こっくりさん
商売繁盛の神様に稲荷大明神を商売人は尊敬し、家の商売が繁盛しますようにとお祭りして朝晩によく拝む。
稲荷神社を見ると、赤い鳥居の立ち並ぶ門前や社前に必ず、耳の立った狐の坐像がどっかりと腰をすえているが、ありゃー昔から、狐はお稲荷さんの護衛とお使いの役じゃとの言い伝えがあるが、ほんとか嘘かなあ?
さて昔の狐は人に化けたり、人を化かしたりいろいろと悪さもするが、ありゃお稲荷さんの子分で、心霊術を心得ているのかなあ、不思議なこと?
さて暮れもおしせまった雪時雨のちらつく寒い晩、夕飯を済ましていつもの若いしが、気安い吉松の家に集まって来た。
梅吉が「毎晩話ばっかりもたるが、何か変わった面白いことはないかねや」と言うと、みんな少し考えていたが、友竹が「今晩は持って来いの日和じゃ、こっくりさんを迎えていろいろ聞いてみんか」と言いだすと、みんな「そりゃ面白い、やろう」ということになった。
年若い次郎が「こっくりさんを、どうやって迎えて来るが?」と聞くと、友竹が「おらがおばあに聞いて知っちゅう。
まず次郎は豆腐のあげを二枚買うて来い」次郎「ハイハイ」と買いに行く。
「吉松、おまんは畑の人参と菜っ葉を引いてきてきれいに洗え」吉松「ホイホイ」と取りに行く。
「梅吉よ、おまんは前にやったけ知っちゅうろう、広い紙に字を書くのと、赤箸と御神酒の準備をせえや」梅吉「よっしゃ、よっしゃ」と、みんな準備にきようた。
半時もたつと、みな出来揃うた。
あげ、人参、菜っ葉、大半紙に真ん中をあけてふち回りに書いた字は、「好き、嫌い、早い、遅い、行く、行かない、吉、凶」などである。
赤の大箸を三本の元を下に、先を上にして、先から少し下を紙縒で束ね、三つ足に立てて出来上がり。
友竹が「準備ができたか、さあいくぞ、こっくりさんは犬を嫌いじゃが、犬年の者はおらんか?」「犬どしゃおらんおらん」「そんなら字を書いた半紙と、別の半紙一枚と、ほかの物は皆めんめに持って行け」と、皆がそれぞれに提げて寒い夜空に出掛けた。
次郎が「何処へ行くが?」と聞くと、梅吉が「え(良)え四つ辻じゃなけりゃいかんけ、裏町の桜橋の四つ辻にしょう」と、皆でてくてくとやって来た。
友竹が辻の真ん中へ半紙を敷いて、あげと野菜と御神酒を上げた。
字を書いた一枚の半紙の上へ箸を結んだのを三角に立てて置き、「さあこれで、こっくりさんを迎えるけ、皆で手を合わして、『こっくりさんお迎えに来ました、お願いします』と言うて頼めや」と。
みんな言うとうり言い、拝みながら箸を見ていたら、箸がこっくり動いた。 友竹が「こっくりさん、ご機嫌が良うて乗り移ったぞ、大事に提げて行けや」と言う。
吉松が半紙に乗せた三本箸を大事にさげて、皆ぞろぞろと家に帰った。
半紙に乗せたこっくりさんを、座敷の中央に置き、皆で取り巻いて座った。
「さあ、誰にやらそか、次郎が若いけ良かろう」と、次郎に決まった。
さて友竹が、次郎に「ほかの者が頼み事を言うたら、その通り言うて箸のくくり目を軽う指で挟んで目をつぶれ、そうしたら箸がひとりでに動いて字を指すけ」と。
すると梅吉が「おら、兵隊に行くか行かんか聞いてくれ」次郎が教わったとうりにすると、箸はこっくりこっくりと静かに動いて、一本の箸が「行く」を指した。
みんなびっくりして思わず手がなった。
次は友竹が「おらは嫁を貰うが、早いか遅いか聞いてくれ」すると、こっくり動いて「早い」を指した。「ええことねや」と声が沸く。
すると吉松が「僕が思うちゅう彼女は、僕を好きか嫌いか聞いてや」すると、こっくりこっくり動いて「嫌い」を指した。吉松は「しゃんしもうた、聞くんじゃなかった」と頭をかく。
みんながいろいろなことを尋ねては、感心したり、笑うたり、おくれたりしながら、若いしの楽しい夜はふける。
友竹は皆に「しょう面白かったが、もう夜も遅い、こっくりさんに、いんでもろうて、寝ちょかにゃあ、明日につかえるぞ」と言い、半紙と箸を持って外に出て、「こっくりさん、おおきに、また来てや」と言って、三本箸に息をプーッと吹きかけて、「これでこっくりさんは、もういんだけ、皆もいんでええ夢見て、こっくりと寝えや」と。
「そんならお休み」と言い合いながら皆家に帰る。
お迎えの時に四つ辻にお供えしてきた、あげや野菜に御神酒は、こっくり狐さんが食べたのか、早起きの人がこっそり戴いて帰ったか、朝の辻には半紙だけがそよ風に舞っていた。
こっくりさんは、狐の魔法使いが宿るのかなあ?
