~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No58 米国 住宅バブル崩壊 vs 株式史上最高値 

2006年10月18日 | 金融・経済全般
●10/17日経朝刊1面(抜粋)・・・株式市場で再び強気論が増えてきた。米国景気の楽観論が世界の株式投資のリスクを小さく見せている。

NYダウ平均は市場最高値の12000ドルに迫っている。

世界株式市場がじわっと方向転換したのは、原油価格が下がり始めた8月頃からだ。
原油安で消費が増えるとの期待があり、住宅価格の下落も「もともと米国の家計の保有資産のうち不動産は3分の1に過ぎず、影響は限られる」

また、円キャリートレードの復活。円で調達した運用資金の残高は3月(量的緩和策解除後)ほぼゼロになったが、日本の低金利・円安が長期化しそうとみて、今は過去最高額に近づいている。

つまりここにきての株高傾向は、世界の投資家が最も警戒していた「米国景気の急減速」の可能性が小さくなったとの前提のもと、低金利の円などで調達した資金などが、商品市況軟化の影響を受けやすい資源株を避ける形で起きている。



●10/16NIKKEI-NET・・・ソロス氏「米住宅市場の調整は続く」・東京で記者会見

 著名投資家で、最近は慈善活動でも知られるジョージ・ソロス氏が来日し、16日に東京都内で記者会見した。ソロス氏は、「米国の住宅価格の水準は数年前に比べて大幅に高く、住宅市場の調整は続く」と指摘。現在は米ダウ工業株30種平均は史上最高値水準にあるが、「ブッシュ大統領の功績ではなく、多くが米連邦準備理事会(FRB)の成果と考えている」と話していた。



●10/17日経朝刊9面・・・《米国ITバブルの崩壊を予言し「根拠なき熱狂」の著者エール大・シラー教授へのインタビュー記事》(抜粋)

「米国主要500社のPER(株価収益率)は25~30倍で、バブル期ほどではないが株はすでに割高」

「企業収益はピークにさしかかっている。住宅市場の調整がいよいよ始まったからだ。米国は今後不況に突入する懸念さえある」

いずれの指数を見ても住宅価格は割高だ。値上がり期待だけで実需を超えた投資が膨らみ、住宅バブルを生んだ。その調整が起きている。中古住宅の下落が始まり、建築の受注が落ち込み始めた。日本が経験したような長期的な調整に陥る可能性は否めない」

「90年代は目の前の株価に驚喜して株バブルを生み、崩壊の痛みに苦しんだ。・・不幸にもバブルは株式から住宅へと移った」

「金融当局(FRB)はバブルに警告を発しバブルを抑える役割がある。英国や豪州の中央銀行は住宅バブルの退治に懸命だが、米FRBはITバブル崩壊後も姿勢に大きな変化はなく、住宅バブルを後押しした」


・・・・・

この1~2日間の同じ日経の報道で、米国株高(史上最高値更新)と米住宅バブル崩壊の行方について全く見方の異なる対比が載っていたので、それらの記事を並べてみました。

最初の一面記事は、住宅価格下落の影響は限定的で、米景気の先行きを楽観視するもので、ゆえに株高が演出されているとしています。

ソロス氏は、住宅市場の下落は続くが、FRBの金融政策の貢献で株高が支えられているとしています。

反対にシラー教授は、FRB金融政策の誤りによる住宅バブルの本格的崩壊は必至で、株もすでに割高、ゆえに不況に突入する懸念がある・・というものです。

誤解を恐れずに言えば、一般的な読者は、これらの記事のどれか一つだけが印象に残る(または一つしか読んでいない)と思います。または、自分の考えに近い記事だけを脳裏に残す(都合の悪い報道は受け付けない)傾向があります。かくゆう私も油断するとそうなります。

しかし、こうやって冷静に各記事の骨子を並べ比較してみることで、起っている一つの事象について各プロフェッショナルが同時に180度相違した見識を持っている、ということが認識できます。

