「今年は、やきいもをあまり買わないね。」
家族にそう言われて、確かにそうだと気付いた。
理由は簡単。
通勤経路を買えて、最寄りの駅が固定されてしまったので、馴染みの「石焼き芋」屋が居ないのである。
なんじゃ、その、「最寄りの駅が固定」されるちゅーのは?という疑問はおいといて、売ってないモノは買えない、ただそれだけの話だったのだ。
ところが今日は、最寄りの駅に「石焼き芋」屋のおっちゃんが居たので、、思わず「石焼き芋」を買ってしまった。
で、買って帰って気付いたことは・・・。
「あー、去年買ってたおやぢの方が、拘っていたなぁ」
という事だった。
・・・そのオヤジは、車の後ろに積んである焼き芋の釜の横に、時間があれば立っていて、いつも火加減を気にしていた。
どの芋を大体いつ入れたか、ちゃんと整理していて、焼いている途中の芋はここ、焼き上がって食べ頃の芋はここ、少しやけすぎて、旬(?)を過ぎた芋はここ、と言う具合に釜の中で置いてあった。
そうやっているので、行ったときに
「美味しいところ、ちょうだい。」
というと、
「あ、これとか、これとかが今、美味いよ。」
と、おすすめの芋がさっと出てくるのだ。
そう考えると、今日の「石焼き芋」屋は、あまり考えもせず、一番焼けている奴を出してきた気がする。
その上このオヤジ、自分に厳しいというか、商売っ気が無いというか、やけすぎの芋は決して売らず、そのまま持って帰るか、まだギリギリ食べられる奴は、盛大におまけしてくれていた。
だから、中くらいの1本だけと思ったのに、やけすぎの芋を2,3本貰った挙げ句、
「やけすぎの方は、とっとかないで早くくっちまいな」
とか言われた所為で、その夜のうちに食べちゃって苦しくなったことがある。
最後のこだわりは、芋を入れる袋。
必ず紙袋を使っている。
そう、焼きたてのパンと一緒で、焼き芋をイキナリビニールに入れると、自分自身の湯気でべちゃべちゃになるのである。
それ故、このオヤヂは、必ず、紙袋に芋を入れるのであった。
そんな、こだわりの「石焼き芋」屋だったのだが、残念ながら、あまり流行ってはいない。
理由は簡単。
ちょっと見ていれば判る。
そう、このオヤヂ、研究熱心なあまり、商売モノの端を片端から味見してしまうのである。
もちろん、直にかぶりついたりはしない。
端の方をちょっと折って、味見するのだ。
なので、大体どの芋も、端の方がちょっと無くなっていた。
味見しているのだから、芋の味が、ばっちり判るのは当たり前だ。
それ故に、お客さんが皆、ちょっと引いていたのである。
たまに買うのは私のように、オヤヂが直につまみ食いしたのではないことを知っていて、かつ、この店の芋がうまいことを知っている人だけなので、そうそう売り上げは伸びない、と言う訳なのである。
多分、今もあのオヤヂは、自分の「石焼き芋」を味見しながら、研究に勤しんでいるのだと思う。
今度、暖かくなる前に、ちょっと遠回りをして、あのオヤヂから芋を買ってやるかなぁ・・・。
今日買った、ちょっとべちょっとした芋を食べながら、そんなことをふと思った。