F.W.クロフツ「クロイドン初12時30分」
「100年に一度」の経済不況。一つ前の「100年に一度」と言えば、1929年に始まったご存知世界大恐慌。この作品はイギリス経済に立ち込めるこの暗雲の中を舞台としています。工場を経営するチャールズも厳しい環境下に置かれています。在庫過剰の中、価格は一層下落し、従業員の給料等資金繰りは次第に悪化する一方。加えてチャールズの工場は危ない!という風評までたってしまい、親しい友人達も資金を引き上げ始める中、とうとう最後の手段に手を出すことに。
倒叙形式を取るこの作品。犯人は最初に明らかになり、彼が企てる完全犯罪の計画、準備、実行の過程、そして一件完全犯罪と見える事件が、いとも簡単に見破られ解決する過程が、犯人の心理構成の変化とともに描かれるのですが・・・。トリックの解明は、ちょっと平凡。まあ、犯行過程を読者は最初から知っているわけですから、仕方がないのですが・・・。
12時30分初というタイトルから時間を使ったトリック?かと思ってましたが、まったく関係ありませんでした。その点ではみごとに騙されたかな?
面白さとしては「樽」の方が良かったと思います。
冒頭、ロンドンからパリまでの旅客機での旅がとても緻密に描かれています。調べてみると、たぶん出てくる航空会社は英国航空の前身であるインペリアル航空。飛行機は1930年就航のハンドレページH.P.41でしょう。当時旅客機はオールファーストクラスの豪華な旅。作中にも出てきますが、ちゃんと暖かい機内食が銀の食器とともに供されたということです。でも巡航速度160キロ、低空で飛ぶ当時の旅客機は相当揺れたはず。そんな中で豪華な食事を出されてもねえ。
これがハンドレページH.P.41
複葉機で機首が大きく上がっているのが特長です
60年後のロンドン~パリのフライトはこちら→