~ PM04:15 羽音 ~
ロッカーに飛び込んで、制服を脱ぎながら携帯で時間を確かめる。
大丈夫、まだ余裕。
家によって、化粧を直せる。
服のボタンを留め、ちょっと髪を直したら、彼にメール。
『今から出るよ。
待っていて。』
そして、駐車場に走る。
~ PM04:18 KURO ~
また、馬鹿がえらそうな事を言っている。
ああ、無駄な会議だ。
ため息をついた時、携帯が震える。
羽音だ。
そっと、机の下で携帯を開く。
『今から出るよ。
待っていて。』
時計に表示される時間と、残る資料の量を見比べる。
くそっ。終わりそうにないなぁ。
小さく舌打ちをして、誰にもきづられぬ様、返事を返す。
『気をつけて。
待ってる。』
だが、馬鹿の説明がまだ終わりそうもない。
俺は、馬鹿を睨み返す。
~ PM04:23 羽音 ~
何時もより混んでいる道。
気持ちが焦る。
不意にメール着信のメロディが鳴る。
KUROちゃんの好きな曲。
ちょっとだけ、周囲を気にしつつ、渋滞の中、携帯を開く。
『気をつけて。
待ってる。』
そうね。
こんな所で焦ってもしょうがない。
多分、渋滞は、この先の大通りまで。
それを抜ければ、家までは直ぐ。
時間もまだ、大丈夫。
少し動いて、止まった隙にメールを返す。
『ありがと。
KUROちゃんは、平気?』
渋滞の列が、また少し前に動く。
信号も見えてくる。
あと、もう少し。
~ PM04:52 KURO ~
馬鹿の顔がどす黒く歪む。
しかたねえよ。
お前が悪い。
俺を買ってくれている上司が、フォローを入れてくれる。
ラッキー。
今日は終わりそうだ。
早く終わってくれよぉ。
さっき、確かに携帯が震えたが、この雰囲気では開けない。
ごめん、羽音。
きっと行くから、もう少し待て。
~PM05:11 羽音 ~
家について、化粧を直した。
KUROちゃんからは、返事が来ない。
また、きっと会議。
イッタイ何の会議なんだろう。
あたしには、わからない。
でも、あたしは信じている。
KUROちゃんは、きっと来る。
おっと、急がなきゃ。
本当に遅れてしまう。
~ PM05:18 KURO ~
奴が俺に吐き捨てるように言う。
「自分の立場をわきまえろ!」
知った事か。
奴の後ろで、俺をフォローしてくれた上司が、ウインクしている。
俺は、ちょっと頭を下げて、振り向きながら携帯を開く。
『ありがと。
KUROちゃんは、平気?』
俺は、自分の席に走って戻りながら、返事を打つ。
『会議、終わった。
もう、でかけるよ。』
クローゼットによってコートを持ち出すと、そのまま席に着く。
会議中に溜まった数10件のメールには目もくれず、PCの電源を落とす。
終了だ!
俺は、心の中で宣言する。
~ PM05:32 羽音 ~
さっきの渋滞を見たのでちょっと迷ったけれど、車で出て良かった。
空港方面は空いているみたい。
メールのメロディがなる。
あ、KUROちゃん、会議終わったかな?
それとも・・・?
ああん、運転中は携帯が開けないよぉ。
こういうときに限って、交差点は青が続く。
不意に、フロントガラスに何かが落ちる。
雪?
そっか、確かに天気予報で夜半には雪になるって、言っていた。
まだ、降り始め。
飛行機は大丈夫だよね??
次の交差点が見えてくる。
信号は・・・?青だ。
~ PM05:41 KURO ~
羽音からの返事が来ない。
という事は、きっと運転中だ。
空港に向かっているんだろう。きっとね。
そう思いながら、俺は駅の階段を駆け上がる。
「まもなく、○○方面行き電車が参ります。」
やばい、これに乗らなければ、乗継が危ない。
改札が見えてくると同時に、電車が駅に滑り込む音も聞こえてくる。
ああ、待ってくれ。
羽音の飛行機を迎えられないじゃないか。
~ PM05:45 羽音 ~
空港の駐車場に滑り込む。
思ったより余裕がない。
空港までの時間を勘違いしていた。2回目なのに。
とりあえず、携帯を開く。
『会議、終わった。
もう、でかけるよ。』
よかった。KUROちゃんも、間に合いそうだ。
でも。
ああ、メールの返事を書く暇がないなぁ。
慌てて、車を降りてロックする。
大丈夫、飛行機には間に合う。
でも、念のため。
懸命に走る。
航空会社のサービスカウンターが見えて来た。
えっ?誰もいない?!
