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『俄-浪華遊侠伝-』 司馬遼太郎 (追記あり2/13 15:00)

2006-02-12 23:00:44 | Bookshelf
今日は“菜の花忌”なので記念に、司馬作品のレビュー。
他に書きたい記事が結構溜まってるんですけどね、英詩紀行とか(笑)

俄―浪華遊侠伝

講談社

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主人公は幕末から大正初年にかけて実在した、小林佐兵衛こと明石屋万吉という侠客。
公儀隠密の子として生まれた万吉は父親の失踪とともに奉公先の商家をやめ、なりふりかまわず金を集め、貧乏から脱出を決意。
彼は11歳(!)で子ども賭博を荒らし、死ぬほど蹴られ殴られても金を放さない“どつかれ屋”からスタート、幕府の策謀で暴騰した米相場を問屋連中の頼みで潰し“明石屋万吉”として名を売るようになる。米相場の一件で、奉行所に捕らえられひどい拷問を受けますがそれに耐えぬき、その体力と精神力を見込まれ、播州小野一万石の一柳家から頼まれ、大坂の治安を倒幕勢力から守る大役を引き受けます。
新選組や長州との奇縁などを経て、鳥羽伏見の戦いに巻き込まれるものの、新政府ができて時勢が一編すると、相場師となり巨万の富を築く。しかし万吉はリアリストながら情に脆い性格で、大阪府知事の依頼で授産場に私財を投じることになってしまいます。
頼まれると嫌と言えないがために、大阪一の大親分となり、大阪最大の組織を持った“極道”の親分の一代記です。

ビジュアル的にはまったく魅力はないし(笑/失礼)やってることも勇ましくもなければ格好よくもないんですけど、すっごく面白いです。
登場人物の味わいのある絶妙な大阪言葉の効果もあってか、話のテンポもよく、万吉の仕事振りは上等なマジックのように展開されていきます。拷問等の悲惨な場面すら可笑しみを感じてしまうくらいで、暗さが微塵もありません。錦の御旗も笑い飛ばすような大坂人の心意気が、万吉という不思議な人物を通じて伝わってきました。

1965年~66年に新聞連載されたものなので、既に司馬さんの“型”が定まってからの作品ですね。
そこに初期作品で見られる大坂ものの味わいを取り入れ、他の司馬作品にはない独特の味が出ていると思います。
司馬作品の中ではちょっと異質かもしれませんが、初期作品と以後の作品の要素が融合して、ある意味集大成になっているので、代表作と言ってもいいんではないでしょうか。
司馬さんの幕末モノにしては、主人公が有名人でないからかあまり人気がないのかな。
司馬ファンでも読んでない人が多いようです。


上記文中に“新選組”とあるからには、出てきますよ。
ほんのちょっとだけですけど、土方歳三と山崎烝が。
万吉と対面するすんげー仏頂面の土方の脇で、烝くんがはらはらしてます
2人は文庫P259~264に居るので、ご興味のある方は立ち読みでも(笑)

私が、司馬さんの土方のビジュアル面の描写で2番目に好きなのが、この作品の中の1行。
 これほど絹の黒紋服の似合う男もめずらしい。

1番は以前も書いたけど
 色が白く、くっきりした二重のまぶたで、
 まばたきするたびに音を立てるのではないかとおもわれるほど目もとに特徴があった。

………最高


★余話1
奉行所で万吉を取り調べる与力は、あの内山彦次郎です。
『組!』ではあまりいい人物として描かれてませんが、彼は財政家、経済官吏として実務能力も高く、幕藩体制のもたらす慢性的なインフレに歯止めをかける人物として、かなり評価されていたそうです。
彼を失ったことは幕府にとって大きな損失。
それを葬ったのが幕府を守るために働く新選組……皮肉ですよね。


