基礎からのアメコミ映画講座、現在は
いよいよ今週末公開の「ダークナイト・ライジング」に向けて、
アメコミヒーローの代表格・バットマンについて紹介しております。
第4回の今回は、いよいよ「ライジング」の前2作となる
クリストファー・ノーラン監督によるリブートが行われた新シリーズについて、です。
「&ロビン」の酷評の結果、映画5作目の企画はキャンセルされ
再スタートという形での方向性が模索されることになります。
その中にはアニメ「バットマン・ザ・フューチャー」の実写映画化や
「スーパーマン」とのvs企画が含まれていたわけですが
この企画の中に原作バットマンの仕切り直し企画でもあった
「バットマン:イヤーワン」の映画化企画がありました。
ダーレン・アロノフスキー(「ブラックスワン」)を監督・脚本としたこの企画では
クリスチャン・ベールがバットマン役としてオファーされていたわけですが
紆余曲折の中で消えていった企画でもあったわけです。
その企画が再度浮上したのは2003年。
「メメント」「インソムニア」などの作品で知られるクリストファー・ノーランと
コミックマニアとして知られるデヴィッド・S・ゴイヤー
(「ブレイド」シリーズ脚本や「ゴーストライダー」制作も)の
共同脚本により、ロケを多用したリアル指向のストーリーとして制作が進みました。
(コミックに興味がまったくないノーランのコミックに関する知識を
ゴイヤーが補う、という形で執筆が進められたようです)
バットマン役は「マシニスト」で激ヤセ役を(実際に異常に減量して)演じた後の
クリスチャン・ベールが演じることになり、体を鍛えなおした結果
筋肉がつきすぎてスーツが合わなくなる、というトラブルもありつつ
影のあるプレイボーイ、という原作のブルース像に一番近いキャラとなりました。
ブルース役のオーディションにはキリアン・マーフィーも参加していましたが
こちらは今作のヴィランの一人であるスケアクロウ役となり、
「ダークナイト」「インセプション」にも出演するなど
すっかり『ノーラン組』俳優となりました。
同じ『ノーラン組』俳優としてはマイケル・ケインが
今までマイケル・ガフが4作連続で演じてきた執事のアルフレッドを洒脱に演じ、
モーガン・フリーマンがウェイン社技術開発部門のルーシャス・フォックスを、
そしてゴードン警部補をゲイリー・オールドマンが演じる、という
(「ハリー・ポッター」のシリウス・ブラック役に続くいい人役ですな・・・)
重要な脇キャラに演技力の高いベテランを充てることによって
映画を固めるという方策を成功させております。
ヒロインとなる地方判事のレイチュル・ドーズは今作では
トム・クルーズと結婚したばかりだったケイティ・ホームズが演じ、
かわいくも芯の強い女性というイメージだったのですが・・・
この映画のヴィランはラーズ・アル・グールとスケアクロウの2名・・・と
思われておりますし、実際に目立つのもその2者なのですが
実はもう一人、原作登場のヴィランがいたりもします。
裁判を受けているツァスツ(Mr.ZASAZ)がそのもう一人であり、
人を一人殺すたびに自分の体に傷をつけるサイコキラーという
いかにもノーランが好みそうなキャラだったのですが
ただの殺人犯、としてさらりと描かれてしまったのが残念ではありました。
物語の根幹を為すヴィランであるラーズ・アル・グールを演じたのは
渡辺謙・・・は影武者(原作の従者ナブーに相当?)で、
デュカードこと真のラーズ・アル・グールを演じたのはリーアム・ニーソン。
「スターウォーズ EPISODE I」に続く主人公の師匠役でもあり、
原作そのままのビジュアルで圧倒的な存在感を見せるキャラとなりました。
原作のラーズは70年代、『知力・体力ともにバットマンに匹敵しうるライバルを』ということで
生み出されたキャラクターであり、高い知性でバットマンの正体を推理、
1対1の決闘でバットマンと互角に戦い、さらに死んでも薬品と毒を満たした
ラザラス・ピットに入ることで(一時正気を失うものの)復活可能、のハイスペックさに、
娘であるタリアはバットマンと相思相愛(後に私生児・ダミアンを設ける)という
ドラマ性までもが加味されたキャラであり、長期にわたりバットマンの宿敵として
大規模なテロを計画・実行してきました。
この映画ではブルースの両親の死へも関与していた、という設定が付与され