そんな!だって時間はまだ?!
~ PM05:52 KURO ~
電車に飛び乗ってはいいが、まだ息が切れている。
運動不足だな。
でも、安心はしていられない。
次の私鉄への乗り換えも、距離があるのに時間がない。
しかも、今の位置からでは、なおさら遠い。
結構、混んでいるから位置を変えるのも難しいようだ。
ああ、また、走るなぁ。
ちょっと、苦笑い。
それにしても、羽音からの返事が来ない。
そろそろ、「今、空港」という返事が来るはずなのだが。
何かあったのだろうか?
~ PM06:00 羽音 ~
ギリギリ!
あたしは、携帯の電源を切った。
もう、後は・・・。
~ PM06:05 KURO ~
乗り換えもギリギリセーフだ。
後は、この電車の終点が空港。
開いている席に座っていこう。
ちょっと気になり、メールの確認をしてみるが、羽音からのメールはない。
もう、乗っている頃だ。
間に合わなかったのならば、それなりに連絡が有ると思う。
間に合ったんだよね?羽音?
~ PM06:52 KURO ~
思わず、うたた寝してしまった。
慌てて携帯を確認する。
羽音のメールは、ない。
というか、既に空港近くで地下に入ってしまったので携帯は「圏外」になっている。
大丈夫。
羽音は、きっと何時もの便に乗っている。
アナウンスが流れる。
「終点。空港です。お忘れ物の無い様に・・・。」
俺は、席から立ち上がる。
やがて、ホームに滑り込む車両。
ドアが開く。
それが開ききるのももどかしく、俺は車両から飛び出す。
改札を抜ける。
階段を駆け上がる。
空港の内部が見えてくる。
エレベータに駆け寄る。
ラッキー。
扉が直ぐに開く。
展望階は?6階だ。
ゆっくりとエレベータが上昇する。
大丈夫、あと、10分ある。
到着。
急いでエレベータから降りる。
展望台の場所を確認する。
小走りに6階のフロアを駆け抜ける。
展望台への階段。
これも、駆け上がる。
そして、到着6分前。
展望台である。
夜の空港は、光に包まれている。
空港自身のビルや滑走路、誘導灯の明かり。
それから、空港の向こうに広がる大都市の明かり。
こうして、展望台から眺めると、光の洪水の中にいるようだ。
ふと空を見上げる。
ちょっと薄く曇っているのか、星は見えない。
変りに、幾つもの光点が空港の周りを巡回している。
まるで、昔見た「未知との遭遇」の一シーンのようだ。
その光の点が、順々に空港に舞い降りてくると飛行機に変る。
不意に、少し他と違う輝点に気づく。
きっとあれが、羽音の飛行機だ。
時計を見る。
たぶん。まちがいない。
その輝点は大きく旋回すると、滑走路へ進入を開始する。
だんだんと低くなる輝点。
やがて、その点も飛行機に変る。
航空会社、機種。間違いない。
轟音を立てて、羽音の飛行機が、今着地する。
ようこそ、羽音。
俺は、そっと手を振る。
そして、羽音を迎えに到着口に向かう。
~ PM07:05 羽音 ~
着いた。
私は、携帯の電源を再び入れる。
着いた。
着いたよね?KUROちゃん?
