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『吉原御免状』 隆慶一郎 (10/15 13:25追記)

2005-10-14 22:02:39 | Bookshelf
“吉原御免状”の検索ワードで引っ掛かって、舞台の『吉原御免状』を期待されてお越しいただいた方には申し訳ないんですが、この記事は原作についてちょっと語ってます。

 吉原御免状
新潮社
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隆慶一郎さん。東大仏文科卒。中央大学助教授を経て脚本家に。
'84年(当時61歳!)に『吉原御免状』で作家デビュー。
処女作がこれって、すごいや。
でももう新作は読めないんですよね。'89年に急逝


歴史小説は読むけど時代小説はあまり読まないわたくし。
2、3年前くらい(うろ覚え)に、友人から「これは読まなきゃ損」と言われて読みました。

おもしろいです。
ハンパじゃないおもしろさ。

細部まで徹底的に書き込まれた情景描写に、綿密にに調べ上げられた歴史史料に基づいて繰り出される、様々な歴史のif……。

たった1枚の紙切れで、御免状というだけなら何ほどのものでもない“神君御免状”。
これにたった3文字が加えられたことで、徳川将軍家にとってこの世に存在してはならないものとなる。
この御免状を巡り、諸説虚々実々入り乱れて縦横無尽に展開される、妖しく哀しい物語。

新刊ではないのでネタばらしするけど、
宮本武蔵、柳生十兵衛&宗冬、後水之尾天皇、天海僧正に、家康に秀忠に…フィクション性の高い時代小説にしては、有名どころが主軸に思いっきり絡みまくってます。
天海=明智光秀説に、関ヶ原で家康が死んで以後は影武者だし、主人公の誠一郎は武蔵の弟子で天皇ご落胤で人智を超えた剣の天才(もちろんイイ男)、柳生家は内輪もめしてるし、秀忠が「家康ですら恐れる男」になってるし……。表向きは廓、実は城砦都市の吉原に高名な高尾太夫(仙台高尾)、日本全国に長大で強力なネットワークを持つ傀儡子の一族に、寿命400年とも800年とも言われる八百比丘尼。
時代小説だからこそできる人物の味付けに、アイデア満載の舞台装置でおなかいっぱい

物語のベースには、虚々実々取り混ぜながらも決して荒唐無稽ではなく、“虚”の部分を上手く使って“実”が見事に裏付けられていて、それが“史実”だと錯覚に陥るくらいの理論が展開されています。
水戸藩主が将軍職を継げない理由と、紀伊藩主が将軍職に就くのに抵抗があった理由に、妙に納得他にも色々ありますが、それは読んでのお楽しみ。

見所は、吉原を巡っての誠一郎対裏柳生との壮絶な死闘。
妖術・幻術・神業のような剣技に、人外の身体能力を駆使した戦闘場面は、まさに血脇き肉踊り、手に汗握ります …飛んで敵が構える剣の上に乗るって、舞台じゃムリだねえ
映像化するなら、『SHINOBI』の綺麗な画面と、『魔界転生』('81)のエンターテイメント性と、『写楽』の舞台装置と、ハリウッドのワイヤーアクション(中国のはちょっとやりすぎなので)をミックスした感じかなあ

吉原は色街で、遊女にとっては苦界というのが今までの常識でしょう。ここでは、傀儡子等の諸国往来勝手の特権を持っていた“無縁の徒”“道々の輩”(漂泊者たち)の自由を守る砦。
戦国以前には世俗の権力が介入できない“不入の地”(公界)というものがあって、多くの漂泊者や無縁の者がそこで自由を獲得していました。しかし世の中が平定されるとともに、時の権力者に目の敵にされて潰されていく。そこで色街を作り、公界→苦界として偽装し吉原という城砦にする。傀儡子たちの元には吉原を守る切り札の家康の御免状があり、それには家康本人の重大な秘密が隠されています。
“神君御免状”を死守する吉原、“神君御免状”を奪回しようと様々に仕掛けてくる裏柳生との戦いは、単純な力のぶつかり合いではなく、漂泊者達の哀しみと、時代に取り残される柳生家の苦しみが描かれていると思います。

ダイナミックな戦闘場面もいいけれど、誠一郎と高尾太夫との交情が実にいい。
特に、誠一郎と高尾の吉原での“初会”から2度目の“裏”、3度目の“馴染み”(これでやっと床入り)へ至る、2人の純粋で濃やかな恋情のやり取りにうっとり

最後は、裏柳生との闘いに勝利した誠一郎が、吉原のトップにつくことを決心するところで終わって、吉原の象徴として「みせすががき」という三味の音が流れる。人の心を動かし物哀しいこの調べは冒頭にも現われていて、以降BGMのように全編に流れている感じがして、印象深いです。


続編はこちら。
裏柳生が復活して、荒木又右衛門まで出てきて、そりゃもう面白いったら
作者はこれをシリーズ化して4部作にするつもりだったそうです。
読みたかったなーー


もう1冊お勧めがこちら。

無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和
平凡社
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“公界”や“漂泊者”、“無縁の徒”と天皇の関係について知るにはこれが一番!



舞台は来週観に行くんだけど、どうなんでしょうか。
原作とは別物として観たほうがいいような気がしますねー。
これだけの材料を舞台では料理しきれないだろうし。
松雪さんの“勝山”はイメージピッタリなんだけど……。
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2 コメント

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Unknown (yopiko)
2005-10-21 15:30:29
こんにちは。

いつもながら、言葉の選び方が的を得ていて、端的に言い表していて素晴らしいな~と思って読んでいました。

特に「様々な歴史のif」という言葉がステキ!

そして、ふと思ったことがあったので記事にしてリンク貼らせていただいちゃいました。

今後もステキな言葉を楽しみにしてます♪
返信する
yopikoさんへ (水無月)
2005-10-23 01:57:00
レスが遅くなりました~。

コメント&リンクありがとうございます



舞台観る前に再読したんですが、レビューに妙にリキ入っりました。面白い作品は書きがいがあるので、ついつい長文になりますね。



えーと、あんまりお褒めの言葉をいただくと、つけあがりますのでほどほどに(笑)
返信する

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