第2次世界大戦後、ドイツとの激しい戦いで荒れ果てたイギリス。
一方、本土が荒れることがなかったアメリカでは大衆文化が花開き、
消費社会が幕を開けておりました。
そんなアメリカ文化に影響されたイギリスのアーティスト/デザイナーたちによって
ブリティッシュ・ポップアートが生まれ、
そのアーティストたちに師事された若者の中に、
一人のテキスタイル・デザイナーがいました。
その名は、テレンス・コンラン。
伝統のチェック柄をポップに新解釈したデザインで脚光を浴びた彼は
そのビジネスセンスも開花させ、家具の輸入販売を手掛けたり
ライフスタイルを提案するセレクトショップ「ハビタ」を続々とオープンさせます。
イギリスの若者中心文化「スウィンギング・ロンドン」が花開く時代に
さらに上質なものを提案していく高級セレクトショップ「コンランショップ」をオープン。
ここ日本を含めた、世界展開を行っていくことになります。
一方でコンランは、食分野にも深い関心を持っており、
フランスやイタリアの海外料理にとどまらず、新しい時代のイギリス料理を提唱、
高級店からカフェまで多彩な業態のレストランをイギリス各地に展開、
メニューや食器、小物や従業員の所作に至るまでのすべてをプロデュースしていきます。
中にはコンランが熱心にコレクションしていたビバンダム(ミシュランマン)をコンセプトに、
旧ミシュランイギリス本社跡を買収して改装したレストラン「ビバンダム」なんてものも。
田園地帯に自宅と家具工房を隣接させた邸宅をつくり、
週末に考えたアイデアを月曜に工房で自らミニチュアを試作、
若き家具職人たちに製品化してもらったり、
建築設計事務所を作り、レストランを中心とした複合施設を作っての地域活性化を行なったり
都市計画にも参加していくことにもなっていきます。
そんな彼が晩年もっとも力を入れたのが、
様々なデザイナーの仕事を集め、展示する「デザインミュージアム」。
大量に作られ、捨てられ、忘れられていくものだったデザインを
その作り手とともに記録し、留め、味わうものにしていき
デザイナーという仕事の地位と芸術家と等しいものにする活動、でした。
長い年月とより広い場所への移転を重ねて実現させたこの試みは
世界的にデザインというものの価値を高める結果になるものでした。
…このようにありとあらゆるものを手掛けた
英国デザイン界のモンスターの歴史を、そのプロダクツや
彼が愛し、コレクションしたものたちとともに振り返るのが
この展覧会でございました。
もちろんそのセンスのよさや、憧れる生活環境なども
見どころではあったのですが、彼がもっとも楽しんだのは
自らデザインし、モックを作り、溶接して作り上げていった
家具作りという「形あるものづくり」だったんじゃないかなぁ、と
実現や市販化は難しいけど作らずにいられなかったのだろう
小さなモックの数々を見て思ったりもしたのでした。