~ PM07:11 KURO ~
空港の掲示板で、到着便の確認をする。
間違いない。
さっきの飛行機だ。
到着口から、手荷物のない人がもう出てきている。
俺は、じっと出てくる人を眺めている。
じっと、羽音を待っている。
羽音の想いを感じている。
やがて、人並みが途切れる。
そして・・・。
俺は、そっと携帯を開き、メールを打つ。
『着いた。
受け取ったよ。
羽音の想い。』
~ PM07:16 羽音 ~
携帯のメールが届く。
そっと車の中で携帯を開く。
『着いた。
受け取ったよ。
羽音の想い。』
良かった。あたしは、ちょっと微笑み、返事を返す。
『よかった。
遅れそうだった。
でも、無事に想いを乗せられたよ。』
~ PM07:17 KURO ~
『よかった。
遅れそうだった。
でも、無事に想いを乗せられたよ。』
俺は、ちょっと苦笑する。
やっぱり遅れそうだったんだ。
この前も言ったのにね。
そう、これは、羽音と二人のゲーム。
二人は、3ヶ月前に、どこかのチャットで知り合った。
俺は、羽音のメールしか知らない。
でも、間違いなく、俺たちは愛し合っている。
顔も声も知らないけれど、俺たちは愛し合っている。
メールだけのやり取りで、何故そんな事が言える?と問い詰められても。
ただ、俺は「事実だ」というしかない。
羽音は、地方都市に住んでいて、俺はこの人の密集したウザイ場所にいる。
本当は、直ぐにでも会いに行きたいのだけれど、「現実」が、二人をそれぞれの場所に縛り付けている。
なので。
月に一度、羽音は、羽音の街を飛び立つ飛行機に、俺への想いを乗せる。
俺は、月に一度、この空港に来て、羽音の想いを受け取る。
ただ、それだけのゲーム。
そして、俺はメールを打つ。
ゲームの終了を知らせるために。
『もう、おうち?』
~ PM07:28 羽音 ~
ネットで恋愛なんて、ありえないと思っていた。
メールで恋を語るなんて、絵空事と思っていた。
でも、現実は違った。
あたしは、KUROちゃんにゾッコンだ。
でも、理想と現実が違うのは、それだけではなかった。
あたしとKUROちゃんの間には、1000キロの距離がある。
お互いに仕事もある。
1000キロの距離と仕事を乗り越えて、ほいほいと会いにいけるほど、現実は甘くない。
だから。
KUROちゃんに会いたい気持ちが強くならないために、電話番号は聞かない。
KIROちゃんに嫌われるかも、という想いがあるから、写メールは送らない。
そして、それはKUROちゃんも同じ。
そして、今日もゲームの終了を告げるメールが来る。
『もう、おうち?』
あたしは、返事を返す。
『まだ、空港。
これから、帰るよ。』
返事が直ぐに来た。
『寒くなりそうだ。
暖かくしてね。』
『ありがと。KUROちゃんもね。
こっちは、さっき、雪がちらついていたよ。
また、後でメールするね。』
あたしは、メールをそう締めくくると、車のエンジンをかけた。
駐車場から出ると、来る時にちょっとぱらついた雪が、だんだんと本降りになりそうだった。
~ PM07:35 KURO ~
『ありがと。KUROちゃんもね。
こっちは、さっき、雪がちらついていたよ。
また、後でメールするね。』
その返事を見て、俺は、ちょっと笑って携帯を閉じた。
そのまま、空港の外に出てみる。
空港は、まだ光に包まれている。
上を見ると、着陸待ちの飛行機が、まだ何機も飛んでいた。
不意に、何か白い物が俺の鼻先に落ちてきた。
「・・・雪か?」
どうやら、飛行機は羽音の想いだけでなく、雪までもこちらにつれてきたようだ。
俺は、もう一度振り返り、誰もいなくなった到着口を見た。
羽音。
いつの日か、お前はそこから、本当に現れるのだろうか?
