~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No54 原油高によるインフレ懸念のニュースは本当か?

2006年08月13日 | 景気
●8/10日経社説より・・米連銀は今後の金融政策について、インフレ圧力が弱まらない場合は、利上げを再開することにも含みを残している。米金融市場でも、利上げがこれで完全に打ち止めになるかどうかについてはまだ見方が割れている。中東情勢などいわゆる地政学的リスクが原油価格に及ぼす影響も不透明要因として残っている。

インフレ圧力がFRBの想定した以上に強くなって、金融引き締めがさらに長引くことになれば、米景気が失速するリスクも強まる。



●8/12日経より・・・主な石油消費国でつくる国際エネルギー機関(IEA)は11日、8月の石油市場月報を発表し、英石油メジャーBPの米アラスカ油田の操業停止などを踏まえて「余剰生産力が依然乏しいことは疑いない」との警戒感を表明した。

IEAはアラスカ油田の操業停止の影響が最大で日量40万バレル、政情不安が続くナイジェリアについては8月上旬時点で同75万バレルの供給途絶が発生しているとの見方を示した。

アラスカ、ナイジェリアに加えて今後、日量約200万バレルの供給途絶が発生した昨年のハリケーン「カトリーナ」級の災害が発生すれば、戦略石油備蓄の協調放出を検討する公算が大きい。


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先月の2つのファイル(No52,53)に続き、もう少し世界経済最大の懸念材料であるエネルギー価格について追ってみたいと思います。

まず先月のファイルをおさらいしながら少し補足しますと、価格高止まりの主因として中東の地政学的リスク・先物の投機資金流入・中国など新興国の需要増などが云われ、加えて最近では米国のガソリン需要が~高値にもかかわらず~増加しているデータや、アラスカやナイジェリア油田の供給断絶(上の記事など)がたびたびマスコミで大きく報道されています。

これらの報道を冷静に見ますと、とにかくどんな理由でも“原油高を説明できるネタ”であれば大きい記事にできる、といった趣きです。

古くはバブル経済の時をはじめ、選挙がらみの時の郵政民営化報道、昨年の日本株やBRICsブーム時などに、このブログでは重ねて「一方的な見方の報道が続くときは要注意」と書いてきました。 それらの報道が立て続けに出されるとき、情報を受ける我々庶民側は思考が止まってしまい、いつのまにか“定説”として信じ込ませられます。

ましてや国を代表する報道機関やTVキャスター・著名エコノミストが発信する情報ですから、情報を信頼するなといっても難しい話です。もっとも価格動向や事件・戦争は(大部分?)事実に基づいていますから、信じる信じないのレベルではない・・ということかと思います。

しかし今回のエネルギー高をあおる連日のニュースも、話し半分に聞いておいたほうが良さそうな感じがずっとしています。

事実報道はニュース価値が高い(=人の目を引く)とマスコミ自身が判断したものについてだけが、我々の目に触れる機会が多い、というのが正確な言い方かもしれません。

それは社会的犯罪や芸能・トレンド情報などについて、よく言われてきたことですが、事実だけを客観的に伝えるイメージの強い経済ニュースにおいても、程度の差こそあれ同じではないかと認識しています。



我々があまり目に触れないところで、いわゆる“ニュース価値の低い”反対の情報がどこかに埋もれていたりします。

上に挙げた記事の中で挙げますと・・

●ナイジェリア油田供給断絶 ⇒ 油田破壊は今年2月のことで、復旧努力の結果供給は通常水準に回復したとの報道あり(11日ロイター発)

●BP社のアラスカ油田操業停止の影響が最大で日量40万バレル損失へ ⇒ うち日量20万バレルは影響なく継続操業され、もう半分の暫定的な生産再開を検討中、かつ新たなパイプラインを半年以内に設置の見通し(12日ブルームバーグ)

●IEAの月報で石油生産に警戒感 ⇒ 同じIEAは今月、「中期石油レポート」を発表していて、今後5年間で石油供給が平均2.3%伸び、需要予想平均2.0%を上回る供給が見込まれているとしている。
そもそも生産側であるOPECは政情不安の渦中に「需要を上回る量が市場に供給されており、原油の供給は依然十分だ」。OECD(経済協力開発機構)によると在庫はここ5年の平均水準を上回っている、としています。  



また、昨年のカトリーナは史上最強レベルのハリケーンがたまたま製油所を直撃したもので、冷静に考えれば、いくら地球温暖化とはいえ今年もまったく同じ状況が訪れる確率は(常識的に考えれば)少ないと思います。
 

さらに、中国の需要増懸念については先月あたりまでよくエコノミストが高騰理由にしていましたが、輸入量が若干減少しているデータが出たり、先のIEA中期レポートでも急激な需要増加は考えづらいとしていて、最近ではそういう声をあまり聞かなくなりました。

米国でもガソリンの値上がりが続けば、ある時点から需要が減り始めるのは自明で、みずほ総合研究所の試算では全米5地区のうち4地区ですでにいつ需要が減ってもおかしくない水準に達しているとしています。


このように、原油高騰に対する理由づけやガソリン値上げのニュースばかり目に付く昨今でも、常にアザーサイド(反対側)の情報が隠れていることを忘れてはいけないでしょう。

原油先物取引をしている機関投資家たちはこのような価格下落につながる情報も随時チェックしているはずです。
現在最悪の状況である中東の地政学的リスクに明るい兆しが見えてくるときが、逃げ足早く売り越しに転じるときではないかと推察します。
(先物市場への資金流入はすでにピークアウト感も指摘され始めています)

あくまで中東情勢次第とはいえ、原油に端を発する世界のインフレ懸念は、少し先を見つめると、云われているよりも楽観的に考えてもおかしくない状況ではないかと認識しています。