とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

VACは手術部位感染予防に有用か?

2020-03-13 08:52:59 | 整形外科・手術
外傷、特に下肢の骨折においては血流などの問題もあり、創治癒遅延や創感染などの問題が生じることが稀ならずあります。切開創の陰圧吸引閉鎖療法(Incisional Negative Pressure Wound Therapy, NPWT)は湿潤環境を保ち、持続的に陰圧ドレナージを加えることで肉芽形成を促し、このような合併症を低減することが報告されています。
この論文はイギリスの UK Major Trauma Networkに所属する24の主たる外傷病院で、通常のdressingとNPWTとをRCTで比較したものです(WHIST trial)。1549例の下肢外傷(うち81%は閉鎖骨折で78%はInjury Severity Scoreが15以下)の手術例がNPWT群および通常dressing群に割り付けられ、NPWT群は手術直後からマイナス80 mmHgの陰圧で吸引が開始されました。Primary outcomeは術後のdeep surgical site infection(CDC definition, 術後30日のdeep SSI。研究期間中にCDCのdefinitionが変わったためにインプラントを用いた際には術後90日に変更)です。
結果としては術後30日のdeep SSIはNPWT群が5.84%、通常dressing群が6.68%(OR, 0.87 [95% CI, 0.57 to 1.33]; absolute risk difference, −0.77% (95% CI, −3.19% to 1.66%); P = .52)で有意差はありませんでした。術後90日においてもNPWT群11.4%、通常dressing群13.2%(OR, 0.84 [95% CI, 0.59 to 1.19]; absolute risk difference, −1.76% [95% CI, −5.41% to 1.90%]; P = .32)とやはり差がありませんでした。Secondary outcomeである術後の創の状態やchronic neuropathic painの出現などにも差がありませんでした。
下肢の中での外傷部位が考慮されていなかった(下肢といっても大腿と下腿は異なるでしょう)、患者の栄養状態などを考慮していなかったことなどがlimitationとして考えられますし、自動的に洗浄もしてくれるような新しいタイプのデバイスであれば違いがでたのかもしれません。しかし少なくとも下肢外傷の症例全例にNPWTを行うというのは正当化されなさそうです。
JAMA. 2020 Feb 11;323(6):519-526. doi: 10.1001/jama.2020.0059.
Effect of Incisional Negative Pressure Wound Therapy vs Standard Wound Dressing on Deep Surgical Site Infection After Surgery for Lower Limb Fractures Associated With Major Trauma: The WHIST Randomized Clinical Trial.


最新の画像もっと見る

コメントを投稿