするかが、最大のポイントである。
相手が喋ることで、相手の状況が手に取るように分かり、交渉条件の変更もスムーズに行える。

交渉過程で、交渉相手の問題点が明確になり、その解決提案方法を具体的に提案し、その実行条件設定を行って締結を促す。
いわゆるテストクロージングという技術である。
テストクロージングによって、その提案した条件設定について、まだ受け入れるには問題があるかどうか探るのである。
価格だけの問題なのか、付帯する条件に不満なのか、支払い条件に問題があるのか、それとも角度の違う問題があるのか。
問題点にたいする解決案を提示して、さらにテストクロージングを繰り返して次の問題点を探り出す。
こうして、交渉妥結の問題点を明確にして、妥協点を見いだしていくのが交渉というものである。

この交渉過程に於いて、基本原則は「WIN、WIN」の原則を守らねばならない。
この「WIN、WIN」の原則とは、双方が勝者として満足できるという意味である。
つまり、どちらもがメリットを共有できる妥協点があるという事である。
秀吉の交渉事が全て成功したのは、この「WIN、WIN」の原則を守ったからである。
だから、後で相手が裏切るというような事態は招いていない。

どちらかの、一方的犠牲的な譲歩で、片方が敗者の意識が残る交渉結末では、必ず将来の禍根を残す。
つまり売り手側が、相手の無知につけ込んで一方的に暴利を貪る、或いは買い手側の優越的な立場で、売手側の深刻な犠牲を要求した交渉結果などは、必ず何らかの報復を何時かは受けることになる。
交渉事は、ビジネスであれ、外交交渉であれ基本原則は同じである。
また、通常の人間関係に於いても、「WIN、WIN」の原則が適用される。
常に、一方的な誰かの犠牲の上で、得られる自己の幸せというのはあり得ないのである。

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