ゴッサムの街を滅ぼすための計画を実行、さらにはウェイン亭を燃やすという行動に出ます。
スケアクロウはその名の通り案山子姿のコスチュームを身に着けたヴィランであり
原作ではゴッサム大学の心理学教授であったわけですが、生徒を使った人体実験によって解雇され
それをきっかけに犯罪者となります。
主な武器は相手の恐怖心を植え付けたり増幅したりする幻覚ガスであり、
これによって相手の精神に多大なダメージを与えることができます。
一方、肉体的には虚弱であることが弱点でしょうか。
今作ではマフィアの息がかかった悪徳精神科医ですが、裏でラーズの組織とも通じており
ラーズの計画に協力するというキャラでもあります。
また、この世界初のコスチュームを着たヴィラン、でもあります。
ストーリー的には「イヤーワン」をベース・・・
マフィアと汚職がはびこるゴッサムシティへの帰還、
ヴィジランテとしてのデビュー、痛い経験、
蝙蝠を纏うという着想、バットマンとしてのデビュー、
暗黒街への宣戦布告、警官隊との戦い・・・と
大筋で「イヤーワン」をなぞっているものの、ラーズ、スケアクロウの存在がその着地点を変え、
よりスケールの大きい活劇へと転換させているのがこの作品の特徴といえます。
また、「アイアンマン」1作目にも共通する
「ヒーローになっていくDIY的過程」の描写の楽しさや
装甲車的フォルムのバットモービルも魅力といっていいと思います。
そして注目してほしいのは『このシリーズの世界にはヒーローがいない』ということ。
原作でウェイン家が家族で見に行ったのは映画「快傑ゾロ」でしたが
今作ではオペレッタ「こうもり」に変更され、映画やコミックのヒーローは存在しない世界に
最初の、そして唯一のヒーローとして存在するのがバットマン、という設定となっているのです。
そして「ビギンズ」のラストシーン(原作「イヤーワン」ラストと同じ)から3年。
作中時間ではそこまでの時間は流れていない状態の物語が
シリーズ2作目「ダークナイト」となります。
公開当時全米興行収入史上2位(現在は4位)という超ヒット作となり
いまだ世界中に熱狂的なファンの多い作品となった今作。
前作のスタッフからゴイヤーは原案に廻り、ノーランとともに共同脚本を務めたのは
「メメント」の原案、「ビギンズ」の次のノーラン作品である
「プレステージ」の共同脚本も務めた弟のジョナサン・ノーランでした。
メインキャストはレイチュル役のケイティを除いて続投。
(ケイティは前作公開前後、夫のトムとのTV出演時の奇行の多さが問題視されていました)
ベールは「ビギンズ」「プレステージ」に続いてのノーラン作品主演となり、
今作の前には「アイム・ノット・ゼア」でボブ・ディラン(の1側面)役、
名作西部劇のリメイク版「3時10分、決断のとき」での準主役と
さらに演技力に磨きのかかった状態となっておりました。
そしてケイティの代わりのレイチュル役はマギー・ギレンホール。
ケイティのキュートさはないものの、
高い知性と演技力で役の説得力を高める人選でした。
今作は原作での「ロング・ハロウィーン」のエピソードがベースとなっています。
「イヤーワン」から続く物語であり、マフィアの支配の時代から
コスチュームの悪党が跋扈する時代への
転換点を描いた物語であるこのコミックをベースに
バットマン、ゴードン、そしてハーベイ・デントの協力体制の始まりから
崩壊までを描くのがこの物語の主旋律となっております。
今作のヴィランは3名登場するわけですが、
皆すでに過去作に登場したキャラクターとなっています。
前作から引き続き登場し、今では麻薬製造・販売という犯罪者となったスケアクロウ。
今作では「光の騎士」から精神のバランスを崩され、堕ちていく過程が描かれたトゥーフェイス。
そして、ティム・バートン監督の1作目以来の登場となったジョーカー。
今作のジョーカーは旧作のような「コミックの悪役」然とした存在でなく
「狂気」というよりむしろ「混沌」と呼ぶほうが似合う存在となっております。
犯罪を楽しみ、バットマン、警察、マフィアを翻弄し、
デントを狂わせ、ゴッサム市民の「正義」を試す存在。
ヒース・レジャーによる鬼気迫る演技により、この混沌の象徴は映画史に残るカリスマとなり
本来亡くなった俳優には贈られない、ましてやアメコミ映画俳優には、の