日経の一面は最も「露出が高い」・・つまり閲覧率が高いものです。ゆえに一般的影響力が強い。しかし経済通の間で著名なシラー教授とソロス氏の意見記事を見逃さない人もいるでしょう。 

どの記事も見方によっては、一見もっともらしく聞こえます。果たしてどれがホンモノなのか?真実は近い将来がやってこないとわかりません。

しかし筆者はひねくれ者(?)なので、どの記事も何らかの違和感を感じています。

まず最初の記事については、住宅価格の減速がまだ起り始めたばかりの段階でその影響を楽観視する論調に強い違和感を抱きます。現在の株高を説明するための“後付け記事”といえるでしょう。このような記事類を鵜呑みにして何らかの一方的な投資行動を取ることは非常にリスクが高いと思います。

ソロス氏の来日会見記事は、いかにも大物投資家らしい・・感じがします。すなわち米国の足元の事情とグローバル金融世界を切り離して捉え、バブルであれなんであれ、株高=資産増につながる行為については高く評価するというあからさまな姿勢です。

住宅による資産増は終わったから早々に手を引き、現在FRBや自分たちウォール街が裏で支え演出している(はずの)株式市場を応援する立場とも取れます。その前提として、そもそも自らの影響力を熟知し計算された上で開かれた会見だと思いますので、言質そのまま真意とは受け取れません。世界的に注目の人とはいえ、あくまでグローバルマネーを操る立場での発言ということです。

3つ目の「根拠なき熱狂」で有名なシラー教授ですが、いくらITバブル崩壊を予言的中させた人とはいえ、これは単純な理屈による極論という印象を受けました。

同教授はFRBを無能扱いしていますが、住宅バブル崩壊の行方は現在FRBがもっとも注意を払っている事柄であり、今後の指数の動き次第では必ず手を打ってくるはずです(米国政府しかり)。

ファイルNo57で意見を書いたばかりですが、住宅動向の落ち込みが今以上に激しくなった場合、個人的にはバブル崩壊は人為的に先延ばしする方向(良く言えばソフトランディング)に持っていくのではないか?と考えています。
そう考える一番の理由は、米国FRBだけではなく世界の金融関係者がそれを望むはずだからです。

今ここで米国発の世界不況に向うことだけは避けなければいけない、と世界マネー関係者は強く意識していると思います。彼らの思想のうねりは、ハッキリ形に表れなくとも結果を(短・中期的に)変えるだけのパワーを持っているのではないでしょうか。

もっとも、膨らんでしまったバブルの長期的な根本解決は難しいと思いますが。。先送りした場合、もっと大きなツケを数年後に払う危険性が高いわけです。しかし当面の景気乱高下は避けたい・・。これが世界金融関係者のホンネではないでしょうか。


同じように、“株価は割高になっている”といっても、今後米国株式市場に起るのが本格的なバブル市場だとしたら、今はそれの入口に過ぎないかもしれません。人間はだれも金銭の我欲に弱く、再び大きなバブルの歴史を繰り返すのではないかという気がします。
ITバブルのときはPER45倍!まで買われたということが物語っています。

シラー教授の話を、今すぐではなく仮に3年以内の中長期タームで考えたときには、まさしくその通りになるのではないかという予感がします。


唐突なようですが、40歳台(特に40歳台中盤~後半)の世代が世の中の消費を引っ張っているという統計が広まってきています。
いくつかの本などで紹介されているのでご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、米国の人口構成を調べるとあと3年/2010年の手前まではこの世代が増加していきます(その後は減少の一途をたどる)。

この世代が多くなる時期は消費が活発になり、好況が続くという理論が、特に米国内の進んだ投資家の間でコンセンサスになっているようです。
表立った理屈としては弱いものですが、案外こんな要素も米国の株価を一定程度のバブルへ向わせる事に貢献するのではないかと、個人的に推察しています。

この、特定世代人口数と景気が深く関係する?という話は、また次回改めて掘り下げてみようと思います。