うまさいと

お馬さんは好きですか?

三冠よ、矜持を持て。

2006-12-30 10:45:43 | 競馬
ディープインパクトが引退ということで、さて何を書けばいいのやら。いつも以上に読み手のいない文章になりそうですがまぁいいや。あんまり難しいことは書けません。

私がこのお馬さんを認識したのは若駒Sの後だったと思います。当時は「若駒Sで圧倒的な勝ち方を見せたお馬さんがいる」というのを耳にしただけでしたが、弥生賞までには随分と評判が上がっていましたっけ。元々レディブロンドやブラックタイドの印象が強烈だっただけに「あぁ、あのお馬さん達の弟ねぇ」という具合でした。事実、弥生賞の勝ち方が私にとってはさほどインパクトのあるものではなかった(最近インパクトのある勝ち方だと思った3歳春のレースはタニノギムレット@アーリントンC)だけに、世間の「三冠確実!!」みたいな風潮に辟易していたことも相俟って「ブラックタイドの方が強いっしょ」と言っていた記憶があります。

ダービー時には東京競馬場にディープインパクトの像が飾られるなど、胴元が不自然(不必要とまで言うつもりはありませんが)に盛り上げ役に走ってしまったということに対して嫌悪感を持ちました。とにかく「ダービーの時点で」というのがまずかった。「二冠馬」というのは確かに素晴らしいお馬さんではありますが、91年から06年までの16年間に於いて7頭(ナリタブライアン、ディープインパクトを含む)もいます。「公正競馬」と銘打つ程の組織ならば、そういった意味でも「公正を期して欲しかった」と思いました。というか像を出した時点ではまだ皐月賞しか勝っていませんし。

その半面、菊花賞の飛行船は心憎い演出だったなと思います。現地で観戦していましたが、古くはメイズイのくす玉にはじまりこの飛行船まで『負けたらどうすんだよ』と言わんばかりの演出をJRAがしたのは個人的にも良かったと思います(くすだま位は毎回用意しているのかもしれませんが)。もし負けたらあの飛行船は出てこなかったでしょう(勿論それを作ったことも内密に終わるわけで非常によろしい。「雑費」とかにしちゃえばいいし)し、こういったところで採算を度外視するのは大いに結構であります。JRAへの「頭の固いお役人体質」という批判を回避するための絶好の機会であったともとれるでしょう。逆に、ダービーの時点で等身大の像を作ってしまうなどあれだけ無茶をやったからこそ菊花賞時にもこれだけのことができたと言えるのかもしれませんが。

ただ、これが「ディープインパクトだからここまでやった」という面があったにしろなかったにしろ、胴元とそれを取り囲むファンの「三冠」に対する姿勢が如実に浮かび上がったのもまた事実です。そして、この『三冠に対する姿勢』こそが現在も形骸化していない三冠路線としての矜持を持つ要因の一つにもなるのでしょう。そしてまた、菊花賞を獲ることによって「三冠馬」として凱旋門賞に乗り込むという図式があったことで、ディープインパクトで競馬を知った方々にも非常にわかりやすい形で「世界戦への挑戦のための資格」を得たのではないかと思います。どんなスポーツにせよ「日本を制覇したから海外へ」というのが明確な分岐点になるわけで、そういった意味で非常にわかりやすかったことがディープインパクトを宣伝する上でも、応援する上でも好都合だったのでしょう。逆に、海外に於いても「無敗の三冠馬」というだけでもインパクトは十分であったこともまた付け加えておきたいと考えます。その上で「三冠」が形骸化せずに生き続けることの新たな側面を見た気がしました。

閑話休題。

翌年、凱旋門賞という大目標に向かう過程において更に天皇賞・春、宝塚記念と勝ち鞍を積み重ねていきました。とにかく凱旋門賞という目標が大きかったので私個人が見逃していたこととして挙げたいのが、古馬を代表する中長距離路線の5つの内、4つまでをもきちんと勝っているということは、もっと評価されてしかるべきでしょう。近年ならばスペシャルウィーク、ゼンノロブロイの3勝を上回るものであり、それも「ディープインパクトだから勝って当然」といった雰囲気の中でのものであるだけに、非常に価値の大きいものであり、また関係者の方々は並々ならぬプレッシャーを背負われたと思います。凱旋門賞のパドックになぜかJRAの理事長がいたりと不思議ではありましたが。どうなのよそれ。

凱旋門賞でのイプラトロピウムの検出についてはここでは語ることは何もありません。「もしも勝っていたら」というおそろしい想像をすることは容易ではありますが、この想像をさせること自体がディープインパクトの凄さかと思います。10回やったら3~4回は勝つんじゃないか、位のことは私も考えてしまいます。あさ◎における1972さんのコラムを見ていただければわかるように、海外では「作戦ミス」という評価が一般的なようです。武豊騎手が以前にホワイトマズルで脚を余して負けたということで「前で勝負しなければいけない」というプレッシャーがかかっていたのではないかというのはいささか邪推かもしれませんが、一番しっくりくる言わば「落としどころ」ではあるのでしょう。10年後に通っぽい方がそういうことを言うのではないかと思います。ま、そんな自分が一番言ってるのかもしれませんが。

さて、ディープインパクトについて語る際に必ず話題になるのが「新たなファンを引き込んだか否か」ということです。新規のファン層の開拓にはなったと思いますが、さてここからどうやってつなぎとめるかでしょう。ディープインパクトに代わるスターを探すなどということは至難の業であり「期待したことをやってくれる」お馬さんなど滅多に居ないのが実情です。

まだまだ競馬界を取り巻く問題は山積しています。しかし、形骸化していない三冠路線の有意義な面が新たに見つかったということ、それこそが「大衆文化」である日本競馬の『文化』としての成熟の一つの結果であったと考えてよいのでしょう。私個人の中で、ディープインパクトの存在はこのことを思い付かせてくれただけで永遠の存在になったと言えます。三冠を獲ることにより、4歳で凱旋門賞を狙うという目標の上では不利なのかもしれません。パートI国になった今、三冠レースを日本調教馬限定にしてしまうとカナダのようにノングレードレースにしなければならなくなるかもしれません。しかしその上で、世界に冠たる日本三冠路線として独自の地位を大事にして欲しいと考えます。