~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No64 米国景気減速は本当に軟着陸するのか?・・ドル独歩安のリスク・・

2007年02月18日 | 景気
①2/15 ロイターより・・・米財務省が発表した2006年12月の海外投資家による対米証券投資は110億ドルの売り越しとなった。売り越しは05年6月以来。


②2/15 ロイターより・・・ 米連邦準備理事会(FRB)が発表した1月の鉱工業生産は、前月比0.5%減となり、横ばいを見込んでいた市場予想を大きく下回った。
1月の減少率は2005年9月のマイナス1.6%以来最大。設備稼働率は81.2%と、ほぼ1年ぶりの低水準となった。


③2/16 ロイターより・・・米商務省が16日発表した1月の住宅着工件数は大幅に減少し、連邦準備理事会(FRB)の年内利下げ観測を強めた。
1月の住宅着工件数は3カ月ぶりのマイナスとなる14.3%減で、エコノミスト予想を大幅に上回る落ち込みとなった。


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昨年末からこれまで(2月前半)米国の景気減速が軟着陸するとの報道が相次いだため、世界経済界的に一種の安堵感に包まれていたわけですが、G7終了後に上のような弱い指標が相次いで発表されました。


まず①について~

昨今の米国は、膨大な経常赤字を海外からのファイナンス(資金の穴埋め流入)に支えられる形で旺盛な個人消費(過剰消費)を謳歌しGDPを引っ張ってきました。
景気減速に明るい見通しを与えたのも、GDPの7割を占めるといわれる消費増が主役です。

ですから米国は対外赤字を穴埋めする上で外国資金をますます必要としており、海外からの米資産「需要」の動向に敏感にならざるを得ません。

この指標発表をもっと具体的にかみくだいて言うと、海外からの米国の国債(借金)購入が前月の3分の1に減って、かつ過去最高額の米国内資産が海外へ流出したという事実です。

この気になるデータが一時的なものかどうか予測できませんが、米国債急減のひとつの推測として昨年秋からの原油安による中東オイルマネー流入の減衰があるのかもしれません。
それまでの原油市場高騰によって獲得した巨額のオイルマネーが米国債を支えてきましたから、今後しばらく原油安値が続くとなれば米国経常赤字にとっては大問題ということになります(もちろん原油が再高騰すれば前提は違ってきます)。


赤字ファイナンス不足の意味するところは、「ドル安」そして「米国債の下落」です。
国債下落は同時に長期金利の上昇となり、住宅ローンや消費に打撃を与えます。そして政策的には金融緩和(利下げ)を迫られる一方、ドル安が進行すると輸入価格が上昇し悪いインフレ圧力がかかってしまうなど、景気減速が“ハードランディング”してしまう要因となり、めぐって世界景気の大きな減速につながってしまう可能性もゼロではありません。

民間の中東オイルマネーだけでなく、世界各国特にアジアや新興国といった黒字国の政府外貨準備金が数年前からドル離れする傾向にありますから、いちどドル安に拍車がかかると止まらなくなってしまう最悪の事態もゼロとはいえないので困ったものです。

以前からこのようなリスクは想定されていて、いずれ米国経常赤字は巻き戻される運命にあるとこのブログでもずっと指摘はしていましたが(“世界的ドルバブル”)、米景気減速の現在進行形であるこの時期に①のニュースはバッドタイミングだと思います。しかし売り越し現象が一時的であれば、若干のドル安要因となるくらいで当面は杞憂するに至らないでしょう。来月の数値発表が注目です。


②について~

消費以外にもうひとつ米国景気を支えてきたのが順調な企業業績と雇用ですが、ここにきて自動車を中心として製造業の低迷が若干目立ってきています。今回はエコノミスト予想が前月比横ばいだったため、▲0.5%はネガティブサプライズといえるでしょう。

こちらもドル安要因であり、次回以降の数字次第では景気全体への影響が出るはずです。


③について~

住宅バブル崩壊のクライマックスは昨年11月頃であった可能性があると前ファイルで書きましたが、先週のバーナンキFRB議長の議会証言によると“住宅投資の弱さは今後1年前後景気を押し下げる公算が強く、住宅市場問題が過ぎ去ったとするのは時期尚早”ということで、その直後に出たこの弱い数字はそれを裏付けているようにみえます。

こちらもエコノミスト予想を大幅に上回る落ち込みですが、1月は予期せぬ寒波の影響が大きかった模様で、やはり2月以降の数字に注視したいと考えます。
それにしても着工の件数は10年ぶりの低さというのはやっぱり気になります。
住宅バブルの問題は前ファイル(No63)をはじめ1年以上前から多く取り上げてきたのでそれ以上の詳細は省きます。

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これら一連の発表によって、米国の景気減速が実はソフトランディングしないかもという見方が広まってきた場合、日本へのまず最初の影響で考えられるのは「円高(ドル安)圧力」ではないでしょうか。景気再減速による米国の利下げ話題が再びマーケットに織り込まれます。

そもそも米国事情の上記要因とは関係なく、海外投機筋の円ショートポジション(円の空売り)は1月末に2兆円で史上最大規模といわれ、低金利の円を借り外貨で運用する円キャリートレードは“円キャリーバブル”と呼称されるほど膨らんでいます。

実質為替レートは85年以来の円安レベルにあり、特に昨年6月の世界同時株安からこの半年間はドルに対して円のみが極端な独歩安という状態。

それもこれも、ダントツ世界一の低金利が続いていることが主因なのですが、目先今週の日銀会合で利上げ?と相成るのか、それによって海外投機筋がついに動くのか・・
もし動くとしたら円高というより「ドル安要因」の上記①②③のような弱い米国指標がキッカケになることも充分考えられると類推します。

極端な円高には動かないとしても、今年中のどこかで「ドル独歩安」に振れるリスクはあらかじめ織り込んでおいたほうがよいでしょう。
そのリスクは同時に日本輸出企業群の業績下振れ、ユーロ(欧州)およびポンド(英国)が対ドルで更なる上昇・・となる可能性があります。

国内の個人投資家からすればドル安で海外金融資産を増やすチャンスのようですが、相反して弱い指標がつづく米国ドル建ての資産は思ったような成績を上げない、というリスクと背中合わせになります。今年団塊世代の退職金約15兆円が動き始めるということですが、海外運用先の選択は慎重を期したいところです。