~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No29 ある不動産業社長の生き方に学ぶ・・No28続篇

2005年12月18日 | 景気
ファイルNo28(大きな貯蓄は有益か?有害か?)を書いた2日後に、10年来のお付き合いになる小さな不動産会社A社長さんと話をしていて、たまたまそのテーマに突き当たりました。

A社長はある首都圏郊外エリアが地盤で、不動産売買・戸建建築・固定資産の相談アドバイスなどの業務をほとんど一人で取り仕切っています。団塊世代で一代目です。
そんなプロフィールに似た人は世の中に沢山いますね・・「○○不動産」と自分の名前を付けた零細の不動産屋さん、街角でよくみかけます・・というより、正確に言うと以前はよく見かけました。

A社長によると、自分の周りの同業者の大部分が、バブル崩壊後10年以内に姿を消しました。夜逃げしたり、首を吊ったり、銀行管理下に置かれ債務処理終了後倒産させられたり、何らかの形で皆いなくなっていったそうです。

当然ながらA社長も、バブル崩壊後資産価値が激減した多数のコゲ付き物件を抱えていました。個人でやっている有限会社ですから普通に考えたら一たまりもありません。
しかし彼はなぜ生き残ったのか? そのことは以前から聞きたかったのですが、先日2人でゆっくり時間が取れたのでようやく聞くことが出来ました。

バブル崩壊で自社の物件価値が目減りしていく中でも、A社長のところへ新規の相談事が絶えませんでした。そのほとんどは、相続やら住宅ローンの悩みや業者トラブルやら、ネガティブな問題ばかり。A社長はバブル前から経験と才覚と人間力が備わっていたから駆け込み寺よろしく客が訪れたのでしょう。

A社長は自らの抱える過大な負債を顧みず、日々顧客の問題を一軒一軒解決していきます。そしてそういう人助け的な細かい仕事で得た収入が入るたびに、そのカネをその自社案件の損切り処理に当てていった。損害額は途方も無い額だったといいますが、粘り強く銀行へ返済していった結果7年後には全ての不良案件を手放してチャラにできたといいます。

ここまでの話は地道な努力と誠実さが実った、というふうに解釈できますが、A社長はそれで終わりません。

大きなマイナスを払拭した後、普通の人間なら以前のようにできるだけ富を取り戻そう、蓄財しようと考えるものですが、その後から現在に至るまで自分の月給30万円を残した全ての収入を50人以上いる自分の職人衆の世話や困っている顧客を助けるために使いつづけているというのです。ただし自らの地盤エリアにおいてのみという条件で。

具体的な例をあげると、かつて顧客に世話した土地家屋が事情により売却希望と相談されたとき、その後地価が値下がっていても会社収益の範囲で可能な限り高い値で自分が引き取ります。顧客には感謝されますが当然A社長は損をします。

A社長は残った家屋を、住まいに困っている自分の職方に低家賃で貸します。職方はA社長に感謝しこれまで以上に誠実に働くようになります。

A社長は家賃で土地損分を徐々に回収していき(仮に)X年後に資産価値とトントン以上の収支となるはずだと。A社長は、その時になったらこの土地家屋をエリア内の顧客に適正価格で売るか、賃借している職方に引き取ってもらうかの選択肢を伝えます。

職方はその間この家を自分のものにしたいという願望からよく働き、頭金を揃えて引き取ることも少なくないといいます。しかしそうならなくとも一般顧客の間でA社長は評判になっているから、紹介等ですぐに買い手が見つかってしまう。

そういったことを繰り返していくと、商売として内部留保はできなくてもどんどん仕事が回るようになります。

A社長は、決して贅沢な暮らしではないが人に喜ばれ続けることでとても豊かな人生を送っている、と事も無げにサラっと言います。

これはまさに前ファイルNo28で取り上げた“忘れ去られたコミュニティ経済循環”そのものの考え方であります。ご本人はあまり意識せずにそれを体現しているわけです。

各人が節約&蓄財に励みカネが社会へ還流することなく、結局社会全体が萎縮してしまいデフレからなかなか逃れられない現代都市人間とは全く180度逆のやり方を実践し成功している例といえるのではないでしょうか。

A社長は言います。「資産は貯めるものではなく使うもの。問題は、どう有意義に使うかだ。人の役に立つこと人に喜ばれることに使えば必ずそれ以上の何かが還ってくる。僕はそれを肌で実感しているが特に今の若い人たちにとっては全く理解ができないようだ。だけど、このエリアの同業でなぜが僕だけが生き残っている。だからこれには自信があるよ」

A社長のもとに資産を抱え込んだ近郊地主や農地主が税金や相続の相談に来ると、皆におカネや資産の有意義な使い方について何日もかかって説明しているんだ、と付け加えました。

私がおそるおそる、生活資金以外は海外などの投資に回していると言うと、A社長は微笑みながら「おカネを必要とする国へ回しているんだとしたら、とてもいいことじゃないですか。かつての日本も今の中国も他から回してもらって豊かになったんだから」と言ってくれて、とても救われた気分で帰路に着いたのでした。