とはずがたり

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自衛隊中央病院からの報告(ダイヤモンド・プリンセス号)

2020-06-16 15:30:06 | 新型コロナウイルス(疫学他)
自衛隊中央病院に入院したダイヤモンド・プリンセス号の乗客および船員104人についての詳細なデータがLancet Infect Disに報告されました。全員PCRでSARS-CoV-2陽性で、男性52%、何らかの併存症を有していたのが50%(心血管病30%、糖尿病7%など)でした。43人(41%)は全く症状のないasymptomatic、41人(39%)はmild 、20人(19%)はsevereに分類されました。Asymptomaticの43人中発症したのは10人(23%)、うち3名はsevereでした。Asymptomaticあるいはmildの患者84人のうち、重症化したのは8人(10%)でした。
最終観察時までに発症したのは71人で、14人(20%)に酸素投与が必要、1人は補助換気が必要でした。治療としては10人(14%)が抗菌薬、5人(7%)がlopinavir-ritonavir(カレトラ®)の投与を受けました。
最後までasymptomaticだった患者33人のうち17人(52%)は胸部CTで様々なパターンの異常像を呈しました(lateral, bilateral, ground-glass opacities, multifocal groud-glass opacities, consolidation, crazy-paving appearance, nodule lesion)。Asymptomaticからsymptomaticになった患者(10人)とasymptomaticのままであった患者(33人)との間に性別、喫煙の有無、併存症、CT所見、血液データなどにほとんど差はありませんでしたが、入院時血清LDH>230 IU/Lの割合が50% vs 12%(OR 7.25, 95% CI 1.43ー36.70; p=0.020)と有意に発症群で上昇していました。重症化した8人は全例で症状が出る前にCT異常像が見られました。
最終観察時にsevereであった患者は、asymptomaticあるいはmildだった患者と比較して、入院時に高齢で(75歳 vs 67歳)、CTの肺野異常率が高く(100% vs 59%)、CRPが上昇し(88% vs 45%)、リンパ球が減少(63% vs 25%)していました。またmildの患者に比べると、severeの患者はCT上浸潤影consolidationを示す割合が高く(OR 3.27)、リンパ球減少を示す割合も高い(OR 4.40)ことがわかりました。
ダイヤモンド・プリンセス号の症例は、多くのasymptomatic patientsの経過を追った貴重なデータであり、特にこの報告は詳細なCT像を検討したという点で極めて重要な意義を有するすばらしい論文です。
Tabata et al., Lancet Infectious Disease. DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30482-5