アカデミー助演男優賞を没後の彼にもたらしたのです。
(遺作はこの作品の後撮影中であった「Dr.パルナサスの鏡」であり、
彼が演じる予定だったシーンをジョニー・デップらが代役で演じたことも話題になりました)
闇の騎士であるバットマンの鏡像ともいえる
「光の騎士」ハーベイ・デントを今作で演じたのは
絵にかいたようなアメリカンハンサムのアーロン・エッカート。
「サンキュー・スモーキング」や「ベティ・サイズモア」から
「ザ・コア」「ペイチェック」まで出演する
知性とその奥に潜む凶暴性を感じさせる演技力に、アゴの割れっぷりを含めた
(見てて「ここから割れます」って感じだなぁ、とつい思ってしまいます)
理想的なアメリカの男性像(絶対高校時代はフットボールのQBだったと思う)が
大きな喪失によって闇へと堕ちていくその姿も、またこの映画の魅力でもあります。
そしてトゥーフェイスとなった後も、この映画では何度もコインを投げなおすなんてことはなく
己の投げたコインには従う、というトゥーフェイスとしてのプライドを見せているのが
「フォーエヴァー」で悲しい思いをしたコミックファンにはうれしい限り。
そしてこの映画ラストから数年の時が流れ、いよいよ今週末3部作のラストとなる
「ダークナイト・ライジング」が公開、となるわけです。
アメリカでの公開初日の劇場での銃乱射事件、
それを受けての日本を含む海外でのキャスト・スタッフのプレミアプロモーション中止と
さっそく逆風が吹き、さらに前作の高評価と「アベンジャーズ」の高評価・好成績
(現在「ダークナイト」を抜いての歴代3位)によって上がりまくったハードル、
あとはノーラン監督の前作である「インセプション」の賛否両論っぷりが
この映画周辺を騒がしくしておりますが、
是非劇場にてこの物語の終幕を実際に確かめてみたいと思っております。
そして、来年公開のノーランプロデュース、ゴイヤーの脚本参加、
ザック・スナイダー(「ウォッチメン」)監督による次なるDC、いや、アメコミを代表する
あの「鋼鉄の男」の新たな映画「MAN OF STEEL」も楽しみにしたい所です。
(Sの字さんについてもいずれ、またの機会に)
いよいよ今週末公開の「ダークナイト・ライジング」に向けて、
アメコミヒーローの代表格・バットマンについて紹介しております。
第4回の今回は、いよいよ「ライジング」の前2作となる
クリストファー・ノーラン監督によるリブートが行われた新シリーズについて、です。
「&ロビン」の酷評の結果、映画5作目の企画はキャンセルされ
再スタートという形での方向性が模索されることになります。
その中にはアニメ「バットマン・ザ・フューチャー」の実写映画化や
「スーパーマン」とのvs企画が含まれていたわけですが
この企画の中に原作バットマンの仕切り直し企画でもあった
「バットマン:イヤーワン」の映画化企画がありました。
ダーレン・アロノフスキー(「ブラックスワン」)を監督・脚本としたこの企画では
クリスチャン・ベールがバットマン役としてオファーされていたわけですが
紆余曲折の中で消えていった企画でもあったわけです。
その企画が再度浮上したのは2003年。
「メメント」「インソムニア」などの作品で知られるクリストファー・ノーランと
コミックマニアとして知られるデヴィッド・S・ゴイヤー
(「ブレイド」シリーズ脚本や「ゴーストライダー」制作も)の
共同脚本により、ロケを多用したリアル指向のストーリーとして制作が進みました。
(コミックに興味がまったくないノーランのコミックに関する知識を
ゴイヤーが補う、という形で執筆が進められたようです)
バットマン役は「マシニスト」で激ヤセ役を(実際に異常に減量して)演じた後の
クリスチャン・ベールが演じることになり、体を鍛えなおした結果
筋肉がつきすぎてスーツが合わなくなる、というトラブルもありつつ
影のあるプレイボーイ、という原作のブルース像に一番近いキャラとなりました。
ブルース役のオーディションにはキリアン・マーフィーも参加していましたが
こちらは今作のヴィランの一人であるスケアクロウ役となり、
「ダークナイト」「インセプション」にも出演するなど
すっかり『ノーラン組』俳優となりました。
同じ『ノーラン組』俳優としてはマイケル・ケインが
今までマイケル・ガフが4作連続で演じてきた執事のアルフレッドを洒脱に演じ、