★余話2
司馬さんは、短編・エッセイから長編へと展開させていることがあります。
この『俄』も、前年に書かれた『侠客万助珍談』(講談社文庫『アームストロング砲』収録)というから発展。
他には
『千葉周作』(講談社文庫『真説宮本武蔵』収録)→『北斗の人』
『英雄児』(講談社文庫『王城の護衛者』収録)→『峠』
『鬼謀の人』(新潮文庫『人斬り以蔵』収録)→『花神』
くらい?
私が知る限りなので、他にもあるかもしれません。
『明治維新の再評価・新選組新論』(昭和37年4月号『中央公論』掲載)というエッセイが、『新選組血風録』に発展したそうですが、これは未読。
読もうと思っても何に収録されてるのかわからなくって~~
全集に入ってるのかな?
あとは私の勝手な憶測ですが
『壬生狂言の夜』(講談社文庫『アームストロング砲』収録)→『燃えよ剣』
もアリかなと。
でも『壬生狂言の夜』は土方が主役じゃないんですよね(汗)


★余話3
司馬遼太郎の幻の推理小説『豚と薔薇』『古寺炎上』が読みた~~~~い。
昭和35年、36年の作品なので、推理小説ブーム&直木賞作家と言えどもまだまだ新人ということもあったのか、出版社の意向に逆らえずしぶしぶ書いたそうで、あまり面白くないとの評判です(笑)
全集からも除外、復刊の予定も全くなし
古書店では数万円単位の値がついてるそうです
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8 コメント

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その部分、読み返そうっと(笑) (まきこ)
2006-02-12 23:42:06
水無月さん、おばんです。

『俄』とは、なかなかマニアックな選択ですね~

2年ぐらい前、知人に薦められて読みました。

そうじゃなければ、読まなかったかも



>これほど絹の黒紋服の似合う男もめずらしい。



その1行、読み返そうっと(笑)

返信する
未読でした (青空百景)
2006-02-13 10:52:30
言い訳になりますが、多過ぎるんだもん、司馬作品って!

ダブリ買いを何度かやらかした挙句、ぱったり買わなくなってしまいました(未読作チェックをしっかりやればいいだけなのに・汗)。

そうかー、これ幕末ものだったんですね。読まなくちゃ!
返信する
まきこさんへ (水無月)
2006-02-13 15:53:36
お、既読ですか

確かにマニアックですよね(笑)

実は私も読んだのはほんの5、6年前。

どういうきっかけがあったわけでもなく、何気に買ったら超無愛想な土方がいました(笑)



>その1行、読み返そうっと(笑)

P262の冒頭です(笑)
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青空百景さんへ (水無月)
2006-02-13 16:01:52
あはは、確かに膨大な作品数ですよね

私も未読のもの、まだまだあります。

エッセイなんか収拾つきません



『俄』は約800ページで結構長いですが、小気味いいテンポの話なのであっという間に読めますよ。

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あーーー!! (青空百景)
2006-02-13 20:49:07
「侠客万助珍談」ですか! やっぱり!(もしかしてと思ったものの、職場の休憩中だったため(汗)確認できずにおりました)

好きなんですよこの短編♪ わー、『俄』早く買おう!

『豚と薔薇』の名前は知ってましたが、『古寺炎上』っていうのもあったんですね。
返信する
青空百景さんへ (水無月)
2006-02-14 02:25:58
あーーー!!(笑)そちらをご存知でしたか!

それなら話が早いわ。早く読んで~~~~



>『豚と薔薇』の名前は知ってましたが

うーん、さすが

『古寺炎上』は金閣寺炎上がモチーフらしいです。

面白くなくても読んでみたい~~。
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読みました (青空百景)
2006-02-19 20:07:35
おっもしろかったー♪

という訳で自分のところで感想を書きました。

リンクさせて下さいませね!
返信する
青空百景さんへ (水無月)
2006-02-19 21:26:31
早いな!約800ページあるのにーー(尊敬)



リンクありがとうございます!

後ほどそちらにお邪魔しまーす
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