~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No67 サブプライム危機で世界経済に何が起こるのか?

2007年08月26日 | 金融・経済全般
本業など環境の変化もあり、あれよと3ヶ月以上休稿していまいました。
これからもこんなペースになるかもしれませんが、書くときはそのぶん密度を濃くしていきたいと思います。


さてこの1ヶ月間、世界経済はサブプライム問題一色となり、経済に興味のない一般の人にも流行語のように「サブプライム」の認知がされました。

久しぶりにこのブログを読み返してみると、5ヶ月近く前(4/2)に書いたファイルNo65で危惧した内容が、そっくりそのまま具現化してしまったような格好です。
今後を占う上で、まず危機が表面化する数ヶ月前を少し振り返ってみます。



4月当時(ファイルNo65)書いたポイントをいくつか抜粋・・・


*バブルが崩壊した住宅市場の今後がこれからも世界の投資マインドに大きく影響を与えていくのは間違いない。

*そのひとつが昨今話題になっているサブプライム住宅ローン(低所得者向け過剰融資)焦げ付き問題。我が国で10年近く前に住専問題をキッカケとした金融危機が起ったことを連想させる。

*金融の流れの大きな歯車が逆回転を始めないかどうかがこれから重要なファクターになってくると思う。

*今後直近のウォッチポイントとして、
①今後ローンを借りる人への融資基準が急に厳しくなる可能性
②焦げ付きローンの差押さえ物件がバブル崩壊で高く売れず、資金回収不能となってもっと多くのローン機関が危機に陥る可能性
③ローン会社に融資している大手金融機関のリストラ・合併などの収縮⇒米国企業へ影響が波及する可能性
・・などをチェックする必要がある。

*グリーンスパン前FRB議長・・
『サブプライムローン問題は経済全体に影響を及ぼす可能性がある』
『企業利益率の鈍化は景気後退の前兆』
『米国は年内にリセッション(景気後退)入りする可能性がある』

*FRBバーナンキ議長・・「景気拡大見通しの下方リスクは、住宅市場の調整が現在予想されているよりも深刻になることで、おそらくそれはサブプライムセクターの問題でさらに深刻になるかもしれない」と語った。

(引用終了)


ほんの数ヶ月前、その頃の米国や日本のマスコミ/エコノミスト達は、「低所得者向けのサブプライムローンは全体の13%だけだから実体経済に影響が及ぶことはない」という楽観的な論調がほとんどで、グリーンスパンやバーナンキの上記コメントを真正面から受け止めるアナリストは少数派でした。

当時からマーケットが崩壊する予兆はいくつもあったが、7月末に株価急落・円高が起った瞬間から、いっせいに悲観論一色となったのは周知の通りです。
人によっては、“米国の金融市場は崩壊する”“世界バブルの終焉”などとするものもあります。しかし逆にこの悲観的すぎる論調も、少し行き過ぎのような気がします。


まず実際に起こっている事として、米国の住宅ローン融資基準が厳しくなっただけでなくクレジット(信用)市場全体の資金調達が厳しくなり、ローン機関だけでなく複数の金融機関や投資会社が危機に陥り、リストラ・破産が報道されています。
そして金融/投資業界から連鎖する形で、サブプライムと一切関係のない米国企業全般の資金調達が難しくなってきている現状などもあり、今後実体経済へ影響が波及するのは間違いない状況となってしまいました。


では、世界のどこまで、どの程度、そしていつまで、ネガティブな影響が出るのか・・?
非常に予想が難しいところですが、現時点でわかっている事を踏まえて、筆者の個人的考えとして、あえて予測してみます。



●米住宅販売市場・・・
冷え込みは予想よりも長く、当分続くでしょう。在庫が増えつづけていますが、意外なことにじつは本格的な価格下落は今始まりつつある段階です。その後再来年ぐらいまでは下落が止まらない可能性がありますが、米国は人口増加中ですので、ある水準まで下落すれば需要が下支えされると予想します。

●米住宅ローン市場・・
サブプライム市場は証券価値がゼロに近く当分機能しない(なくなる可能性も)。今のまま無策では、より信用のあるオルトAと呼ばれるローン市場、プライムローンまで相当な影響が予想されます。
FRBの利下げはレベルに限界があり焼け石に水。
FRBの金融政策だけでなく、政府や公共機関からのローンデフォルト支援策が必要だと考えますが、このまま行けば何らか施策されると思います。大統領選挙のかっこうの演説公約になりそうです。
そういった支援政策の大きさ次第で、影響の大きさが変化するでしょう。

●米金融業界/世界金融市場・・・
金融市場が崩壊したり世界金融恐慌が始まったりすることはないでしょう。しかし、サブプライム証券化市場は、バーナンキ議長が7月に証言した「500~1000億ドル規模の損失」の、最大で10倍(1兆ドル)すなわち120兆円規模あるということが明らかになってきました。

問題視されるべきは、これに投資しているという英国やユーロ圏の金融機関/ファンドから中国の国有銀行まで、米国以外の海外の機関投資家がこの証券をかなりのシェアで保有しているということ。仮にサブプライム市場自体が機能不全になってしまうと、大手でも相当な不良債権の償却が必要となります。

しかし世界に分散しているということは、逆に考えると米国内に集中していないということであり、そのため米国金融クラッシュは避けられるのではないでしょうか。
借り手のローン設定(支払い金利条件)が変更になるのは今年後半から来年がもっとも多く、間違いなく延滞率が上昇するこれからが修羅場になりそうです。