モーガン・フリーマンがウェイン社技術開発部門のルーシャス・フォックスを、
そしてゴードン警部補をゲイリー・オールドマンが演じる、という
(「ハリー・ポッター」のシリウス・ブラック役に続くいい人役ですな・・・)
重要な脇キャラに演技力の高いベテランを充てることによって
映画を固めるという方策を成功させております。
ヒロインとなる地方判事のレイチュル・ドーズは今作では
トム・クルーズと結婚したばかりだったケイティ・ホームズが演じ、
かわいくも芯の強い女性というイメージだったのですが・・・
この映画のヴィランはラーズ・アル・グールとスケアクロウの2名・・・と
思われておりますし、実際に目立つのもその2者なのですが
実はもう一人、原作登場のヴィランがいたりもします。
裁判を受けているツァスツ(Mr.ZASAZ)がそのもう一人であり、
人を一人殺すたびに自分の体に傷をつけるサイコキラーという
いかにもノーランが好みそうなキャラだったのですが
ただの殺人犯、としてさらりと描かれてしまったのが残念ではありました。
物語の根幹を為すヴィランであるラーズ・アル・グールを演じたのは
渡辺謙・・・は影武者(原作の従者ナブーに相当?)で、
デュカードこと真のラーズ・アル・グールを演じたのはリーアム・ニーソン。
「スターウォーズ EPISODE I」に続く主人公の師匠役でもあり、
原作そのままのビジュアルで圧倒的な存在感を見せるキャラとなりました。
原作のラーズは70年代、『知力・体力ともにバットマンに匹敵しうるライバルを』ということで
生み出されたキャラクターであり、高い知性でバットマンの正体を推理、
1対1の決闘でバットマンと互角に戦い、さらに死んでも薬品と毒を満たした
ラザラス・ピットに入ることで(一時正気を失うものの)復活可能、のハイスペックさに、
娘であるタリアはバットマンと相思相愛(後に私生児・ダミアンを設ける)という
ドラマ性までもが加味されたキャラであり、長期にわたりバットマンの宿敵として
大規模なテロを計画・実行してきました。
この映画ではブルースの両親の死へも関与していた、という設定が付与され
ゴッサムの街を滅ぼすための計画を実行、さらにはウェイン亭を燃やすという行動に出ます。
スケアクロウはその名の通り案山子姿のコスチュームを身に着けたヴィランであり
原作ではゴッサム大学の心理学教授であったわけですが、生徒を使った人体実験によって解雇され
それをきっかけに犯罪者となります。
主な武器は相手の恐怖心を植え付けたり増幅したりする幻覚ガスであり、
これによって相手の精神に多大なダメージを与えることができます。
一方、肉体的には虚弱であることが弱点でしょうか。
今作ではマフィアの息がかかった悪徳精神科医ですが、裏でラーズの組織とも通じており
ラーズの計画に協力するというキャラでもあります。
また、この世界初のコスチュームを着たヴィラン、でもあります。
ストーリー的には「イヤーワン」をベース・・・
マフィアと汚職がはびこるゴッサムシティへの帰還、
ヴィジランテとしてのデビュー、痛い経験、
蝙蝠を纏うという着想、バットマンとしてのデビュー、
暗黒街への宣戦布告、警官隊との戦い・・・と
大筋で「イヤーワン」をなぞっているものの、ラーズ、スケアクロウの存在がその着地点を変え、
よりスケールの大きい活劇へと転換させているのがこの作品の特徴といえます。
また、「アイアンマン」1作目にも共通する
「ヒーローになっていくDIY的過程」の描写の楽しさや
装甲車的フォルムのバットモービルも魅力といっていいと思います。
そして注目してほしいのは『このシリーズの世界にはヒーローがいない』ということ。
原作でウェイン家が家族で見に行ったのは映画「快傑ゾロ」でしたが
今作ではオペレッタ「こうもり」に変更され、映画やコミックのヒーローは存在しない世界に
最初の、そして唯一のヒーローとして存在するのがバットマン、という設定となっているのです。
そして「ビギンズ」のラストシーン(原作「イヤーワン」ラストと同じ)から3年。
作中時間ではそこまでの時間は流れていない状態の物語が
シリーズ2作目「ダークナイト」となります。
公開当時全米興行収入史上2位(現在は4位)という超ヒット作となり
いまだ世界中に熱狂的なファンの多い作品となった今作。
