「キミに何が解る!」
受話器に向かって怒鳴った瞬間、俺の全身を後悔の念が包み込んだ。
突然の仕事、しかも、誰かの遣り残した仕事の手伝いを、急に命じられた。
どう見ても、「尻拭い」
なんの魅力も無い仕事。
しかも、担当部署も仕事の役割も違う俺に、この仕事を振られる筋合いは無い。
当然、即座に断ったのだが・・・。
「君以外、任せられる奴がいないんだ。」
乗せられ易い性格が災いした。
だが、現実は、予想以上に厳しかった。
慌しい出張。
山積みの問題。
繰り返される会議。
飛び交う怒号。
三日で終わるはずの出張が、1週間、さらにまた1週間と延びる。
ビジネスホテル暮らしも、まもなくひと月になろうとしていた。
キミとはマメにメールでやり取りしていて、
「大丈夫、元気だよ。」
とは書いていたが、やはりあって話したい気持ちは、どんどん大きくなっていた。
そして、夜中は当に過ぎていて、キミがぐっすり眠っているのは知っていたのだが。
俺は、電話をかけたのだ。
「なーに?どうしたの?」
少し、寝ぼけた声のキミ。
ちょっと、目頭が熱くなる。
「いや、ちょっとね。」
そう、ちょっとだけ、世間話をするつもりだった。
しかし、キミの声を聞いた俺は、堰を切ったように話し出し、仕事の愚痴を延々とこぼし始めていた。
そこに、キミの一言。
「気にしないほうが、いいよ。」
思えば、俺を気遣っていった言葉。
俺に、無理をするな、あなたの所為ではないという意味でかけた言葉。
しかし、俺は一瞬、俺の全てを否定された気がしたんだ。
・・・気が付いた時には、怒鳴っていた。
ああ、どうしよう。
これは、俺の真意ではないんだ。
俺は、電話の切れる音を予想していた。
が、しかし、聞こえてきたのは・・・。
「ルー。ルルルー。ルルルー、ルルルー、ルル ルールー
ルールー。ルルルー。ルルルー、ルルルー、ルル ルールー
ルールールー、ルールールー、ルールー、ルルルルー」
キミの歌。
あの日、あのホテルのバーで聞いた、あの歌。
「Moonlight Serenade」
俺は、何だか涙が出た。
そして、気づくと一緒にハミングしていた。
何度か声を合わせて歌った後、キミがちょっと眠そうな声でいった。
「たのしいねぇ。」
俺も、うなづきながらいう。
「うん、楽しい夜だよ。」
そして、そっと涙をふいた。
電話でよかったよ。
「・・・大丈夫?」
「うん、大丈夫、頑張れる。」
「じゃ、また、メールしてね。」
「解った。おやすみ。そして、ありがとう。」
「おやすみ、そして、愛してる。」
キミが、電話を切るのを確認して、俺は、そっと受話器を置いた。
キミの歌声が聞こえている間、この窓の無い「ビジネスホテル」で、あの日の「満月」が垣間見えたよ。
よし、明日は頑張る。
何が何でも、終わらせて見せるぞ。
そして、キミの元に帰るんだ。
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昨日、今日、忙しかったとは言え、皆さんが「楽しそう」な事をやっているのに、参加もせず米せずで「斜」に構えて
「何してんだか」
と、ささくれ立った一日を過ごしてしまった私に、自戒の念をこめて。
次は、ちゃんと「絆」に繫がりますゆえ。
歌は歌わねど、ほっと一息つかせてくれた人に感謝。
【TB】今日は何の日? ♪おけんつれづれ日記♪ こと BLOG STATION
Fly Me To The Moon ELOG STATION こと ♪お玉つれづれ日記♪
他、多数の企画参加者へは、感謝の念をTB^^
※上記、ストーリーはフィクションです。
「うーん」と延びをしながら、手を延ばして、ビジネスホテルからの郵便を確認した。
『昨日は怒鳴ったりしてごめん。でも、君が一緒にハミングしてくれて救われた』
ん、一緒にハミングですって?
そんな記憶、私にはない。
深夜、あなたからの愚痴を聞きながら、私は睡魔と戦っていた。
寝の国とうつつを行ったり来たりしているうちに、
いつのまにか眠ってしまっていたのだ。
開けた窓から見えた満月が、美しかったことだけ覚えている。
彼はきっと、夢でもみたのだろう。
夜中に『餃子とラーメン大盛り!特急で頼む!』などと、
時々寝言で叫ぶこと、これから先も私だけの秘密にしておこう。
いつまでも子供のような人。
愛しい人。
こっそりと撮った携帯の写真、大好きな寝顔に
そっとくちづけをした。
相変わらずの泥沼だ。
朝、キミにメールした時は
あんなに清々しい気持ちだったのに。
昨日、振り切った禍々しい黒い疲労が
再び、背中からはいずりあがろうとしていた。
繰り返される戯言に、俺は強烈な睡魔に襲われた。
と、その時。
「?!」
俺の頬に、キミの唇が触れた気がした。
慌てて、頬を押さえる。
かすかに、キミの香りが薫った。
その時、天啓のように解決策が浮かぶ。
何故、それに気づかなかった。
睡魔が遠のき、覆いかぶさっていた疲労も消え去る。
俺は、立ち上がった。
「御提案があります。」
その日の昼食は、久しぶりに街中に出た。
部下が嬉しそうに話しかけてくる。
「この先、有名なラーメン屋ですよ。
待ちに待った餃子と大盛ラーメンで行きましょう。」
この仕事中、出歩く時間も惜しんで、コンビニ弁当ばかりだったので、俺が散々、食いたいと言っていたメニューだ。
しかし、仕事のピークを超えた俺の嗜好は違うのだ。
「いや、その向かいに蕎麦屋があったろう。
それも、この辺りの名物なんだ。
それにしよう。」
怪訝な顔をしている部下を残して、俺は歩き始めた。
後で、キミにメールしなきゃ。
『天使のキスの救われた。』
そう思いながら、携帯の待ち受けに設定している
髪を切ったばかりではにかんでいる『天使』の笑顔をそっと見た。
「月」で出会ったのでは?