終業間際。
疲れ切ったカウンターに立つ私に、控えめな声が飛んできた。
「……私、あの◯◯です」
ん? 誰?
いや、知ってる。
でも現実味ゼロ。
だって22年前、私が一方的に大失敗し、友情をぶっ壊したはずの 元・親友Tちゃん が、そこに立っていたのだ。
こっちが狼狽している間に、Tちゃんは泣きそうな顔で笑ってくれた。
――ああ、この人、全然変わってない。
いや、むしろ天使度が増している。
「会えてうれしい」と言ってくれるその姿に、私は悟った。
なんだこの奇跡イベント。
ラスボス倒すより確率低いんじゃ?
偶然のレベルも尋常じゃない。
彼女は私の現住所なんて知らない。
40年くらい前の夏休みに、私がバイトしていたオジキ宅の「うろ覚えの」住所を、旅の途中で、探してみたと言う。
で、トイレを借りようと店に立ち寄った瞬間、まさかの私がそこにいた。
「全然変わってないから、すぐにわかったの」
しかもあと3分遅ければ、完全にすれ違っていたという、
ギリギリのラインで起きたミラクル。
「こんな偶然ある?」
「神様っているんだね!」
ふたりで声を合わせ、ハイテンションで即、奇跡認定。
その後、旦那様も一緒に我が家に来てもらい、
22年分の空白を埋めるべく、喋り倒した。
お互いの人生は大きく変わっていたけれど、
Tちゃんは幸せそうで、旦那様は税理士として独立していて、
なんかもうふたりまとめて頼もしすぎる。
――よかった、本当に。心底よかった。
そして私は、ずっとできなかった「ごめんなさい」をやっと言えた。
手紙もメールも出せなかったけど、もう大丈夫。
「またやり直そう」と言ってくれた親友に、涙腺は崩壊寸前。
いや、崩壊した。
やり直せたらって、ずっと思っていたよ。
新しい住所も、電話番号も、メアドも交換。
友情リロード完了。
「神様って、いるんだよ」
その言葉を、ふたりで何度も繰り返した。
――再会させてくれてありがとう。
――もう二度と傷つけない。
――これからもよろしく、親友。
2025・9・5 奇跡確認。