あのコルトを狙え

TOKYO2020 子供たちに負債を(笑)

人生足別離

2008-03-01 00:11:59 | HOTEL
ドアマンの仕事をしていているとホテルの玄関に待機してくれるタクシーの運転手さんと顔馴染みになります。

タクシー利用客は大半が弊社からワンメーターの最寄り駅までです。
それでも時折成田空港までの長距離(約25,000)をご利用なる方もおられます。
どの運転手さんに成田行きが巡ってくるかは「運」しだいとなる訳ですが私も人間なので「人間的に良い運転手さん」に成田行きを廻したいと思ってしまう。

運転手さんにも色々な方がおります。
「最寄り駅まで」
と言った途端、露骨にイヤな顔や態度をする方
お客様とドアマンでトランクに大きな荷物を積んでいるのに車から降りず手伝おうとしない方(降車時にも手伝わないんでしょうね)
ドアを思いっきり閉める方
そんな方には長距離を廻したくないと思ってしまう。


近距離でも嫌がらず笑顔で対応する運転手さんには「当たり」を引いてほしい。
ドア越しに接客を拝見しこの方には次に長距離が入ったら廻してあげよう、と考えている。
予め何時に成田空港や長距離が分かっている時は運転手さんの携帯電話に連絡をする。
「(長距離を)廻してあげたい」と思う運転手さんが何人かいる。
そんな事も考えながら仕事をしている。
先日、馴染みのタクシー運転手さんの一人と話しをしているとその後ろに
初めて見る若い運転手さんが着いた。

その方を交え話しをすると「僕、U村さんからここの場所を聞いてきたんですよ」

『おお、そういえば同じ帝○交通ですね。最近U村さん見えませんね?』

U村さんは最近全く姿を見せなくなって気にしていた。

「・・・U村さん亡くなったんですよ」

『え!!?・・・』

愕然とした

「胃が痛い、と普段から言っていて病院に行ったら末期ガンでした」
「このホテルから成田空港へ行ったのが最後の乗務でした」

タクシー運転手としてのその方の知ったのはドアマンに来てからのこの一年だったが6年前のベルボーイ時代にとあるロックバンドの運転手をされていた時に知っていた。
先任のドアマンからも好かれていたその人はいつも笑顔で近距離でも嫌がらずに対応する姿に私も好感を持っていた。

 いつか成田空港行きを廻してあげたい!

しかしこれもまた運でそんな時に限って電話をしても休まれていたりで
なかなか当たってもらえない。

そんなある日、念願の成田行きが廻ってきた。
待機タクシーが並ぶ中で『廻してあげたい』運転手さんを探す。

 あの人は前回廻してあげた
 でも前にお世話になったから連続で廻そうか・・・

その後ろにU村さんの紺色セドリックが!

一瞬、躊躇したが念願の約束を果たす時がきた

他の運転手さんに悪いので大声で
『帝○交通さん、ご指名です!(ウソ)』
さらに『ゴメンなさい、近場です』
と他の運転手さんに聞こえるように付け足す。
『近場です』と言っても笑顔で「いいですよ」と答えてくれた。

タクシー乗り場に誘導して荷物を載せて
『実は成田空港です(笑)ヨカッタですね♪』
「ハイ!」
嬉しそうな笑顔だった。

喜んでくれた。やっと普段のお礼が出来た。
長かったな・・・

それにしてもイイ笑顔だったな
これでまたこのホテルに車を付けてくれるだろう。

その日を最後に姿を見なくなってしまった。
先週、長距離があったので携帯電話に架電しても出なかった。


あれが最後の姿だった

最後に成田空港へ行ってもらったのがせめてもの救いか
しかし
『成田を廻してもらった帰り道がきつかったそうで、それから会社に急遽戻って病院に行ったら即入院でした』

良かれと思って廻した成田はそのお身体には苦痛だったのだ
仕事だから仕方が無いと思ってはいるけど

所詮は私の自己満足に過ぎなかった

そんな事を考えていると中番のドアマンが来たので引継ぎをして
仮眠室に向かった。
昼の仮眠室は誰もおらず一人ベッドにもぐった。


下の名前も知らないし、仕事で逢うだけの関係
どんな家族がいたのかどんな人生だったのか
まったく知らない

それなのになぜだろう涙が出てきた
悲しくて仕方が無かった


弘兼憲史さんの島耕作シリーズの中で好きな言葉があります

『それが人生というもんだろう
 人と出会い、人と別れる
 人生というのは そのくり返しなんだ』

この言葉を思い出し諦める事にした。

さて、今度長距離が入ったらU村さんの後輩さんに廻そう

  それにしても最後のあの笑顔は本当に素晴らしかったな
   
  忘れる事はないだろう




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10 コメント

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Unknown (パパちん号)
2008-03-01 21:14:45
「所詮は私の自己満足に過ぎなかった」
そうかもしれませんが、長い人生の中で多かれ少なかれそういった思いで行動する事はあると思います。

