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No65 世界同時株安が米国発マネーバブルに警鐘 ・・・FRB早期利下げ&ドル安へ向う?

2007年04月02日 | グローバル経済
●3/28 ロイターより・・・米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、米住宅市場に対する懸念を表明し、住宅市場の状況が昨年の春からの景気減速の主要因となっていると指摘した。「住宅市場の短期的見通しは依然不透明」とし、サブプライムモーゲージ(信用度の低い借り手への住宅融資)の問題で住宅市場をめぐる疑問が拡大した、との認識を示した。

議長は、不透明性があるものの、FRBは、経済は今後数四半期緩やかなペースで拡大する可能性が依然高いと考えている、との見方を示した。

しかし「この見通しは多くのリスクに左右される。下方(リスク)としては、住宅市場の調整が現在予想されているよりも深刻になることで、おそらくそれはサブプライムセクターの問題でさらに深刻になるかもしれない」と語った。



●3/28 ロイターより・・・ ポールソン米財務長官は28日、米住宅市場の落ち込みは底を打った可能性があり、住宅市場による経済への悪影響は抑制されるかもしれない、との認識を示した。

ポールソン長官は、「住宅市場が底入れもしくは底入れに近づいていることを示す心強い兆候が一部みられる。住宅市場をめぐる問題は今後抑制されると思われる」とした。



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2月末からの世界同時株安は当初、中国(上海総合)株価の急下落が世界のマネーに影響を及ぼしたと見られていましたが、結局は中国にも繁栄をもたらしている世界的マネーバブルの元締め国アメリカの経済の先行きに対する不安が、世界リスクマネー収縮につながったことが原因であったと思われます。

米国の景気後退懸念の材料については、前ファイルまでに数々書いてきたので詳細は省きますが、やはり上の記事にあるように、バブルが崩壊した住宅市場の今後がこれからも世界の投資マインドに大きく影響を与えていくのは間違いないでしょう。

怖いことは、アメリカ一国の住宅投資マーケットが、投資に全く縁のない(普通の?)生活をしている日本人を含む世界の人々の今後の暮らしを左右しかねないということです。

この事象は(当ブログでいつも取り上げている)米国人の過剰消費と世界が命運を共にしている“象徴的な出来事”と考えます。

簡単にいえば、アメリカ人の暮らしに最低限必要な本当の需要スピードを明らかに越えた供給を日本やBRICsが行い、アメリカがそれを背伸びして吸収してきた結果、ここまでの世界景気がもたらされてきたということでしょう。

もちろんアメリカの背伸びのお陰で世界中の多くの途上国の暮らしが豊かになったという果実は大いなるプラスだと思います。
しかし背伸びしてきたものは、いつか本来のサイズにもどらねばなりません。

問題は、いつまで背伸びした状態でいられるのか、ということで、その先頭旗手であった米住宅市場に世界の注目が集まっているわけです。

世界的バブルが起った簡単な図式を、ここでもう一度整理したいと思います。

米IT株バブル崩壊(00年)⇒株価や景気を支えるため低金利政策⇒低金利“過剰”融資による住宅ブーム⇒米国民の資産所得増大⇒消費主導の好景気⇒世界からの対米輸出向上⇒世界的好景気(グローバル化)⇒米企業業績向上⇒米雇用増大・株価向上⇒米消費活動の更なる拡大・・・

アメリカが主導してきたITによって世界のグローバル化が進展し、そのIT株バブルが崩壊したことがキッカケで世界的バブルとなり、いまその行方に暗雲が立ち込めているというわけで、極端にいえばマイクロソフトがもたらしたパソコン普及によって世界中が恩恵もリスクも享受している現世と言えるかもしれません(半分冗談みたいな話ですが・・)。



もうひとつアメリカの過剰消費の原因を考えたとき、もとより不動産(住宅投資)に超ポジティブな米国民に対して、明らかに年収などの裏付けが不足してる人にも自宅価値を担保に大きなお金を貸してきた米金融業界のあり方に疑問を持たざるを得ません。

そのひとつが昨今話題になっているサブプライム住宅ローン(低所得者向け過剰融資)焦げ付き問題です。個人的には我が国で10年近く前に住専問題をキッカケとした金融危機が起ったことを連想せずにいられません。

今は住宅ローン全体の13%のシェアであるサブプライム系の数社が破綻しただけですが、そういった住宅ローン会社へ融資しているのはHSBCやシティバンク、GEキャピタルなど世界的金融機関です。

さっそくシティグループなどは空前のリストラ策を発表して対策を取っていますが、金融の流れの大きな歯車が逆回転を始めないかどうかがこれから重要なファクターになってくると考えます。

今後直近のウォッチポイントとして、

①今後ローンを借りる人への融資基準が急に厳しくなる可能性
②焦げ付きローンの差押さえ物件がバブル崩壊で高く売れず、資金回収不能となってもっと多くのローン機関が危機に陥る可能性
③ローン会社に融資している大手金融機関のリストラ・合併などの収縮⇒米国企業へ影響が波及する可能性

などをチェックする必要がありそうです。

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厳しくなるかもしれないもうひとつの現象は、米国企業の収益力の鈍化です。

●4/1日経より・・・「米企業の収益力鈍化・1―3月増益率1ケタ台に」
米企業の収益力が鈍化している。2006年10―12月期の米企業部門の利益率は大幅に低下。07年1―3月期の増益率も主要500社ベースで約4年ぶりに1ケタ台に鈍化する見込みだ。人件費や原材料費を吸収する余力が衰え始めたためで、設備投資や雇用に影響を与える可能性がある。

米商務省が29日に発表した06年10―12月期の実質国内総生産(GDP)成長率の確定値は個人消費の堅調さから前期比年率2.5%と市場予想を上回った。だが、設備投資が15・四半期ぶりに前期比マイナスになるなど企業部門の変調も鮮明になった。

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この事象はまだ直接住宅バブル崩壊と繋がっているわけではないものの、企業つまり雇用や設備投資が本当に怪しくなって来るとしたら、今は住宅バブル崩壊の影響が出ていない米国消費活動の減退するリスクがもっと高まってきます。

今月からの一連の米企業決算は世界中が注目するところです。


FRBバーナンキ議長やポールソン財務長官はオフィシャルでは慎重な言い回しですが、現役を退いてフリーな物言いができるようになったグリーンスパン前FRB議長の最近の発言は超ストレートですね・・
『サブプライムローン問題は経済全体に影響を及ぼす可能性がある』
『企業利益率の鈍化は景気後退の前兆』
『米国は年内にリセッション(景気後退)入りする可能性がある』

米景気の減速はほんの少し前まで、ソフトランディング(軟着陸)して再び上昇に向う、というのが報道的コンセンサスだったような気がします。世界の進んだ機関投資家たちは、それらがあまり信用できない話ではないかとすでに疑いはじめています。

それが行動としてはじめて表面化したのが、今回の世界同時株安だったといえるでしょう。

最も忘れてはいけないリスクは、この世界中の機関投資家たちの行動は個人投資家に影響を与えるだけでなく半年・一年先の世界景気を動かす力も持っていることです。

グローバルマネーの大動脈が逆流をはじめることが、最終的に各企業や家計に甚大な影響を及ぼすからです。もちろん日本も、とっくにグローバルの渦に巻き込まれています。

世界マネーの悪い兆候を(短期的に)打開できるのは、米FRBによる早期の大胆な利下げしかないと考えます。すでにそう考えている市場関係者は少なくないでしょう。
(そのとき同時に大きなドル安を経験すると推察します)

それであと数年は世界バブルは延命されるのかもしれません。