とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

新型コロナウイルス対策の将来像「ワシならこうする」

2020-06-13 10:56:47 | 新型コロナウイルス(疫学他)
『新型コロナウイルス対策の将来像ーワシならこうするー』
開発中のものも含めて診断法や治療薬も出そろいつつある中で、ある程度現在のパンデミックが収束した後の、全くエビデンスのない将来予測をしたためてみます。
1)水際対策は重要です。どこかの国で感染患者の急増が見られたら速攻でアラートを鳴らし、来日者のスクリーニングを強化する。スクリーニング法は下記にも書きましたが抗原検査。
2)無症状感染者の検出は無理なので、感染者がある程度増えた段階では全員が感染者と考えて接触制限をせざるを得ない。ただし「増えた」と言えるのは、東京なら1日の新規感染患者数が100人以上というレベルか(根拠なし)。ロックダウンはせず三密回避を徹底する。
3)発症患者の早期発見はとても重要。PCRも簡便になってきましたが、迅速性やコストなどを考えると何といっても抗原検査が有望と思います。抗原検査の良否は使用する抗体の良否にかかっています。現在の抗原検査はSARS-CoVの抗体を使用しているものが多いので、感度・特異度とも問題がありますが、そのうち良い抗体ができれば抗原検査の感度・特異度は劇的に改善すると思います。
4)ワクチンができたとして(DNAとかmRNAワクチンとかではなくちゃんとしたワクチン)、供給やコストを考えれば全員が接種する必要はないように思います。まずは手前味噌ですが医療従事者と高齢者でしょうか。
5)感染者と濃厚接触をしたら?難しいですが、私ならアビガン内服と、ヤバそうなら抗体製剤の投与を受けますかね。症状が悪化するようなら抗IL-6受容体抗体かな。後は呼吸補助を受けながら運を天に任せる。
以上なんの根拠もない「ワシならこうする」的な居酒屋のおっさん話でした。

ダイヤモンドプリンセス号乗船者における無症状感染者についての報告

2020-06-13 09:48:28 | 新型コロナウイルス(疫学他)
藤田医科大学および厚生労働省名古屋検疫所からのダイヤモンドプリンセス号乗客・船員に関する報告です。ダイヤモンドプリンセス号では当初は症状のある患者のみPCR検査が行われましたが、その後検査の対象は乗客、船員全員に広げられました。その結果3月5日の段階で410人の「無症状感染者asymptomatic confirmed cases」が見つかりました。その中で79人(19%)はその後COVID-19症状が出現したため「未発症患者presymptomatic patients」であったと考えられました。4月30日の段階でやはりasymptomaticであった感染者が310人いました。その後96人の無症状感染者および32人の同室者(乗船中はPCR陰性)が藤田医科大学の未稼働の病棟に隔離されました。連続2回陰性になるまで繰り返しのPCR検査や症状の観察が続けられ、COVID-19症状が出た場合には急性期病院に転送されました。また同室者についても検査および観察が行われました。
96人の無症状感染者のうち11人(11%)が中央値4日(3-7日)で発症し、未発症患者であったと診断されました。発症のリスクは高年齢ほど高いことがわかりました(1歳ごとにOR 1.08, 95% CI 1.01-1.16)。32人の同室者のうち、病院についてから72時間以内に8人がPCR陽性になりましたが、無症状のままでした。結果として90人はPCR陽性後、感染がおさまるまで無症状のままでした。無症状感染者であった58人の乗客、32人の船員の年齢の中央値は59.5歳(IQR 36-68歳; 範囲9歳―77歳)でした。24人(27%)は高血圧(20%)、糖尿病(9%)といった併存症を有していました。初回PCR陽性だった時から2回連続で陰性になるまでの日数は中央値で9日、8日目、15日目で陰性だった人は48%, 90%でした。やはり年齢が高くなると陰性化までの日数が長くなり、グラフを見ると特に50歳以上になると直線状に延長していることがわかります。
Supplementary dataとして詳細なPCR検査の経過も記載されています。また発症した患者11人のPCR陽性から発症までの日数や発症時の症状などのデータも記されており、大変丁寧な報告だと思います。
この報告のメッセージはいくつかあると思いますが、1つ重要な点は全く無症状で経過する感染者がかなり多いということです。これらの患者がどの程度周囲への感染性を有していたのかはわかりませんが、同室者のうちPCR陽性になったのが25%程度(8/32)だったというデータは、感染性が非常に高い訳ではないと思われます(それこそ三密の状態だったでしょうから)。発症するかどうかは、どの程度のウイルス量に曝露したかによります。したがってやはり発症者の方が(咳もするし)、排出するウイルス量も多く、それだけ周囲の人への感染リスクも高いと考えられます。
第2波のリスクなどが叫ばれる中、社会としての対応に苦慮しているわけですが、同室者で陽性になった8人は全員が発症しなかったことを考えると、私としては無症状感染者との接触は、飲食を伴わず、特にマスクを着用している場合には感染リスクは少なく、万一感染した場合でも曝露ウイルス量が少ないことから、発症するリスクは少ないのではないかと考察しました。皆さんのご意見はいかがでしょうか?
Natural History of Asymptomatic SARS-CoV-2 Infection
DOI: 10.1056/NEJMc2013020

