多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

「正しい」酒場・根岸の鍵屋

2009年06月12日 | 居酒屋・銭湯紹介
鶯谷の駅から5-6分、言問通りを一筋入っただけなのに回りに何もない閑静な場所に由緒正しい酒場・鍵屋がある。のれんをくぐり、引き戸を開けるときから歴史を感じる予感がする。

この店の創業は幕末にさかのぼる。ペリーが来航し日米和親条約を締結し、安政の大獄や桜田門外の変があった安政期である。昭和初期までは酒屋だった。江戸時代以来の店は、小寺醤油店(白金)、丸二商店(神保町)、子宝湯(千住元町)などとともに、小金井の江戸東京たてもの園に保存されている。現在の店にも、当時の大きなとっくりなど古い道具が並んでいる。

店に入ると、黄色い電球に大正時代のポスター、付き出しは煮大豆、メニューはたたみいわし、大根おろし、かまぼこ、お新香、と絵に書いたように「正しい」酒場である。
酒の燗は、カウンターの端にある燗付け器で「正しく」入れてもらえる。大塚駅前の江戸一と同じだ。この日はぬる燗でお願いした。「甘口か辛口か」と聞かれる。甘口は桜正宗、辛口は大関、菊正宗らしい。
カウンターが10席ほど、座敷にテーブルが4つという規模。静かに談笑する女性客やグループ客が多い。
もうずいぶん前なので間違った印象かもしれないが、神楽坂の伊勢藤から裃(かみしも)をとったような店だと考えていただければよい。

この店にはじめて来たのは10年前のことだ。例によって太田和彦さんの本をナビゲータにしてのことだった。「この店は、まさにいぶし銀の光を放つ東京の居酒屋の真髄だ」と評されていた。カブトビールの美人ポスターがよく似あう店で、厚い木のカウンターやマスターの客あしらいをみて、たしかにその通りだと思った。ちょうど入谷の朝顔市直前でポスターをいただいた。前回来たのは4年前で、そのときは混んでいたのでマスターとほとんど話はできなかった。
さて今回は金曜夕方9時過ぎで、客はほとんど帰ったあとだった。
マスターは1947年生まれ、近所の坂本小学校出身、ということは今年62歳だ。10年前は52歳だったはずだが、そうは思えない。あのころから穏やかで「枯れた」雰囲気だった。いまは亡き笠智衆をもっと人当たりよく、控えめにした感じの方だ。若いころの音楽談義などお聞きでき、気分よく酔えた。

電話: 03-3872-2227
住所: 110-0003 東京都台東区根岸3-6-23-18
営業: 17:00-22:00(21:30ラストオーダー)、日祝休
    瓶ビール(大)610、(小)530、
   桜正宗、大関、菊正宗、各正一合530


☆300mくらい北西方向に行くと、鍵屋よりさらに古い元禄4年(1691年)創業の豆腐料理の「笹乃雪」がある。
またその近くに子規庵がある。子規が26歳(1894年)から35歳(1902年)で亡くなるまで住んだ家だ(ただし45年4月14日の空襲で土蔵を残し消失した)。この家には漱石はいうまでもないが、森鴎外、伊藤左千夫、長塚節、浅井忠、寺田寅彦ら明治の文人が来訪した。根岸はそんな街である。
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