とはずがたり

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頚椎症性脊髄症に対する前方手術vs後方手術

2021-03-10 17:14:57 | 整形外科・手術
頚椎症性脊髄症患者(cervical myelopathy, CSM)に対する手術療法において、前方手術が良いか?後方手術が良いか?という議論は神学論争的な趣きもあり、中々決着がつきません。これまでにいくつかの前向き研究は行われており、わが国でも東京医科歯科大学から両者を比較した優れた前向き試験が報告されていますし (Hirai et al., Spine. 2011;36(23):1940-7; Hirai et al., J Orthop Sci. 2018;23(1):32-38)、海外からも本論文の著者らの報告を含めていくつかの研究が発表されています (Ghogawala et al., Neurosurgery. 2011;68(3):622-630; King et al., Neurosurgery. 2009;65(6):1011-1022)。これまでの結果では前方手術のほうが良好とするものが多いようですが、ランダム化比較試験は行われていませんでした。
本研究はアメリカの14施設、カナダの1施設において、MRIあるいはミエロCTで確認された45歳~80歳のCSM患者をブロックランダム化によって前方手術群および後方手術群に振り分けました。C2-C7 kyphosis>5度、segmental hyphotic deformity、高度なOPLL、過去の頚椎手術歴、ASA class IV以上の患者は除外されています。前方手術は除圧・植骨およびプレートによる固定、後方手術については北米ではlaminoplastyに慣れていない脊椎外科医が多いということで、laminoplastyの技術がある8人の外科医は後方手術に振り分けられた患者は後方除圧固定術あるいはlaminoplasty(片開き式?)を自由に選ぶということになっています。Primary outcomeは1年後のSF-36のphysical component summary(PCS)の変化、secondary outcomeとしてはmodified JOA score, neck disability indexそしてEQ-5Dを用いたQALYs、休職期間等となっています。
458人の患者がスクリーニングされ、結果的に163人がランダム化されました。前方固定が66例、後方手術が97名(laminoplasty 28名、固定術69名)でした。術前の背景因子に有意差は有りませんでした。
結果は下記のとおりです。
①Primary outcomeである1年後のSF-36 PCSは前方手術群と後方手術群で有意差は有りませんでした (5.9 vs 6.2; P=0.86)。また2年後の変化も5.2 vs 6.0 (P=0.46)と有意差なしでした。Secondary outcomesの大半(6/7)で有意差なしでした。
②合併症は前方手術で有意に多いという結果でした (47.6% vs 24.0%; P=0.002)。主なものとしては嚥下障害 (41% vs 0%)、神経学的障害 (2% vs 9%)、再手術 (6% vs 4%)、30日以内の再入院 (0% vs 7%)などで、major complicationについては両者で差がありませんでした (22.2% vs 17.0%)。
③ランダム化されていない各術式間の比較では、laminoplastyのSF-36 PCS改善が有意に良好でした (laminoplasty, 後方固定、前方固定それぞれで1年後9.6, 4.6, 5.7 2年後10.1, 4.3, 5.0)。また術後合併症についてもlamnoplastyが有意に少ないという結果でした。
ということでこのRCTでは前方、後方手術の術後成績には差がないという結果でしたが、非ランダム化比較の結果およびlaminoplastyに慣れていない術者が多いということを考慮するとlaminoplastyに軍配が上がるような気がします。後方手術がメインである日本としては何となくうれしい結果です。後方手術を紹介する文献が獨協医科大学脳神経外科の金先生の論文なのは、本論文の著者がneurosurgeonだからでしょうか。。
Zoher Ghogawala et al.
Effect of Ventral vs Dorsal Spinal Surgery on Patient-Reported Physical Functioning in Patients With Cervical Spondylotic Myelopathy: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Mar 9;325(10):942-951. doi: 10.1001/jama.2021.1233.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2777236


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