冬眠hibernationと非活動状態torporの脳科学

2020-06-12 20:28:16 | 神経科学・脳科学
新型コロナウイルス感染症の流行のせいで体温計が品薄になっているようです。今は削除されていますが、流行当初は感染の徴候として「37.5度以上が4日間続く」というような目安が提示されていましたが、体温に関してはわずか0.5度違いが大きな意味を持つことからもわかるように、生体において体温は極めて厳密に調節されています。体温の調節機構には脳が極めて重要な役割を果たしており、中でも視床下部の最吻側に位置する視索前野(preoptic area)と呼ばれる領域は体温調節中枢として作用し、感染時の発熱を指令する発熱中枢でもあることが明らかになっています(Morrison and Nakamura,Annu Rev Physiol. 2019 Feb 10;81:285-308)。その一方で動物では冬眠(hibernation)や非活動状態(torpor)という状態が知られており、不活動になるだけではなく体温の低下や代謝の低下が見られます。このような状態もまた脳によって調節されていると考えられますが、その詳細は明らかではありませんでした。今回Natureに発表された2報の論文は、それぞれ異なるアプローチを用いて冬眠や非活動状態を制御するneuronの同定を報告しています。
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筑波大学と理化学研究所のグループはpyroglutamylated RFamide peptide (QRFP) というペプチドに注目しました。QRFPは元々bioinformaticsによって同定されましたが、摂食や交感神経制御、不安などに関与していることが明らかになっています。QRFPは視床下部に特異的に発現しますが、中でも外側野(lateral hypothalamic area, LHA)、灰白隆起(tuber cinereum)、周室核(periventricular nucleus)で高い発現が見られます。著者らはQRFP産生neuronに特異的にiCreを発現するマウス(QrfpiCreマウス)を用いて、DREADD(designer receptors exclusively activated by designer drugs)agonistであるclozapine-N-oxide(CNO) によってQrfp発現neuron(Q neuron)を活性化すると、褐色脂肪組織(brown adipose tissue, BAT)が豊富な部位の皮膚温とともに体温の低下や不活動が誘導されることを見出しました。またアデノ随伴ウイルスベクターを用いてQrfpiCreマウスのneuronにhM3Dq-mCherry発現を誘導し、CNO依存的にhM3Dq発現neuronを活性化することができるマウスを作成しました。このマウスを用いて、前腹側脳室周囲核(anteroventral periventricular nucleus, AVPe)および内側視索前野(medial preoptic area, MPA)のneuronを特異的に活性化したところ、体温低下、運動低下が見られることがわかりました。BATの著しい温度低下(20度以下)は48時間以上持続し、酸素消費量も低下していました。このような状態(Q-neuron-induced hypothermia and hypometabolism, QIH)においては、呼吸数や心拍数も低下し、脳波の振幅も低下しており、体重も減少しました。CNOの効果がなくなってもすぐに戻ることはなく、徐々に体重は回復しました。回復後は脳や臓器の障害は見られず、行動にも異常はありませんでした。つまりQIHは冬眠と類似した状態であると考えられました。次にQ neuronが投射するneuronをオプトジェネティクスの手法で活性化することで、Q neuronは視床下部背内側部(dorsomedial hypothalamus, DMH)に作用することでQIHを誘導することを示しました。またQ neuronの中でvesicular glutamate transporter 2 (VGLUT2) を発現する興奮性neuronおよびvesicular GABA transporter(VGAT)を発現する抑制性neuronが協調してQIHの誘導に働き、特にVGLUT2発現neuronがQIHの誘導に重要な役割を果たすことも明らかになりました。
 一方Harvard大学のMichael E.Greenbergらのグループはマウスを飢餓状態においた際に運動低下と体温低下が生じる非活動状態(torpor)に着目し、この時活性化するneuronとして内側・外側視索前野の前腹側領域(the anterior and ventral portions of the medial and lateral preoptic area, avMLPA)が重要であることを明らかにしました。またこの時活性化するneuronをsingle-nucleus RNA-sequencing(snRNA-seq)でサブグループに分けることにより、glutaminergic Adcyap1陽性のneuronを同定しました。このneuronを刺激するとtorporが誘導され、このneuronを欠失させるとtordorの誘導が抑制されました。
 冬眠とtorporは異なる現象のようですが、これらの研究から視索前野preoptic areaに存在する様々な種類のneuronが体温のセットポイントを制御している可能性が示されました。同定されたこれらのneuronがどのような相互作用を有しているのかも興味深いところです。またヒトにおいても同様のメカニズムがあるとすれが、脳梗塞時の低体温療法のような新たな治療法開発にもつながる可能性があります。それにしてもこのように精緻な脳領域の機能同定が可能であるというneuroscienceの進歩にも本当に驚かされます。 

