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No55 景気拡大15年目のイギリスにもっと注目を・・・・そこから日本が学ぶべき道

2006年08月30日 | 景気
ドイツ・フランスを中心としたユーロ圏は米国を尻目に緩やかな景気回復が続いていることで、通貨ユーロが史上最高の150円を突破するなど注目の的ですが、英国ポンドは実効相場で見るとユーロよりさらに強い動きを示しています。

通貨価値は様々な思惑で変動するので単純にその国の強さを表すとは言えませんが、景気拡大局面が15年目(!)に突入して、なお力強い経済の動きが見られる英国は、個人的には現時点で最も安定した経済成長国だと思います。

日本人の英国に対するステレオタイプな第一印象は保守的なものが多いと思われ、「王室」「大学/研究」「UKロック」「米国追従」・・そしてもしや、いまだ“大英帝国の斜陽”“英国病”的な衰退イメージを持つ方もいるのではないでしょうか。

本来もっともっと注目されていいはずの英国ですが、日本では(なぜか)報道も少なくタイムリーな認識を持つことが難しい状態です。
そんな中で、最近の貴重な経済関連記事をいくつか拾ってみました。どれも、現在の活気あふれる英国を象徴するものです。

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●7/21NIKKEI 英成長率、4―6月は前期比0.8%増 前年比2.6%増

英政府統計局が発表した2006年4―6月期の英国内総生産(GDP)の伸び率は前期比で0.8%と2004年4―6月期以来の高い伸びだった。前年同期比では2.6%と、2004年10―12月期以来の高い伸びだった。


●7/6NIKKEI 日本企業の対英直接投資が過去最高に・05年度47%増の84件

英国貿易投資総省は5日、今年3月までの1年間に日本企業の対英直接投資が84件と前年度と比べ47%増え、過去最高になったと発表した。欧州市場の拡大を見込み、欧州の拠点を英国に築く企業が増えている。日本企業が海外事業の再構築に動くとともに、企業再編が活発な英国でM&A(合併・買収)を急拡大している。「英国は海外企業による買収への規制が緩やかなことが呼び水」という。


●8/15日経コラム<15年目の英景気拡大> 要点抜粋

ロンドン証券取引所に過去10年間で上場した企業は32カ国、600社を越す。英当局はプーチン政権が新興財閥解体に利用したロシア国営石油会社のロンドン上場を認め、北朝鮮関連企業の上場話すら浮上する。

1986年ビックバン(金融大改革)から20年、国籍を問わず、実力がある金融機関だけが生き残る、ウィンブルトン現象が進んだ。国際化する金融機関を通じて英国に流れ込むお金は厚みを増し、雇用を押し上げる

英野村證券によると、英国の金融とその関連サービス業の雇用は3割増えた。金融産業は、91年を最後にマイナス成長知らずの英経済の牽引役だ。

ロンドンの金属取引所は午前7時だったネット取引の開始を午前1時に繰り上げ銅相場の価格形成に影響を強める中国勢の取引を呼び込む狙いだ。中国やロシア、これら急成長勢力を受け入れるメカニズムをつくり続けている。

英金融サービス機構は最先端に保険商品を提供しやすいように規制を更に緩和する検討に入り、英財務相はロンドンで開かれたイスラム系金融関係者の会議で、イスラム教義にのっとった金融が発展するように税制を見直す方針を表明するなど、「世界に開かれた市場インフラ」を磨き上げる努力が続く。


●8/25NIKKEI 英国、移民増加で人口6000万人を突破

英国の国民統計局が24日発表した人口動向によると、2005年6月時点の英国の人口は6020万人と6000万人を突破した。増加率は過去40年間で最大。中・東欧からの移民が増えたため。高齢化が進むなかで、移民に対する開放的な政策が人口増を支えている。


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新規参入や投資に対する規制の徹底的な緩和によって、人間の血脈に相当するような、大きなカネの流れを積極的に生み出していくブレア政権の手法は、かつての英国と同じように手詰まり感のある日本にとっても大いに参考になるはずです。ちなみに英国は先進国で法人税が低いことでも有名です。