ただ、彩雲さんがとった行動をU村さんは嬉しかったと思いますよ。

「以心伝心」優しい気持ちというのは、言葉に出さなくとも通じるものです。

そんな心を通じ合える彩雲さんの居るところだからこそU村さんは自分の遺志を継いでくれるドライバーだと信じ後輩の方に教えたのでしょう。

きっと後輩の方は、乗る側も送り出す側も気持ちよくなれる良いドライバーだとおもいますよ。
返信する
またまたいい話・・・ (まにまにカレチ)
2008-03-02 11:57:25
悲しいけど・・・
彩雲さんの人生には、幾つもの心温まるストーリーが詰まっている気がします。

ゆっくり語らう時間が出来ればいいのですが・・・
返信する
Unknown (彩雲4号)
2008-03-02 21:46:16
パパちん号さん
>>長い人生の中で多かれ少なかれ~
>>嬉しかったと思いますよ。

ありがとうございます。和らぐ気持ちになりました。
お客様にはもちろんですがタクシー運転手さんにも気を配れるドアマンを目指します。

まにまにカレチさん
>>ゆっくり語らう時間が出来ればいいのですが・・・
今年中にはケサブロウとコルトの2台で熱海に一泊したいです。場所はもちろん福島屋旅館で!

返信する
熱海泊まり (まにまにカレチ)
2008-03-02 22:38:06
「アタ泊まり」・・・前の職場での懐かしい響き・・・

是非ともあの福島屋さんへ連れて行ってください。
ただ、熱海に行くとなると「足」は、“けさぶろう”でなく“B三郎”ことマツダB360ライトバンで行きたいです。
昭和40年代のパンフレットのように、伊豆スカイラインとかの、それらしい場所で写真を撮りたいのです・・・
料金所、山並み、ドライブイン、植物園?・・・でも、当時の雰囲気の場所が残っているのかなぁ・・・
西熱海ホテルも良かったのになぁ・・・
返信する
さすが!! (彩雲4号)
2008-03-02 23:07:09
まにまにカレチさん
>>料金所、山並み、ドライブイン、植物園?
さすがです!有料道路の料金所っていいですよね♪
お気持ちはよく分かります。
足を伸ばして地球儀とか(もう無いけど)

西熱海ホテルを失った事は今でも残念でなりません。
ところでB三郎まだあったのですか。
返信する
「小説」書いてみませんか? (flingscottomomi)
2008-03-05 09:08:49
彩雲さん、「小説」書いてみませんか?
小説家の森村 誠一は若い時ホテルマンのをしたのは有名な話です。その時の色々な経験が繊細な人間観察を育てた事が良くわかります。「人間の証明」などの作品の数々に、ホテルのシーンが印象的に登場し、我々にホテルの表と裏をリアルに教えてくれました。「人間の証明」に出で来る「麦わら帽子」は、某ホテル屋上展望台の形を現しているのは有名な話です。確か他にも有名作家で、元ホテルマンと言う人が何かいたと思いました。

目指すなら「芥川賞」ですね・・・・・・
返信する
こんにちは (kotaro)
2008-03-08 13:57:54
お客さん相手のお仕事で気疲れも多いことでしょうが、最近とても興味深いノンフィクションを見つけて読みました。
タイトルがとても長いので、参照頁をご覧になられてください。
http://blog.goo.ne.jp/ni836000/e/30ace550b8cda439deaf1a0a0a0f46f9
次次に提案すると管理人さんが疲れられないか心配ですが、サービスとは、お客さんが喜ぶとは、どんな立地でも時代でも日本一を目指すことができるのだなと感心しました。
一読をお勧めします。失礼しました。

返信する
RE:「小説」書いて (彩雲4号)
2008-03-16 21:44:50
F先生
>>「小説」書いてみませんか?
過大評価?ありがとうございます。
ブログ書くのにも精一杯で文脈はおかしいはで、とんでもない事であります(汗

でもそんな事を言って頂けるだけ嬉しかったです。


kotaroさん
>>気疲れも多いことでしょうが~
ご理解ありがとうございます。
リンク先を拝見しましたが・・・
スゴイ方ですね~!!

>>管理人さんが疲れられないか
同感です!
返信する
Unknown (debopacer)
2008-03-18 11:08:11
いつもの事ながら出遅れです。

今回の逸話、繰り返し読んでおります。
そして読むたびに色々と考えさせられます。
世の中様々な人が存在しますが、「徳」を持ち合わせた人は素晴らしいなと。
もちろん彩雲さんも「徳」をお持ちの方です。

それにしてもいい文章ですね。
返信する
Unknown (彩雲4号)
2008-03-19 23:39:17
debopacerさん

>>繰り返し読んでおります。
ありがとうございます。
「徳」ですか、私にあるのかな・・・

>>それにしてもいい文章ですね。
恐縮&感謝です。

仕事中に時おり珍車を見掛けるとdebopacerさんのお顔が浮かぶのは何故でしょう?
返信する

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