【TB】 羽音祭 砂蜥蜴と空鴉
風邪男の襲来 ♪お玉つれづれ♪
★大人になった羽音という発想にインスパイアされました。ありがとう。
ロッカーに飛び込んで、制服を脱ぎながら携帯で時間を確かめる。
大丈夫、まだ余裕。
家によって、化粧を直せる。
服のボタンを留め、ちょっと髪を直したら、彼にメール。
『今から出るよ。
待っていて。』
そして、駐車場に走る。
~ PM04:18 KURO ~
また、馬鹿がえらそうな事を言っている。
ああ、無駄な会議だ。
ため息をついた時、携帯が震える。
羽音だ。
そっと、机の下で携帯を開く。
『今から出るよ。
待っていて。』
時計に表示される時間と、残る資料の量を見比べる。
くそっ。終わりそうにないなぁ。
小さく舌打ちをして、誰にもきづられぬ様、返事を返す。
『気をつけて。
待ってる。』
だが、馬鹿の説明がまだ終わりそうもない。
俺は、馬鹿を睨み返す。
~ PM04:23 羽音 ~
何時もより混んでいる道。
気持ちが焦る。
不意にメール着信のメロディが鳴る。
KUROちゃんの好きな曲。
ちょっとだけ、周囲を気にしつつ、渋滞の中、携帯を開く。
『気をつけて。
待ってる。』
そうね。
こんな所で焦ってもしょうがない。
多分、渋滞は、この先の大通りまで。
それを抜ければ、家までは直ぐ。
時間もまだ、大丈夫。
少し動いて、止まった隙にメールを返す。
『ありがと。
KUROちゃんは、平気?』
渋滞の列が、また少し前に動く。
信号も見えてくる。
あと、もう少し。
~ PM04:52 KURO ~
馬鹿の顔がどす黒く歪む。
しかたねえよ。
お前が悪い。
俺を買ってくれている上司が、フォローを入れてくれる。
ラッキー。
今日は終わりそうだ。
早く終わってくれよぉ。
さっき、確かに携帯が震えたが、この雰囲気では開けない。
ごめん、羽音。
きっと行くから、もう少し待て。
~PM05:11 羽音 ~
家について、化粧を直した。
KUROちゃんからは、返事が来ない。
また、きっと会議。
イッタイ何の会議なんだろう。
あたしには、わからない。
でも、あたしは信じている。
KUROちゃんは、きっと来る。
おっと、急がなきゃ。
本当に遅れてしまう。
~ PM05:18 KURO ~
奴が俺に吐き捨てるように言う。
「自分の立場をわきまえろ!」
知った事か。
奴の後ろで、俺をフォローしてくれた上司が、ウインクしている。
俺は、ちょっと頭を下げて、振り向きながら携帯を開く。
『ありがと。
KUROちゃんは、平気?』
俺は、自分の席に走って戻りながら、返事を打つ。
『会議、終わった。
もう、でかけるよ。』
クローゼットによってコートを持ち出すと、そのまま席に着く。
会議中に溜まった数10件のメールには目もくれず、PCの電源を落とす。
終了だ!
俺は、心の中で宣言する。
~ PM05:32 羽音 ~
さっきの渋滞を見たのでちょっと迷ったけれど、車で出て良かった。
空港方面は空いているみたい。
メールのメロディがなる。
あ、KUROちゃん、会議終わったかな?
それとも・・・?
ああん、運転中は携帯が開けないよぉ。
こういうときに限って、交差点は青が続く。
不意に、フロントガラスに何かが落ちる。
雪?
そっか、確かに天気予報で夜半には雪になるって、言っていた。
まだ、降り始め。
飛行機は大丈夫だよね??
次の交差点が見えてくる。
信号は・・・?青だ。
~ PM05:41 KURO ~
羽音からの返事が来ない。
という事は、きっと運転中だ。
空港に向かっているんだろう。きっとね。
そう思いながら、俺は駅の階段を駆け上がる。
「まもなく、○○方面行き電車が参ります。」
やばい、これに乗らなければ、乗継が危ない。
改札が見えてくると同時に、電車が駅に滑り込む音も聞こえてくる。
ああ、待ってくれ。
羽音の飛行機を迎えられないじゃないか。
~ PM05:45 羽音 ~
空港の駐車場に滑り込む。
思ったより余裕がない。
空港までの時間を勘違いしていた。2回目なのに。
とりあえず、携帯を開く。
『会議、終わった。
もう、でかけるよ。』
よかった。KUROちゃんも、間に合いそうだ。
でも。
ああ、メールの返事を書く暇がないなぁ。
慌てて、車を降りてロックする。
大丈夫、飛行機には間に合う。
でも、念のため。
懸命に走る。
航空会社のサービスカウンターが見えて来た。
えっ?誰もいない?!
そんな!だって時間はまだ?!