確率が高いこととして、オフショアのヘッジファンド破綻がこれから沢山あり、ヘッジファンドそのものがこれから大きな問題になるような予感がします。

●米国実体経済・・・
企業がお金を調達するCP市場がひっ迫していることが報道されていますが、大企業の手元資金は潤沢であり、ファンダメンタル(基礎)はしっかりしているので、これによってすぐ上場企業が破綻するようなことは少ないでしょう。

しかし企業マインドは悪化するはずですし、雇用や消費も下振れするので、米国GDPが低下することは避けられません。

●世界経済・・・
米国の景況感が悪くなれば、米国が輸出先の上お得意である日本をはじめとしたアジア各国は大きな痛手となります。どの国も米国向け輸出シェアは減少し、それ以外の国々との貿易や内需関連が頼みの綱となります。
でも考えようによっては、世界が米国依存型から脱皮していくチャンスになるかもしれません。大局でいえば、依存しすぎの状態から正常な姿にもどる過程として、今回の痛みは必要なのかもしれません。米国依存から抜けきれない国や企業は、どの国であっても厳しい局面にさらされます。



資産関連の動向はどうなるか・・
これはもっとも予測がむずかしいですが、あえて勝手予想してみます。

●株価。上記の予測がある程度当たるならば、世界全体の株価が長期にわたって大きく下落するような、そんなひどいことにならないような気がします。現在の世界市場は米国株に大きく連動しているわけですが、そのうち少しずつ相関性が弱まってくると予想します。


●不動産市況は、米国が弱いのははもちろんですが、世界的な信用収縮のあおりを受け、欧州・アジア市場ともに連鎖、しばらく不安定な局面が続くと予想します。
もちろん日本の地価上昇もストップしそうです。今回の都市部上昇は海外投資家による買い漁りが一番大きな要因だから、そう思います。

米国でひとつだけ特筆したいのは、借家の家賃相場は下落どころか上昇しているという事実です。買い手はいないが借り手はいるのです。これは移民などによる人口の伸びが関係していると思います。ローン融資がきつければ、住まいは借りる方向へ向います。


●商品市況・・・現在原油はやや下振れしていて、トウモロコシや金属などブームだったものは暴落しました。普通に考えれば、世界投機資金が商品市場へ戻ってくるのは株価や為替が落ち着いてから、でしょうか。方向性のない、とても不安定な動き(乱高下)が続くと予想します。


●為替は、各通貨に対してドル安方向というのが順当でしょうが、その前にユーロやポンド・NZなど高金利通貨が軒並み下落しています。これは世界的余剰資金がリスク回避のために巻き戻しされているということで、実体が伴わない投機資金(仮需)を自国キャッシュに戻す動きです。
ここ数年続いた、円を調達資金にしたいわゆる金利相場がバブル的だったと考えると、正常な戻しといえます。
ドルと円の関係については・・今後、よりどちらの国が弱いと思われるのか? けっこういい勝負ではないでしょうか。


そんな中・・
資産動向について、個人的に唯一面白いと感じるのは「中国」です。

以前の株安時もそうでしたが、今回の株価暴落でもひとり我が道を行く上海A株市場。(原則として中国人民しか売買できない市場のため外国投資家の影響を受けない)
世界中大騒ぎのさなか市場最高値をマークするなんて、バブルであろうが株民は本当にあなどれません。

北京や上海の不動産はオリンピック&万博で値上がりブーム真っ最中。その後も鉄道・高速道路・発電・大都市開発などインフラの巨大プロジェクトが目白押しにて進行中です。

そして海外との関係において鍵をにぎる為替政策は、どんな外圧があろうと共産党指導部がしっかり握っています。

こういった日本の昭和30年代的高度成長(というより共産党国策)がしばらく続くとなると、あくまで消去法的な話ですが、たったいま世界で買えるのは米国流グローバル世界の影響をある程度無視できる中国だけ、といえるかもしれません。

当面の課題は、米国輸出への依存からうまく脱皮できるか?
ジャブジャブに溜まったドルと人民元を、うまくコントロールできるか? 
グローバリズムに与しない金融鎖国として、頑張りどころです。



このサブプライム問題に端を発した世界的な信用収縮現象においては、米国以外の世界実体経済がいずれも健全な状態であることが、とても救いになるはずです。これは今回の危機を語る上で、とても重要なポイントです。

特にBRICsをはじめとした新興国は、例えば97年のアジア通貨危機などの時とは比べ物にならない強い経済/金融基盤を持っているわけで、以前よりも先進国の状況に左右されにくい体質へ変貌してきています(短期的にはリスクマネー引き上げ等あるものの)。

GDPの平均伸び率は先進国のそれより遥か上であって、ひどかったインフレリスクも少なくなり、少子化に悩む先進国と対照的に人口減の問題もありませんので内需に期待が持てる、政治も安定政権に・・等々。
新興国への投資はもうすぐ「リスクマネー」ではなくなると思います。

つまり今回の危機をきっかけにして、よりいっそう先進国から新興国群へ世界経済のパラダイム・シフトが進むのでは、という気がしてなりません。

大胆にいえば、米国から中国への主役交代の流れ・・その地殻変動のひとつとしてサブプライム危機が必然的に起っている、というのは過言かもしれませんが、象徴的な出来事として後々刻まれるのではないかと感じています。


・・いずれにしても、今回の危機は色々な意味で良い勉強になりそうです。