霊 魂
時は明治二十年過ぎ。村でも器量良しのお米さんは十九の娘盛り。村の大家の山下家、二人兄妹の家取りの体格も人並み以上で男前の要治に見込まれて夫婦になり、
幸せな日々を楽しく過ごしていたが、一年たらずで日露戦争になり、夫の要治は出征し戦場に出た。
時にお米さんは男子を出産し大事に育んでいたら戦争が激しくなり、二百三高地の激戦で夫要治が戦死したとの報にせっした。
悲しみの中にも夫の形見に男子を大切に育てて日を送っていたが、要治の母は、お米は二十歳そこそこで戦死者の妻として、若後家で一生を過ごさすは惨いことと思い、
孫は私が育てる、暇をやるから里に帰り再婚して幸せになれと言いくるめて、お米は泣く泣く子供を母に預けて里に帰る。
その後お米は縁あって教員の妻となり、二女に恵まれ幸せな日々となった。
時は過ぎて、祖母に残してきた子は成人し嫁をもらい女の子が誕生した。お米さんにとっての初孫である。
自分の下の娘が小学一年でかわいい盛りであるのに、孫が特にかわいい。それは残してきた我が子に十分なことが出来なかったとの心残りがあったせいでもあろう。
「さわ、さわよ」と目に入れても痛くない程の可愛がりようであった。孫のさわが四歳のとき、お米さんはふと悪い病にかかり、死の寸前にも自分の娘より孫のさわを、
さわを連れてこいと、いとおしんで他界した。
それから時は流れてさわも成人し、嫁いで三人の母となり忙しい日々を過ごしていた。秋の彼岸に久し振りに里帰りして、父母や妹らと先祖の墓参に行き、
可愛がってくれた祖母お米ばあさんの墓にお参りして、墓地を一歩出た時、不思議なことに、さわの右肩がづんと何かもたれかかったように重くなった。
さわが「ああ、肩が重い」と言うと、父が「そりゃ、お祖母さんがさわが来てくれたので嬉しゅうてもたれかかったわ」と言うと、妹らは、
「そんなことあるかや」と笑ったが、本人もそんなことはないと思い、何気なく帰ったが、右肩は次第に重く頭の髪をかくにも手は重く、帯を結ぶにも手は後ろに回らず、
身体はどこも悪いことはないのに、右肩は重くて手が自由に動かない。
父が言ったこと、好きで可愛がってくれたお祖母さんが肩にかきつくなんてそんなことないと思ってもなおらん。しかたなく神官さんに見て貰った。
なにも知らない神官さんは、「貴方はお墓参りに行ったろう」「はい、行きました」
「そうじゃろう、祖母さんが貴方を可愛ゆうてたまらなくて死んだ。その霊が取り付いちゅう。はずしをして上げる」と言い、神棚に祝詞を挙げて祈り、
「さあ、拝みなさい」と言うので手を合わし懇ろに拝んだ。
すると神官さんが「手を上げてみい」言うので手を上げた。不思議なことに肩の重みがなく、元の通りの軽さになりなんともない。不思議なこと。
神官さんがその時申された。「可愛がってくれた祖母さんを、よおうお参りして度々お参りに来るけ、かきつかずにおってと言え」と。
その後は努めて春秋の彼岸には里の先祖や祖母にも墓参りをして、神官さんの言われた通りにしておりますが、
その後はお米ばあさんはかきつくことはなく安心して墓参ができるようになりました。
三郎さんの昔話・・・作者紹介
三郎さんの昔話
時は明治二十年過ぎ。村でも器量良しのお米さんは十九の娘盛り。村の大家の山下家、二人兄妹の家取りの体格も人並み以上で男前の要治に見込まれて夫婦になり、
幸せな日々を楽しく過ごしていたが、一年たらずで日露戦争になり、夫の要治は出征し戦場に出た。
時にお米さんは男子を出産し大事に育んでいたら戦争が激しくなり、二百三高地の激戦で夫要治が戦死したとの報にせっした。
悲しみの中にも夫の形見に男子を大切に育てて日を送っていたが、要治の母は、お米は二十歳そこそこで戦死者の妻として、若後家で一生を過ごさすは惨いことと思い、
孫は私が育てる、暇をやるから里に帰り再婚して幸せになれと言いくるめて、お米は泣く泣く子供を母に預けて里に帰る。
その後お米は縁あって教員の妻となり、二女に恵まれ幸せな日々となった。
時は過ぎて、祖母に残してきた子は成人し嫁をもらい女の子が誕生した。お米さんにとっての初孫である。
自分の下の娘が小学一年でかわいい盛りであるのに、孫が特にかわいい。それは残してきた我が子に十分なことが出来なかったとの心残りがあったせいでもあろう。
「さわ、さわよ」と目に入れても痛くない程の可愛がりようであった。孫のさわが四歳のとき、お米さんはふと悪い病にかかり、死の寸前にも自分の娘より孫のさわを、
さわを連れてこいと、いとおしんで他界した。
それから時は流れてさわも成人し、嫁いで三人の母となり忙しい日々を過ごしていた。秋の彼岸に久し振りに里帰りして、父母や妹らと先祖の墓参に行き、
可愛がってくれた祖母お米ばあさんの墓にお参りして、墓地を一歩出た時、不思議なことに、さわの右肩がづんと何かもたれかかったように重くなった。
さわが「ああ、肩が重い」と言うと、父が「そりゃ、お祖母さんがさわが来てくれたので嬉しゅうてもたれかかったわ」と言うと、妹らは、
「そんなことあるかや」と笑ったが、本人もそんなことはないと思い、何気なく帰ったが、右肩は次第に重く頭の髪をかくにも手は重く、帯を結ぶにも手は後ろに回らず、
身体はどこも悪いことはないのに、右肩は重くて手が自由に動かない。
父が言ったこと、好きで可愛がってくれたお祖母さんが肩にかきつくなんてそんなことないと思ってもなおらん。しかたなく神官さんに見て貰った。
なにも知らない神官さんは、「貴方はお墓参りに行ったろう」「はい、行きました」
「そうじゃろう、祖母さんが貴方を可愛ゆうてたまらなくて死んだ。その霊が取り付いちゅう。はずしをして上げる」と言い、神棚に祝詞を挙げて祈り、
「さあ、拝みなさい」と言うので手を合わし懇ろに拝んだ。
すると神官さんが「手を上げてみい」言うので手を上げた。不思議なことに肩の重みがなく、元の通りの軽さになりなんともない。不思議なこと。
神官さんがその時申された。「可愛がってくれた祖母さんを、よおうお参りして度々お参りに来るけ、かきつかずにおってと言え」と。
その後は努めて春秋の彼岸には里の先祖や祖母にも墓参りをして、神官さんの言われた通りにしておりますが、
その後はお米ばあさんはかきつくことはなく安心して墓参ができるようになりました。
三郎さんの昔話・・・作者紹介
三郎さんの昔話