不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

「キャラを立てる」

2005年06月20日 22時25分03秒 | Book

 これは、「亡国のイージス(講談社文庫 福井 晴敏著)」のレビューである。
 意図しては内容に触れないつもりであるが、雰囲気のようなものを取り上げるので、未読の方で他人の判断が入るのがお嫌な方は、以下、御遠慮ください。



 この「亡国のイージス」を読んで、まず思うのは、それぞれの登場人物が印象的なことである。

 小説やマンガなどで、あるキャラクターを特徴づけ、引き立てることを「キャラを立てる」という。
 マンガ、小説、映画など「物語」においては、「キャラが立っていない」とあからさまに失敗する。

 その意味で、この「福井晴敏氏」は、じっくりとキャラ設定を読ませる。
 私が氏の作品を読んだのは、「終戦のローレライ」が先になるのだが、ここでも、氏の特徴である、執拗なまでのキャラ設定が遺憾なく発揮されていて、例えば、物語の始めの方で原爆により命を失う女性までが、まるで準主役であるかのような語り口で説明されているのである。

 福井氏が心酔しているという「機動戦士ガンダム」のエピソードの中でも、これまでのアニメのような十把ひとからげの敵ではなく、ガルマ・ザビ、ミハル、ララァの様な、短期間ではあるがきちんと性格付けされたキャラクターが、物語の中であっけなく散っていき、戦争と言うものの特異さを印象付けていたが、福井氏のキャラ描写は、それをさらに上回っているように見える。

 お陰で、普通の小説であれば、「御都合主義」に終わるような場面も、それなりの説得力を持って描く事ができている。

 ある意味、「作家」は、「読者」を乗せてしまえば勝ちである。
 自分の作りこんだ世界から「醒めないように」終わりまで引っ張っていけばよいのだ。
 その意味で、この「亡国のイージス」と言う作品は、最後まで「福井ワールド」にのめりこんだまま読み終わることの出来る本であると思った。

 ただ、個人的には、その「細かい」設定が長すぎる気がする。
 確かに、それ故に終盤から所謂オチのエピソードに繋がる部分もあるのだが、どちらかと言うと、前半はまだ主題に入らないのかと、イライラしてしまった。

 話が走り出してから、終盤までの流れが良かっただけに、前半のもたつきが惜しいところである。
 これは、個人の主観によるところも大きいと思うのだが、皆さんは、どう読むのだろう?!
 


亡国のイージス 上 講談社文庫 ふ 59-2

講談社

このアイテムの詳細を見る
亡国のイージス 下 講談社文庫 ふ 59-3

講談社

このアイテムの詳細を見る


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (かおる)
2005-06-21 00:17:06
「できるさ。 親が、子供のためにできないことなどあるものか。」

名台詞だなぁ。

グっとくるなぁ。



あ、ここから先は私見ね。

気に入らなかったら削除でしくよろ。



正直言って、総量を2/3の分量にしていたら「もっと密度の高い」作品になっていたんじゃないかなぁ、と思いますわ。

特に「上巻」に見られる「ミスリード」を誘う描写は「少ししつこすぎるかなぁ」とか、各キャラクターの「キャラ立て」にスペースを割き過ぎている部分があるかなぁ、とか。

そのおかげでいわゆる「脇役」への配分が少なくなっちゃっているのではないかなとも。

特に竹中副長とか若狭曹長あたりは、扱いようによってはもっともっと広がるキャラクターだったような気がします。

もちろん作品としては大変面白いので、一読の価値ありかと思います。



最後に。

個人的には「川の深さは」と「Twelve Y.O.」。

前者は氏のデビュー作だけあって、色々な部分で「素」が垣間見えて面白いので、後者は氏の書き口がこなれてきた感じで、「エヴァンゲリオン」臭さを気にしない人におススメ。
返信する
激しく同意! (ぷよぱぱ)
2005-06-22 10:26:59
★かおるさん

 すげ!

 長さの話は、感覚的に、まったく同じ感想でした。

 まあ、短く切ったら切ったで、また印象が変わってしまうのでしょうけれど。

 その意味では、確かに福井氏の「1冊で終わる本」には興味あります。

 今度、読んでみようかなぁ。



>特に竹中副長とか若狭曹長あたりは、扱いようによってはもっともっと広がるキャラクターだったような気がします。



 ですね。

 キャラの「もったいないお化け」が出そう。

 
返信する
キャラ立て (介護人たま)
2005-06-30 02:41:55
こちらへは、はじめましてです。

介護人たまでございます。



私、今、この作品を「モーニング」の連載で読んでいるんですが、かなり面白いです。小説でのキャラ立てがしっかりしているから「漫画」でも面白いのかな…。



このエントリを拝見して、小説にも手を出してみようと改めて思いました。



(モーニングには、もうひとつ、五木寛之「青春の門」が漫画化されて連載されているのですが、こちらもかなりいけてます)



自分が読みたいのは、どちらかというと小説ではなく物語なのかもしれない、と、この記事を拝見して思いました。



すみません、まとまりがないですが…

またお邪魔します。
返信する
ようこそ。 (ぷよぱぱ)
2005-07-01 10:24:30
★介護人たまさん

 いらっしゃいませ。^^

>小説でのキャラ立てがしっかりしているから「漫画」でも面白いのかな…。



 そうだと思います。

 キャラ立てがしっかりしている=アレンジもしやすい

 とも言えるので、映画や漫画にした時にも小説の雰囲気を壊さない作品にできるのだと思います。

 その意味では、福井氏の「ローレライ」が映画でも受けた理由もキット同じですね。

 比べた時に、夫々表現が違っていても、世界観が似ているので、違和感が無いです。



>自分が読みたいのは、どちらかというと小説ではなく物語なのかもしれない、と、この記事を拝見して思いました。



 むむむ?

 それは、介護人たまさんが読みたいのは、Storyではなくて、Sagaだという事ですか?!
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。