とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

回復期患者血漿の有効性についてのRCT

2020-06-05 11:31:28 | 新型コロナウイルス(治療)
回復期患者の血漿(convalescent plasma)を感染患者に投与するという治療法は古くから血清療法として行われているものであり、COVID-19に対しても一定の有効性が見られることが報告されています。その一方で患者によって有する中和抗体の濃度や有効性が異なることから、治療法としてcrudeである点は否めません。今回の論文はChinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical Collegeから発表された回復患者血清を用いたRCTです。
患者は2月14日から4月1日まで7つの医療機関でリクルートされた、ランダム化前72時間以内にPCRで感染が確定され、胸部imagingで肺炎が確定されたsevere or life-threatening COVID-19患者です。S protein–RBD-specific (receptor binding domain) IgG antibodyタイターが元々高い患者 (≥1:640)は除外されています。Convalescent plasmaはCOVID-19から回復し、PCRで陰性が確定した患者から採取されました。S-RBD–specific IgG antibodyタイターが測定され、 less than 1:160, 1:160, 1:320, 1:640, 1: 1280, greater than 1:1280に分類され、少なくとも1:640以上のものが使用されました。血液型を合致させた血漿が体重あたり4 to 13 mLが投与されました。Primary endpointは28日以内の臨床的改善(6段階で2段階の改善)までの期間です。計画では各群100例ずつを予定していましたが、武漢の封じ込めなどによる患者数減のために3月27日の組み入れ患者を最後に対象患者がいなかったため、103例までで組み入れは中止となりました。
(結果)103例の内訳は、convalescent plasma groupの23例、control groupの22例severe COVID-19、convalescent plasma groupの29例、control groupの29例がlife-threatening COVID-19の症例でした。患者の平均年齢は70歳、58.3%が男性でした。発症からランダム化までの日数は中間値30日でした。治療前の2群のdemographic dataはほぼ一致していました。
Primary outcomeである28日以内の臨床的改善はconvalescent plasma group 51.9% vs control group 43.1%(difference, 8.8% [95% CI,−10.4%to 28.0%]; HR, 1.40 [95%CI, 0.79-2.49]; P = 0.26)と有意差はありませんでした。Severe diseaseの患者では91.3% vs 68.2%(HR, 2.15 [95% CI, 1.07-4.32]; P =0 .03)、life-threateningの患者では20.7% vs 24.1% (HR,0.88 [95%CI,0.30-2.63]; P = 0.83)とsevere diseaseで差が見られましたが、重症度による交互作用は認めませんでした(P for interaction=0.17)。Secondary outcomeであった28日以内の死亡率は15.7% vs 24.0%(OR, 0.65 [95%CI, 0.29-1.46]; P =0 .30)と有意差なし。PCR陰性患者の割合はconvalescent plasma groupにおいてcontrol group より有意に高値でした(24時間後44.7% vs 15.0%, P =0 .003; 48時間後68.1% vs 32.5%, P =0.001; 72時間後87.2% vs 37.5%, P < 0.001)。血漿投与による有害事象は2例に見られました。ということでprimary outcomeは未達ということになりますが、予定患者数に達しなかったことが大きいかもしれません。特にサブ解析ではsevere diseaseでは差が見られているのですが、重症度との交互作用が見られなかったので「severe diseaseには有効」とは言えません。症例数が計画数に届かなかったのは残念ですが、このようにantibodyタイターをきちんと測ったうえでRCTで有効性を調べようという臨床試験を組んだ点は素晴らしいと思います。いずれにしても特にlife-threateningな超重症患者に対しては血清療法だけでは厳しそうで、やはり免疫の暴走を抑制するような治療が必要ではないかと思われます。
Li L et al., JAMA. 2020 Jun 3. doi: 10.1001/jama.2020.10044. 
Effect of Convalescent Plasma Therapy on Time to Clinical Improvement in Patients With Severe and Life-threatening COVID-19: A Randomized Clinical Trial.

骨代謝の中枢神経制御におけるPGE2の関与

2020-06-05 10:14:42 | 骨代謝・骨粗鬆症
Johns Hopkins UniversityのXu Caoは現在最もactiveに研究成果を報告している骨代謝研究者の一人ですが、今回は中枢神経による骨代謝制御についての詳細な研究成果をJournal of Clinical Investigationに報告しました。彼らはこれまでに感覚神経(sensory nerve)が骨芽細胞の「シグナル」を感知して交感神経系シグナル(sympathetic tone)による骨形成抑制作用をブロックすることで骨恒常性を維持することを報告していますが(Chen H et al., Nat Commun. 2019;10(1):181)、今回の論文ではこの骨芽細胞「シグナル」がprostaglandin E2(PGE2)である可能性を示しました。
感覚神経で神経性成長因子の受容体TrkAを欠損させたマウス(Advillin-Cre; TrkAfl/fl)は生後3カ月くらいで海綿骨の低下が見られますが、このとき骨芽細胞の減少と脂肪細胞の増加が見られます。このような変化は間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell, MSC)から骨形成細胞への分化抑制、脂肪細胞への分化亢進が原因でした。同様の現象は感覚神経でPGE2受容体EP4を欠損させたマウスでも見られました。COX2遺伝子の骨芽細胞特異的KOマウスにおいて同様のphenotypeが見られることからPGE2のソースは骨芽細胞であると考えられました。このような変化はβブロッカーであるpropranololやβ2 adrenoceptor antagonistであるICI118551によって回復したことから、sympathetic toneの亢進が原因であると考えられました。次に彼らはcapsaicinによるsensory denervationモデルを用いてleptin受容体(LepR)陽性のMSCがこれらの変化に関与していることを示しました。一方EP4をLepR陽性細胞や骨芽細胞で欠損させても骨組織に変化は見られなかったことから、PGE2の標的はMSCや骨芽細胞ではなく、感覚神経であることが分かりました。最後に骨折モデルを用いて、感覚神経特異的EP4欠損マウスでは骨折後の骨形成が抑制されており、これは15-PGDHを抑制して間接的にPGE2の蓄積を誘導するSW033291で回復することが示されました。
以上から骨芽細胞の産生するPGE2→感覚神経のEP4を活性化→中枢神経を介して交感神経を抑制→LepR陽性MSCから骨芽細胞分化↑脂肪細胞分化↓というpathwayによって神経による骨恒常性維持機構が働いていることが示されました。神経系によって骨代謝が制御されていることは、例えば複合性局所疼痛症候群(CRPS)で骨萎縮が生じることからも明らかであり、この研究はそのメカニズムを示したという点で重要なものです。
Hu B et al., J Clin Invest. 2020 May 26;131554. doi: 10.1172/JCI131554. Sensory Nerves Regulate Mesenchymal Stromal Cell Lineage Commitment by Tuning Sympathetic Tones