~ PM05:52 KURO ~
電車に飛び乗ってはいいが、まだ息が切れている。
運動不足だな。
でも、安心はしていられない。
次の私鉄への乗り換えも、距離があるのに時間がない。
しかも、今の位置からでは、なおさら遠い。
結構、混んでいるから位置を変えるのも難しいようだ。
ああ、また、走るなぁ。
ちょっと、苦笑い。
それにしても、羽音からの返事が来ない。
そろそろ、「今、空港」という返事が来るはずなのだが。
何かあったのだろうか?
~ PM06:00 羽音 ~
ギリギリ!
あたしは、携帯の電源を切った。
もう、後は・・・。
~ PM06:05 KURO ~
乗り換えもギリギリセーフだ。
後は、この電車の終点が空港。
開いている席に座っていこう。
ちょっと気になり、メールの確認をしてみるが、羽音からのメールはない。
もう、乗っている頃だ。
間に合わなかったのならば、それなりに連絡が有ると思う。
間に合ったんだよね?羽音?
~ PM06:52 KURO ~
思わず、うたた寝してしまった。
慌てて携帯を確認する。
羽音のメールは、ない。
というか、既に空港近くで地下に入ってしまったので携帯は「圏外」になっている。
大丈夫。
羽音は、きっと何時もの便に乗っている。
アナウンスが流れる。
「終点。空港です。お忘れ物の無い様に・・・。」
俺は、席から立ち上がる。
やがて、ホームに滑り込む車両。
ドアが開く。
それが開ききるのももどかしく、俺は車両から飛び出す。
改札を抜ける。
階段を駆け上がる。
空港の内部が見えてくる。
エレベータに駆け寄る。
ラッキー。
扉が直ぐに開く。
展望階は?6階だ。
ゆっくりとエレベータが上昇する。
大丈夫、あと、10分ある。
到着。
急いでエレベータから降りる。
展望台の場所を確認する。
小走りに6階のフロアを駆け抜ける。
展望台への階段。
これも、駆け上がる。
そして、到着6分前。
展望台である。
夜の空港は、光に包まれている。
空港自身のビルや滑走路、誘導灯の明かり。
それから、空港の向こうに広がる大都市の明かり。
こうして、展望台から眺めると、光の洪水の中にいるようだ。
ふと空を見上げる。
ちょっと薄く曇っているのか、星は見えない。
変りに、幾つもの光点が空港の周りを巡回している。
まるで、昔見た「未知との遭遇」の一シーンのようだ。
その光の点が、順々に空港に舞い降りてくると飛行機に変る。
不意に、少し他と違う輝点に気づく。
きっとあれが、羽音の飛行機だ。
時計を見る。
たぶん。まちがいない。
その輝点は大きく旋回すると、滑走路へ進入を開始する。
だんだんと低くなる輝点。
やがて、その点も飛行機に変る。
航空会社、機種。間違いない。
轟音を立てて、羽音の飛行機が、今着地する。
ようこそ、羽音。
俺は、そっと手を振る。
そして、羽音を迎えに到着口に向かう。
~ PM07:05 羽音 ~
着いた。
私は、携帯の電源を再び入れる。
着いた。
着いたよね?KUROちゃん?
