随縁記

つれづれなるままに、ものの歴史や、社会に対して思いつくことどもを記す

小泉首相靖国参拝

2005-11-06 01:25:34 | 政治
第三次小泉内閣が発足して、新しい閣僚も活動を開始しているが、今あえて靖国問題を取り上げる。
今年も(10月17日)小泉首相は靖国神社を参拝した。
従来こだわってきた八月十五日を避け、今回は拝殿にも登らず記帳もせず、しかも礼服も着用せずに一般参拝者と同じ方法で参拝した。今回はあくまでも私人としての参拝を演出した参拝であった。

報道によると、中国の李外相は中国外務省に阿南駐中国大使を呼びつけ、首相の靖国参拝について「中国政府と中国人民は、強い憤慨を表明する」と抗議している。両国関係修復のため今週末まで最終調整されていた町村外相訪中も中止なった。
阿南大使は「私的参拝だ」と釈明したが、「良識有る人はそのような弁明を受け入れられないだろう」と反論している。

第三次小泉内閣が発足してからも、中国外務省は、「問題の解決は、靖国神社参拝を止めることだ。特に首相、外相、官房長官の靖国参拝を認めることはできない」と更に釘をさしてきた。

韓国の青瓦台当局者は、小泉首相の靖国神社参拝を受けて、十二月に開催予定の日韓首脳会談の先送りを明らかにした。両首脳は年二回程度、交互に相手国を訪問するシャトル外交を展開していたが、今日以降は日程を検討しているとは言えないとしている。

首相の靖国神社参拝に対する、小泉首相の頑固さと、外交音痴にも驚いているが、中国と韓国のあまりの執拗な過剰反応にも、いささか驚きを禁じ得ない。
無論、確かに、過去に侵略戦争を起こした側と、被害を受けた側との意識の差かも知れないと思いつつも、やはり少し過剰反応ではないかと思う。

両国に対して、過去に何度も謝罪し、二度と過ちを繰り返さないと誓っている。
当然戦後賠償も実施しているし、戦後は平和を誓い、経済面で緊密な関係を維持してきた。
戦後、日本人は軍国主義から解放されて、持ち前の器用さと勤勉さと創意工夫によって、経済大国として復興を果たした。
そして、侵略戦争で多大な迷惑をかけた東南アジアに対して、経済力に見合うODA開発援助も実施して、それなりに貢献してきている。世界からも日本の平和路線は認められ、国連でも重要な役割を果たしている。
中国と韓国は何故に、戦後60年も経つ今日、これほどにも靖国問題を事々しく取り上げるのか。

中国や韓国の一般国民にはそれほど関心もない事柄を、外交の重要課題に取り上げているのには、何か違う別の政治的意図を感じざるを得ない。
中国と韓国ではその抱えている内政の課題は異なるが、兎も角も深刻な内政の問題が表面化しないように、民族感情という非常にネガティブな感情に訴えて、国民の意識を外へ向けている。

中国は今、経済の急膨張期にある。人件費の安さで、世界の工場としてその役割は重要なものとなってきている。
しかし、経済の急膨張に伴い、中国社会の歪みと亀裂は深まる一方である。
都市と農村、沿海部と内陸、そして個人間と、あらゆるところで経済格差が拡大している。
貧困農民や失業者など、社会的弱者の抗議行動は昨年、10年前の7倍以上の7万4000件にも上った。

政府直属の研究機関の最新報告は、格差拡大をはじめとする社会的、経済的問題を今後5年間放置すれば、体制を揺るがす危険水準にまで悪化する、と警鐘を鳴らしている。
中国共産党の第16期中央委員会第5回総会は、「あらゆる手段を尽くして農民収入を増やす」ことを確認したが、都市と農村の収入格差は3倍強に広がっている。一朝一夕には解決できないであろう。

あらゆる問題の根底にあるのが、共産党の一党独裁という、閉塞(へいそく)した政治体制である。中央や地方の党幹部の職権乱用や腐敗に対する不満は募る一方である。
そこで、どうしても民族感情を煽って、国民大衆の不満をそらす必要から、日本叩きを続けているとしか言いようがない。

急成長している中国経済にとって、将来のエネルギー不足も大きな課題である。そこで、なりふり構わず東シナ海で進めている天然ガスの開発問題がある。
東シナ海の海底地下資源開発に関する日本の抗議を、靖国問題を外交上大きく取り上げて、日本を牽制する道具にしているとしか思えない。

小泉首相の考え方にも一理あるが、単なる公約では済まされない重大な外交問題となっているのは事実である。
中国は、冷静に「靖国問題」を上手に外交戦略として利用し、日本牽制に利用している。 
両国とも経済関係でいえば、抜き差しならぬ関係ができ上がっている。日中どちらも相互依存関係を崩すと、世界的な大混乱を招くだろう。
双方が、それぞれの政治的立場をもう少し配慮して、双方ともが冷静な大人としての関係を持たねばならない。

米紙ニューヨーク・タイムズは、小泉首相の靖国神社参拝を「無意味な挑発」と批判する社説を掲載した。
社説では靖国神社が「韓国や中国で日本が働いた残虐な行為について非を認めない見解を広めている」としたうえで、その参拝は「日本の戦争犯罪の犠牲になった人々の子孫を意図的に侮辱するものだ」と断じた。
また、「日本が帝国主義的な征服に再び乗り出す懸念はだれも現実には抱いていない」としながら、「こうした挑発は中国が経済の極めて重要なパートナーになり、最大の地政学的な課題にもなりつつある時代には無用のことに思える」と指摘した。
 そのうえで「今こそ日本は20世紀の歴史に向き合うべきだ」としている。