随縁記

つれづれなるままに、ものの歴史や、社会に対して思いつくことどもを記す

企業のM&A

2005-11-09 01:23:59 | 経済
楽天による、TBSの大量株式取得による経営統合提案、そして村上ファンドによる阪神電気鉄道株式の大量取得など、相次ぐM&Aの動きが活発となり、ニュースを賑わしている。
上場されている株式は、当然誰でも何処の会社の株式でも買うことが出来る。
だから、上場企業の経営者は、安定株主を確保しながら同時に株価の動向を常に把握して、今だれが株を買っているかに注意を向けている。
そうでないと、TBSのように突然19%も株を取得されて、経営統合提案を受けることになる。

そこで、一体会社とは誰のものかを考えてみたい。
株式会社は無論株主が資本を出して、経営者が企業の実務を担当して収益を上げ、株主へ利益還元するというのが基本構造の話しである。

しかし、むろん企業は株主と経営者だけでは成立しない。
経営とは、社会に価値ある商品やサービスを、組織として体系的に継続的に提供することとである。
だから、実務を担当する従業員の創意工夫や、顧客満足を継続して提供できる必死の努力、そして製品の原材料や技術サービスを供給する取引先が必要となる。
さらに重要なのは、継続的にその企業が提供する商品やサービスを、消費する顧客が必要である。

このように企業が成立するためには、資本家とそれを元手に企業を経営する経営者とその従業員、そしてその企業活動を支える取引先、さらにその企業が提供する製品やサービスを消費する顧客から成り立っている。
だから、資本家が単に資金を出したから、企業は資本家のものという単純なものではない。

資本がなければ無論企業の形は出来ないが、企業という組織の形を作っても、そこで働く従業員の努力とその総和が生み出す商品価値、すなわち企業価値がなければ企業として存在はできない。
企業に働く従業員の日々の創意工夫と、顧客満足をうる商品やサービスの提供価値によって企業の利益が生まれる。

つまりは、資本だけあってもなにも価値は生まれない。
従業員がいても、あるいは商品が有っても、働く意欲が少なく不平不満が多いと、顧客満足を得る商品やサービスの安定供給が出来ず、クレームが多発して利益を上げることが出来ずに企業価値を失い、やがて資本家の株式は紙くずと成り果てる。

企業価値とは、経営者のリーダーシップと従業員のたゆまぬ努力と創意工夫と、それを支える取引先企業群や地域社会とのコラボレーションによって価値が生み出される。
現代では、一企業単独だけで、完結した商品を創り出すことは、およそ不可能である。
企業を取り巻く人々が、すなわち従業員と取引先企業とその商品やサービスで満足をうる顧客とで創り出す、独特の企業文化が価値を持つのである。

だから、勝手に株式を買い集めて、大株主だから言うことを聞けというM&Aの強引な手法には問題が多い。
最近のM&Aの動きには、株主の権利だけが主張されていて、そもそも企業は社会的な存在であるという認識が希薄である。

最近の強引なM&Aの強引な手法は、企業文化や風土を無視して、資本だけの論理で買収するのは、M&Aの先進国のアメリカでも、結果として失敗することが多い。
松下電器産業が、アメリカの映画・娯楽産業の大手のMCAを買収した(1990年)が、失敗に終わって95年に売却している。
買収した当時は、ハードとソフトの融合で新しい企業価値を生み出すとしていたが、ハードとソフトという全く違った文化風土で育った異質の企業同士では、融合は困難であった。

国内でも長い歴史と独特の企業文化を有する企業と、インターネット関連のように歴史が極端に短く異質の文化風土の企業では、コラボレーションは特に困難である。
楽天の三木谷社長は、TBSとの企業統合によって、アメリカのAOLタイム・ワーナーのような企業統合を目論んでいると思われる。

しかし、鳴り物入りで合併後したAOLタイム・ワーナーは、期待した合併効果は得られていない。
両社の株式総額は3500億ドル(約36兆8725億円)、売上高は合計300億ドル(3兆1605億円)という巨大な企業統合であったが、結果としては双方が大きく売上を減少させている。

2005年09月、タイムワーナー社が、同社のインターネット部門であるAOL(アメリカ・オンライン)を、マイクロソフト社に売却する交渉を進めていることが米国のメディアで報じられた。
ITバブルの絶頂期、AOLはIT企業の旗手として時価総額が急成長し、2001年1月にタイムワーナー社の買収に成功し、AOLタイムワーナーが誕生している。
しかし、ITバブルの崩壊後、インターネット部門の成長が鈍化し、合併後の企業名からAOLを外す事態に追い込まれた。
そして、AOL創業者のキース会長も事実上、合併後の業績不振を理由に更迭された。

当初はAOLが、タイムワーナーを飲み込んだ合併であったのに、最後はAOLがタイムワーナーから追い出されるという皮肉な結末を迎えることを意味している。
ITバブルの崩壊後、ドットコム企業の倒産が相次いだ時期もあり、最近は再び回復傾向にあるが、そうした中で報じられた今回のニュースは、時代の移り変わりを象徴しているのかもしれない。

このような結末を楽天の三木谷社長はどう捉えているのだろうか。
一時の成功で、思い上がるは自己の破滅を迎える事を肝に命じる必要がある。
多くの成り上がりの企業経営者が、企業を支えてくれている従業員や取引先との信頼関係や企業文化を忘れ、時に顧客満足さえ忘れて独善に陥って、没落した経営者が実に多い。

企業の価値を誤解して、企業をまるで完成した商品のように簡単に売り買いすると、とんでもないことになることを知るべしである。