水戸歴史に学ぶ会

水戸を中心に茨城県内外の史跡及び歴史事象を訪ね、調べた結果を講演会や文章にしています。ときには史跡の整備もしています。

文明開化のあけぼのを見た男たち

2022-11-08 23:17:44 | 日記

「博愛の政治家」を大テーマとした秋季講演会の第2回目を、11月6日(日)午前、那珂市ふれあいセンターごだいにて開催しました。

講師は谷口邦彦氏、演題は「文明開化のあけぼのを見た男たち」です。

今回の講演内容は、さまざまな福祉政策が求められる今日、日本における「福祉」や「博愛」の出発点はどこにあったのだろうかを尋ねることでした。谷口氏は、スイスのアンリー・ジュナンを原点として日本人では高松凌雲・佐野常民・渋沢栄一の3人を取り上げて福祉の精神と政策の発展を説きましたが、その中の三人の日本人が、なんとパリ万博に同行していたのです。「徳川昭武とパリ万博」がさらに広がりを見せた内容でした。

はじめに、「博愛」とは「与える側」と「与えられる側」との間に道徳的優劣はなく、個人の道徳的良心が及ぼすサービスであることを認識しておきたいと思います。

 国際赤十字社生みの父「アンリ―・デュナン」
ジュナン(31歳)は、1859年から始まったイタリア統一戦争に出会って、敵味方の区別なく傷病者を救護する団体を作ろうと決意しました。それが国際赤十字団体となり、1867年のパリ万博に国際赤十字パヴィリオンが設けられ、啓蒙活動が始まったのです。 

反骨の医師「高松凌雲」
筑後国(福岡県)の庄屋の三男で緒方洪庵の適塾に入門、洪庵が江戸東下するや後を追い、横浜で医師ヘボン塾に入門しました。やがて一橋家軍制所付き医師となり、慶喜が将軍になるや奥詰医師となりました。パリ万博には昭武付医師として随行しますが、パリで一留学生として残留し勉学に励みます。そういった中、鳥羽伏見の戦いでの幕府方の敗戦を知り憤然として帰国の途に就きます。
凌雲はパリ万博で得た赤十字社の精神を実践すべく、旧幕府軍艦開陽丸で北上し、函館で病院を開設して敵味方の別なく治療にあたりました。これが、日本赤十字社の原点となりました。
その後、野に在って一町医者に徹し、貧民救済を目的とした同愛社を結成します。渋沢栄一はそれを支援しています。
徳川慶喜と昭武への恩義を終生忘れることなく、水戸家の家庭医師として昭武の家族の脈を取り続けました。 

日本赤十字社創立者「佐野常民」
佐賀藩の藩校弘道館に学び、大坂や江戸では緒方洪庵や伊東玄朴らに就いて蘭学を学びました。帰郷後は佐賀藩の海軍創設に尽力し、国産初の蒸気船「凌風丸」を完成させることになります。 緒方洪庵から、「医は仁なり」(身分の別なく平等に診る)との精神を学びます。
佐賀藩の命を受けてパリ万博に参加したことにより赤十字精神にふれて感動、人道主義の世界平等を実感しました。
西南戦争での悲惨な状況から、同じ元老院議官大給恒(おぎゅうゆずる)とともに国際赤十字社と同様の救護団体の創設に奔走します。根底には、「賊とされた西郷軍の兵士も亦天皇陛下の赤子である」との考えがありました。
熊本司令部の有栖川宮熾仁親王の裁可により、日本赤十字社の前身「博愛社」を創立します。明治20年(1887)に「日本赤十字社」と改称されました。

博愛社を支えた大実業家「渋沢栄一」
博愛社の創設者佐野常民から直接協力を依頼された渋沢は、その社員となりやがて常議員となり支援を強めます。
二人の出会いはパリ万博で、明治41年(1908)発行の日赤の機関誌には、渋沢が「パリに行った時、パリ市民に声を掛けられてチャリティバザーを初めて知った・・・・帰国後しばらくしてから慈善事業をするきっかけとなった」「人助けをするにも金が必要。金持ちは、その金で何をするかが大切だ」と説いています。
渋沢栄一は、「近代日本資本主義の父」と称されたように、莫大な資産を得たがそれらをみな公共事業や福祉政策に貢献していることは、今日の企業人も心してほしいところですね。

「水戸・歴史に学ぶ会」は訴えたい!
戦争はなぜ起こるのであろうか? ともに悲惨な結果は承知するところであるのに。
佐野常民が邦訳した「自由」は競争を生みます。「自由」は貧富の差を生み出します。その行き過ぎから「平等」が唱えられたのです。しかし、両者は相矛盾したものであり両者の対立が際立っていきます。
フランス革命では王政を倒し「自由」が叫ばれ、競争が激しくなりました。その行き過ぎから「平等」が唱えられたのです。その後、その対立を昇華する精神として「博愛」が求められました。フランス革命の「自由」「平等」「博愛」は同時に叫ばれたわけではありません。時勢の推移を冷静に見つめた結果の昇華なのです。
世界中に国家・民族・宗教の対立抗争が巻き上がり、混迷が生じています。皆がみな、今まで以上に、お互いの心の中に「博愛」を養うことが求められている時代ではないでしょうか。

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