「新耳袋」という怪談集がある。
江戸時代の幕臣、江戸町奉行も努めた根岸鎮衛(やすもり)が書いた「耳袋」の形式に則り、現代の怪異譚を、木原浩勝氏、中山市朗氏の両名が、膨大な取材と怪異の経験者への直接的な裏づけ調査を元に書いた本である。
ここで紹介する本は、その「新耳袋」に掲載されて、話題になった恐怖のスポットに、わざわざ出かけていくという企画本である「新耳袋殴り込み」と「新耳袋大逆転」である。
一応、木原、中山両氏にも了解を取った上の企画であるが、「現地に行って検証」と言うよりは、その、何と言うか「肝試しに行った友人の体験談」を聞いているようであって、「噂話」としては面白いけれど、半分眉唾(失敬!)という感じの本である。
ちょいとフォローすれば、本人達はいたって真面目であり、そこそこ怪異にも遭遇はしているのである。
しかし、企画がビデオ化と同時進行のため、殆ど画像が載っておらず、雰囲気を伝えるには文章に頼らざるを得ないのだが、そのぉ、ちょいと文章の方がぁ・・・。
ああ、フォローになってないな。^^;
いや、まあ、悪い本ではないけれど、あまり期待しないで、肩の力を抜いて楽しんでください、という事である。
で、まあ、ここからが本題で、あまりブックレビューには関係なくなってしまうのだけれど。(え?
「大逆転」の方に取り上げられているスポットにおいら自身が出かけたことのある場所があった。
某トンネルの話、と言えばそれだけでぴんと来る人もいると思うが、おいらが行ったのは、もう、ン十年前のことである。
当時から、県内では有数の心霊スポットで、今は噂のトンネルは閉鎖されているけれど、当時は、まだ通ることが出来た。
既に新しいトンネルのある新道が開通していたので、殆ど通る人のいなくなった旧道は、道に生い茂った草木が浸食してきていて、トンネルに近づくだけでもかなりおどろおどろしかったのだが、もうすぐトンネルという所でおいら達が一番戦慄させられたのは、トンネルの前後に群がっている暴走族とアベックの群れ!!
時間は夜の11時くらいだったのだが、どこから沸いて出たのかと思うくらいにトンネルに群がっていた。
トンネルの中もゾッキーが書いた落書きで充ち満ちていて、おいら達はお化けの恐怖以上に、おいら達の車には女の子も乗っていたことだし、ゾッキーに追いかけられたらどうしようと、はらはらしつつ現場を後にしたのを覚えている。
まあ、しかし、その当時はそんな感じで、もの凄い恐怖スポット、という程ではなかった。
既に「白い車」「奇数」「手形」の3点セットは、揃っていたような気がするが、その程度の「怪談スポット」だったと思う。
しかし、その後、本当の事件が起こってしまう。
委細を知りたい人はこの本に記載されているので読んで欲しいのだが、それ以降、ただの「怪談スポット」だったその場所での怪異が、「血なまぐさく」なってしまう。
新道のトンネルにも「出る」という話になったのも、その頃からだと思う。
元来、こういう噂や都市伝説の類は、長い年月の間に尾鰭がつきやすい。
しかも、世相を反映してか、だんだんとえげつない方向に進んでいく。
そんなもんだよ、という人もいるかもしれないが、実は、今、おいらの近所にも、昔「最強」と呼ばれた怪異スポットがあるのだが、そこは、今は見事なまでに静まっている。
これも詳しく書かないが、ちょっとした森の中にあって通常人は立ち入らないところなので、流石に夜間は寂しいが昼間は綺麗に手入れされ、怪異の元となったある事故現場には、常に花が手向けられている。
噂だが、遺族の方が、こまめに通って、もう二度と事故の起こらぬよう手厚く供養されていると聞く。
一方で、「件のトンネル」と言えば、遺族だけでなく、荒れているのは知っていて自治体も警察も見放した感がある。
それどころか、本書を読んで、トンネルが閉鎖された今でさえ、容易にトンネルに近づき、あまつさえ入れてしまうというのは、放って置くにも程があるという気がした。
それで、ふと、タイトルの様な事を考えたのである。
霊の有無はさておき、土地や家の興廃は人の想いとは無縁ではないと思っている。
おいら自身、その場所に行っているので、あまり偉そうには言えないけれど。
「心霊スポット」だからと言って、悪意が積み重なるままで放置するのは如何なものかと思ったりしたのである。
あらためて、合掌。(1798)
直撃現代百物語 新耳袋大逆転ギンティ小林洋泉社このアイテムの詳細を見る | 新耳袋殴り込みギンティ小林洋泉社このアイテムの詳細を見る |