また直接投資の大きな流入によって移民労働力の積極的な確保を進めていますが、それは国民の仕事を奪うことにはならず、英国民の職業は製造業から(金融・流通などの)サービス業へ大きくシフトしています。奪われるどころか雇用率は高い水準にあり失業率も3%前後です。一人あたり所得はむしろ増えており、良好な雇用環境で06年は個人消費の回復、住宅投資も堅調、さらに今後は内需中心の設備投資に回ってくることが期待されています。

経済界で英国といえば住宅市場の話題が多いですが、日本と同時期の80年代末の住宅バブルが弾けたあと、02~03年にかけて再び大きな住宅ブームが起こりました。人口増による需要増、景気拡大による所得増、それに歴史的低金利が重なったものですが、04~05年は上昇率が大きく減速しました(現在の米国と一見似たような状況)。

米国では住宅資産価値の縮小=消費全体の縮小、という大きな懸念が存在しますが、英国ではそのとき急激な減速だったにもかかわらず家計の消費減少は軽微にとどまりました。
家計の実質的な債務は増えたものの、国を挙げての投資活動の推進によって金融資産が増加し、借金をカバーしたといわれています。住宅ローンの延滞率はむしろ減少しています・・
いまの米国から見るとまったく羨ましい状況ですね。

ちなみにその後住宅価値は減退までに至らず反転し、実需によって堅調な価値拡大をたどっています。来年1月にはREITのオープン・ファンドが解禁になり、活発な取引が予想されます。

8月に0.25bp上げた政策金利の行方が気になるところですが、歴史的に見ると依然低金利状態といえます。インフレは原油価格が大きく影響してくると思われますが・・

英国は自国領域にある北海油田や天然ガス埋蔵量により、ヨーロッパで唯一エネルギーを90%自給しているという恵まれた環境にあります。最近は油田生産量のピークアウトが叫ばれていますが、電気・ガスなどの料金は国際比較でまだ最安レベルにあります。
エネルギー事情に大きく左右される他国に比べると安定性が高い環境といえます。

安定性といえば、今年5月~6月の世界同時株安時に、主要国でもっともインデックスが下がらなかったのは英国です(MSCIスタンダード▲1.6%)。

20年前サッチャーの「小さな政府&自助努力」改革が、国に依存していた人々の意識を変え、現在に至る15年間の景気拡大の基礎になったと思われますが、同時に格差の拡大や機会の不均等など今の日本と同じ問題が発生しました。

現ブレア政権はこの問題を、手当支給や公共事業などの「大きな政府」的方法で解決するのではなく、教育技能訓練によって再チャレンジ可能にし、福祉に依存する人々を「経済の担い手」に変えて経済成長につなげていこうとしています。これこそ日本にとって身近な手本になることは間違いないでしょう。

昨年全国的に導入したという「子供信託基金」は、生まれた子供全員に18歳まで資金引き出しができない子供名義の口座を持たせ、政府は親の収入に応じてまず口座に5~10万円を与えるというもの。同口座には税制優遇があり、積み立てを推奨する。
全ての18歳の若者が、教育や開業に向けた資金をもつことを目指すという画期的な取り組みで、機会の均等を確保したいという考えでしょう。同じ悩みを抱えつつあるどこかの国も、まずこの意欲的な姿勢を見習ってほしいところです。

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以上のような英国からのメッセージは、大げさに言えば、政治主導による知恵 および民間活動を最大限開放することで、島国・高齢化という環境では不可能と思われたことも可能になるという現実を、身をもって示しているということです。
本当に15年も景気拡大を続け(笑)、かつビジョンを打ち出し続ける英国に学ぶところはたくさんありそうです。

英国政府が主宰する、対外向けのHPでは自信たっぷりにこう宣言しています。
“我々は、急成長と破裂の繰り返しに終止符を打ちます”
この先この壮大な実験はどうなっていくのか、個人的にも注目していきたいと思います。