~ PM07:11 KURO ~
空港の掲示板で、到着便の確認をする。
間違いない。
さっきの飛行機だ。
到着口から、手荷物のない人がもう出てきている。
俺は、じっと出てくる人を眺めている。
じっと、羽音を待っている。
羽音の想いを感じている。
やがて、人並みが途切れる。
そして・・・。
俺は、そっと携帯を開き、メールを打つ。
『着いた。
受け取ったよ。
羽音の想い。』
~ PM07:16 羽音 ~
携帯のメールが届く。
そっと車の中で携帯を開く。
『着いた。
受け取ったよ。
羽音の想い。』
良かった。あたしは、ちょっと微笑み、返事を返す。
『よかった。
遅れそうだった。
でも、無事に想いを乗せられたよ。』
~ PM07:17 KURO ~
『よかった。
遅れそうだった。
でも、無事に想いを乗せられたよ。』
俺は、ちょっと苦笑する。
やっぱり遅れそうだったんだ。
この前も言ったのにね。
そう、これは、羽音と二人のゲーム。
二人は、3ヶ月前に、どこかのチャットで知り合った。
俺は、羽音のメールしか知らない。
でも、間違いなく、俺たちは愛し合っている。
顔も声も知らないけれど、俺たちは愛し合っている。
メールだけのやり取りで、何故そんな事が言える?と問い詰められても。
ただ、俺は「事実だ」というしかない。
羽音は、地方都市に住んでいて、俺はこの人の密集したウザイ場所にいる。
本当は、直ぐにでも会いに行きたいのだけれど、「現実」が、二人をそれぞれの場所に縛り付けている。
なので。
月に一度、羽音は、羽音の街を飛び立つ飛行機に、俺への想いを乗せる。
俺は、月に一度、この空港に来て、羽音の想いを受け取る。
ただ、それだけのゲーム。
そして、俺はメールを打つ。
ゲームの終了を知らせるために。
『もう、おうち?』
~ PM07:28 羽音 ~
ネットで恋愛なんて、ありえないと思っていた。
メールで恋を語るなんて、絵空事と思っていた。
でも、現実は違った。
あたしは、KUROちゃんにゾッコンだ。
でも、理想と現実が違うのは、それだけではなかった。
あたしとKUROちゃんの間には、1000キロの距離がある。
お互いに仕事もある。
1000キロの距離と仕事を乗り越えて、ほいほいと会いにいけるほど、現実は甘くない。
だから。
KUROちゃんに会いたい気持ちが強くならないために、電話番号は聞かない。
KIROちゃんに嫌われるかも、という想いがあるから、写メールは送らない。
そして、それはKUROちゃんも同じ。
そして、今日もゲームの終了を告げるメールが来る。
『もう、おうち?』
あたしは、返事を返す。
『まだ、空港。
これから、帰るよ。』
返事が直ぐに来た。
『寒くなりそうだ。
暖かくしてね。』
『ありがと。KUROちゃんもね。
こっちは、さっき、雪がちらついていたよ。
また、後でメールするね。』
あたしは、メールをそう締めくくると、車のエンジンをかけた。
駐車場から出ると、来る時にちょっとぱらついた雪が、だんだんと本降りになりそうだった。
~ PM07:35 KURO ~
『ありがと。KUROちゃんもね。
こっちは、さっき、雪がちらついていたよ。
また、後でメールするね。』
その返事を見て、俺は、ちょっと笑って携帯を閉じた。
そのまま、空港の外に出てみる。
空港は、まだ光に包まれている。
上を見ると、着陸待ちの飛行機が、まだ何機も飛んでいた。
不意に、何か白い物が俺の鼻先に落ちてきた。
「・・・雪か?」
どうやら、飛行機は羽音の想いだけでなく、雪までもこちらにつれてきたようだ。
俺は、もう一度振り返り、誰もいなくなった到着口を見た。
羽音。
いつの日か、お前はそこから、本当に現れるのだろうか?
【TB】 羽音祭 砂蜥蜴と空鴉
風邪男の襲来 ♪お玉つれづれ♪
★大人になった羽音という発想にインスパイアされました。ありがとう。
では、謹んで「ねがいごと」の挿絵をお願いします。
こちらの話は、それぞれ読んだ方のイメージで楽しんでもらったほうがよいかと。
gooメールにて詳細お送りします。
審査委員長、お疲れ様でした。
どちらの挿絵でもいいので、
だいたいのイメージとかあったら、言っていただくと
うれしいですよ。
ここでもいいし、gooメールのほうでもいいので、
イメージラフスケッチなんかあったらもっと
うれしいなあ(笑)
お返事待ってます。
tedted_mk@goo.jp
リアルと言ってもらえて、うれしいです。^^
でも、この作品って、皆さんの作品から、いろいろと影響されているので、合作みたいな感じもしているんですよ。
ある意味で、小ずるいかもです。
リアルだぁ(笑)。
ドキドキしました。
ありがとうございます!
女性にそう言って貰えると、凄く嬉しいです。(^-^)
実際、最後まで迷ったのですよ。
二人を出会わせるかどうか。
しかも、素敵な玉虎まで頂き、感謝感激です。
「ああっ、わかる」と、ところどころ
うなずきながら読みました。
お相手のKUROさんに、会いたいのに、会うのをためらっている気持ち・・・わかるなあ。
お玉からも、このお話に似合うっぽい
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