前作のスタッフからゴイヤーは原案に廻り、ノーランとともに共同脚本を務めたのは
「メメント」の原案、「ビギンズ」の次のノーラン作品である
「プレステージ」の共同脚本も務めた弟のジョナサン・ノーランでした。
メインキャストはレイチュル役のケイティを除いて続投。
(ケイティは前作公開前後、夫のトムとのTV出演時の奇行の多さが問題視されていました)
ベールは「ビギンズ」「プレステージ」に続いてのノーラン作品主演となり、
今作の前には「アイム・ノット・ゼア」でボブ・ディラン(の1側面)役、
名作西部劇のリメイク版「3時10分、決断のとき」での準主役と
さらに演技力に磨きのかかった状態となっておりました。
そしてケイティの代わりのレイチュル役はマギー・ギレンホール。
ケイティのキュートさはないものの、
高い知性と演技力で役の説得力を高める人選でした。
今作は原作での「ロング・ハロウィーン」のエピソードがベースとなっています。
「イヤーワン」から続く物語であり、マフィアの支配の時代から
コスチュームの悪党が跋扈する時代への
転換点を描いた物語であるこのコミックをベースに
バットマン、ゴードン、そしてハーベイ・デントの協力体制の始まりから
崩壊までを描くのがこの物語の主旋律となっております。
今作のヴィランは3名登場するわけですが、
皆すでに過去作に登場したキャラクターとなっています。
前作から引き続き登場し、今では麻薬製造・販売という犯罪者となったスケアクロウ。
今作では「光の騎士」から精神のバランスを崩され、堕ちていく過程が描かれたトゥーフェイス。
そして、ティム・バートン監督の1作目以来の登場となったジョーカー。
今作のジョーカーは旧作のような「コミックの悪役」然とした存在でなく
「狂気」というよりむしろ「混沌」と呼ぶほうが似合う存在となっております。
犯罪を楽しみ、バットマン、警察、マフィアを翻弄し、
デントを狂わせ、ゴッサム市民の「正義」を試す存在。
ヒース・レジャーによる鬼気迫る演技により、この混沌の象徴は映画史に残るカリスマとなり
本来亡くなった俳優には贈られない、ましてやアメコミ映画俳優には、の
アカデミー助演男優賞を没後の彼にもたらしたのです。
(遺作はこの作品の後撮影中であった「Dr.パルナサスの鏡」であり、
彼が演じる予定だったシーンをジョニー・デップらが代役で演じたことも話題になりました)
闇の騎士であるバットマンの鏡像ともいえる
「光の騎士」ハーベイ・デントを今作で演じたのは
絵にかいたようなアメリカンハンサムのアーロン・エッカート。
「サンキュー・スモーキング」や「ベティ・サイズモア」から
「ザ・コア」「ペイチェック」まで出演する
知性とその奥に潜む凶暴性を感じさせる演技力に、アゴの割れっぷりを含めた
(見てて「ここから割れます」って感じだなぁ、とつい思ってしまいます)
理想的なアメリカの男性像(絶対高校時代はフットボールのQBだったと思う)が
大きな喪失によって闇へと堕ちていくその姿も、またこの映画の魅力でもあります。
そしてトゥーフェイスとなった後も、この映画では何度もコインを投げなおすなんてことはなく
己の投げたコインには従う、というトゥーフェイスとしてのプライドを見せているのが
「フォーエヴァー」で悲しい思いをしたコミックファンにはうれしい限り。
そしてこの映画ラストから数年の時が流れ、いよいよ今週末3部作のラストとなる
「ダークナイト・ライジング」が公開、となるわけです。
アメリカでの公開初日の劇場での銃乱射事件、
それを受けての日本を含む海外でのキャスト・スタッフのプレミアプロモーション中止と
さっそく逆風が吹き、さらに前作の高評価と「アベンジャーズ」の高評価・好成績
(現在「ダークナイト」を抜いての歴代3位)によって上がりまくったハードル、
あとはノーラン監督の前作である「インセプション」の賛否両論っぷりが
この映画周辺を騒がしくしておりますが、
是非劇場にてこの物語の終幕を実際に確かめてみたいと思っております。
そして、来年公開のノーランプロデュース、ゴイヤーの脚本参加、
ザック・スナイダー(「ウォッチメン」)監督による次なるDC、いや、アメコミを代表する
あの「鋼鉄の男」の新たな映画「MAN OF STEEL」も楽しみにしたい所です。
(Sの字さんについてもいずれ、またの機会に)