Takahashi, T.M., Sunagawa, G.A., Soya, S. et al. A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2163-6 
Hrvatin, S., Sun, S., Wilcox, O.F. et al. Neurons that regulate mouse torpor. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2387-5
Clifford B. Saper & Natalia L. S. Machado. Flipping the switch on the
thermoregulatory system. Nature https://doi.org/10.1038/d41586-020-01600-5



COVID-19陽性の大腿骨近位部骨折患者の生命予後

2020-06-11 14:17:02 | 整形外科・手術
以前紹介したLancetの論文では、COVID-19患者における整形外科手術299例において、30-day mortalityが71.2%、肺合併症率が55.7%だったという極めて高いリスクが報告されていました(COVIDSurg Collaborative. Lancet 2020. May 29;S0140-6736(20)31182-X. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31182-X)。このうち115例が大腿骨近位部骨折患者であったことから、次に大腿骨近位部骨折のリスクという観点で調べてみました。
1)Josep Maria Muñoz Vives et al., J Bone Joint Surg Am. 2020 May 6. doi: 10.2106/JBJS.20.00686. "Mortality Rates of Patients With Proximal Femoral Fracture in a Worldwide Pandemic: Preliminary Results of the Spanish HIP-COVID Observational Study"
大腿骨近位部骨折患者136名を対象とした。これらの患者のうち、124例が外科的治療、12例が保存的治療。総死亡率は9.6%であった。62人の患者がCOVID-19の検査を受け、23人の患者が陽性であった。これら23人の患者の平均追跡期間14日での死亡率は30.4%(23人中7人)であった。検査を受けて陰性であった患者の死亡率は10.3%(39例中4例)、検査を受けていない患者の死亡率は2.7%(74例中2例)であった。非手術で管理された12例のうち、8例(67%)が死亡したのに対し、外科的治療を受けた124例のうち、5例(4%)が死亡した。結果は施設間で異なっていた。以上よりCOVID-19患者の大腿骨近位部骨折患者においては死亡率が高い可能性がある。
2)Kenneth A Egol et al., J Orthop Trauma. 2020 May 27. doi: 10.1097/BOT.0000000000001845. "Increased Mortality and Major Complications in Hip Fracture Care During the COVID-19 Pandemic: A New York City Perspective"