◎昔はほんとに不思議で面白い遊びがあったこと。
三郎さんの昔話・・・作者紹介
三郎さんの昔話
商売繁盛の神様に稲荷大明神を商売人は尊敬し、家の商売が繁盛しますようにとお祭りして朝晩によく拝む。
稲荷神社を見ると、赤い鳥居の立ち並ぶ門前や社前に必ず、耳の立った狐の坐像がどっかりと腰をすえているが、ありゃー昔から、狐はお稲荷さんの護衛とお使いの役じゃとの言い伝えがあるが、ほんとか嘘かなあ?
さて昔の狐は人に化けたり、人を化かしたりいろいろと悪さもするが、ありゃお稲荷さんの子分で、心霊術を心得ているのかなあ、不思議なこと?
さて暮れもおしせまった雪時雨のちらつく寒い晩、夕飯を済ましていつもの若いしが、気安い吉松の家に集まって来た。
梅吉が「毎晩話ばっかりもたるが、何か変わった面白いことはないかねや」と言うと、みんな少し考えていたが、友竹が「今晩は持って来いの日和じゃ、こっくりさんを迎えていろいろ聞いてみんか」と言いだすと、みんな「そりゃ面白い、やろう」ということになった。
年若い次郎が「こっくりさんを、どうやって迎えて来るが?」と聞くと、友竹が「おらがおばあに聞いて知っちゅう。
まず次郎は豆腐のあげを二枚買うて来い」次郎「ハイハイ」と買いに行く。
「吉松、おまんは畑の人参と菜っ葉を引いてきてきれいに洗え」吉松「ホイホイ」と取りに行く。
「梅吉よ、おまんは前にやったけ知っちゅうろう、広い紙に字を書くのと、赤箸と御神酒の準備をせえや」梅吉「よっしゃ、よっしゃ」と、みんな準備にきようた。
半時もたつと、みな出来揃うた。
あげ、人参、菜っ葉、大半紙に真ん中をあけてふち回りに書いた字は、「好き、嫌い、早い、遅い、行く、行かない、吉、凶」などである。
赤の大箸を三本の元を下に、先を上にして、先から少し下を紙縒で束ね、三つ足に立てて出来上がり。
友竹が「準備ができたか、さあいくぞ、こっくりさんは犬を嫌いじゃが、犬年の者はおらんか?」「犬どしゃおらんおらん」「そんなら字を書いた半紙と、別の半紙一枚と、ほかの物は皆めんめに持って行け」と、皆がそれぞれに提げて寒い夜空に出掛けた。
次郎が「何処へ行くが?」と聞くと、梅吉が「え(良)え四つ辻じゃなけりゃいかんけ、裏町の桜橋の四つ辻にしょう」と、皆でてくてくとやって来た。
友竹が辻の真ん中へ半紙を敷いて、あげと野菜と御神酒を上げた。
字を書いた一枚の半紙の上へ箸を結んだのを三角に立てて置き、「さあこれで、こっくりさんを迎えるけ、皆で手を合わして、『こっくりさんお迎えに来ました、お願いします』と言うて頼めや」と。
みんな言うとうり言い、拝みながら箸を見ていたら、箸がこっくり動いた。 友竹が「こっくりさん、ご機嫌が良うて乗り移ったぞ、大事に提げて行けや」と言う。
吉松が半紙に乗せた三本箸を大事にさげて、皆ぞろぞろと家に帰った。
半紙に乗せたこっくりさんを、座敷の中央に置き、皆で取り巻いて座った。
「さあ、誰にやらそか、次郎が若いけ良かろう」と、次郎に決まった。
さて友竹が、次郎に「ほかの者が頼み事を言うたら、その通り言うて箸のくくり目を軽う指で挟んで目をつぶれ、そうしたら箸がひとりでに動いて字を指すけ」と。
すると梅吉が「おら、兵隊に行くか行かんか聞いてくれ」次郎が教わったとうりにすると、箸はこっくりこっくりと静かに動いて、一本の箸が「行く」を指した。
みんなびっくりして思わず手がなった。
次は友竹が「おらは嫁を貰うが、早いか遅いか聞いてくれ」すると、こっくり動いて「早い」を指した。「ええことねや」と声が沸く。
すると吉松が「僕が思うちゅう彼女は、僕を好きか嫌いか聞いてや」すると、こっくりこっくり動いて「嫌い」を指した。吉松は「しゃんしもうた、聞くんじゃなかった」と頭をかく。
みんながいろいろなことを尋ねては、感心したり、笑うたり、おくれたりしながら、若いしの楽しい夜はふける。
友竹は皆に「しょう面白かったが、もう夜も遅い、こっくりさんに、いんでもろうて、寝ちょかにゃあ、明日につかえるぞ」と言い、半紙と箸を持って外に出て、「こっくりさん、おおきに、また来てや」と言って、三本箸に息をプーッと吹きかけて、「これでこっくりさんは、もういんだけ、皆もいんでええ夢見て、こっくりと寝えや」と。
「そんならお休み」と言い合いながら皆家に帰る。
お迎えの時に四つ辻にお供えしてきた、あげや野菜に御神酒は、こっくり狐さんが食べたのか、早起きの人がこっそり戴いて帰ったか、朝の辻には半紙だけがそよ風に舞っていた。
こっくりさんは、狐の魔法使いが宿るのかなあ?
◎昔はほんとに不思議で面白い遊びがあったこと。
三郎さんの昔話・・・作者紹介
三郎さんの昔話