New Yorkからの報告。大腿骨近位部骨折患者138人中17人(12.2%)が検査でCOVID-19陽性と確認され(C+)、14人(10.1%)は感染が疑われたが検査を受けなかった(Cs)。C+コホートは、CsおよびC-コホートと比較して、死亡率の増加(35.3% vs 7.1% vs 0.9%)、入院期間の延長、重篤な合併症の発生率の増加、術後の人工呼吸器の必要性の発生率の増加が認められた。COVID-19はパンデミック中の大腿骨近位部骨折患者の死亡率が増加している。
3)Drake G LeBrun et al., J Orthop Trauma. 2020 May 27. doi: 10.1097/BOT.0000000000001849. "Hip Fracture Outcomes During the COVID-19 Pandemic: Early Results From New York"
これもNew Yorkからの初期の報告。大腿骨近位部骨折患者59例中COVID-19陽性が10例(15%)で、40例(68%)は陰性、9例(15%)は検査せず。米国麻酔科学会(ASA)スコアはCOVID+群で高かったが、Charlson Comorbidity Indexは両群間で同程度であった。入院死亡率はCOVID+コホートで有意に増加した(56% vs 4%;OR 30.0, 95%CI 4.3-207;p=0.001)。1例の推定陽性症例を含めると、この差が増加した(60% vs 2%;OR 72.0, 95%CI 7.9-754;p<0.001)。
ということで少なくともパンデミック最中ではCOVID-19陽性患者における大腿骨近位部骨折患者の死亡率は高くなるようです。








外来リウマチ性疾患患者におけるCOVID-19感染(イタリアLombardy地方からの報告)

2020-06-11 13:40:26 | 新型コロナウイルス(治療)
イタリアのLombardy地方の2つのクリニックに通院するリウマチ性疾患患者の新型コロナウイルス感染症の頻度や重症度に関するサーベイの結果です。955人の患者(RA 531人、PsA 203人、SpA 181人、その他40人、平均年齢53.7歳、女性67.4%)を調査ました。47.3%は生物学的製剤の単独使用で、43%超の方が一つ以上の併存症(高血圧20%など)を有していました。このうち鼻腔咽頭swabの検査によってCOVID-19と診断されたのは6人(RA3人、SpA2人、サルコイドーシス1人)で5人は抗TNF-α製剤(etanercept3人、adalimumab1人、infliximab1人)、1人はabataceptで治療を受けていました。4人はcsDMARD(MTX2, LEF1, SASP1)、2人はヒドロキシクロロキンを内服していました。3人が入院しましたが、重症者や死亡例はありませんでした。診断後一時的にヒドロキシクロロキン以外のcs/bDMARDによる治療を中止しました。COVID-19の罹患率は0/62%で、一般人の感染率(0.66%)と変わりありませんでした。ほとんどの患者は治療を続け、疾患活動性にも変化はありませんでした。144人は呼吸器症状を呈しましたが、PCRは行いませんでした。以上の結果より、リウマチ性疾患患者においてCOVID-19の感染率が高いということは言えず、少なくとも感染が明らかになるまでは原疾患に対する適切な治療を続けるべきだという結論です。
Ennio Giulio Favalli et al., Arthritis Rheumatol. 2020 Jun 7. doi: 10.1002/art.41388. 
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/art.41388