多面体F

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多田謡子反権力人権賞受賞発表会

2008年12月23日 | 集会報告
12月19日午後、駿河台の総評会館で第20回「多田謡子反権力人権賞」受賞発表会が開催された。この賞は1986年12月に29歳で亡くなった多田謡子弁護士の遺志を生かし、遺族や友人たちが創設した賞である。わたくしが知る団体・個人では過去、山田悦子さん(甲山事件被告人)、免田栄さん(死刑廃止運動)、VAWW-NETジャパン(天皇の戦争責任、「慰安婦」問題)、根津公子さん(「日の丸・君が代」強制反対)、などが受賞されている。今年の受賞は、増田都子さん、首都圏青年ユニオン、フリーター全般労働組合、死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム'90の4つだった。
緊迫する労働問題に取り組む首都圏青年ユニオン、フリーター全般労働組合を中心に報告する。

●首都圏青年ユニオン 川添誠さん

首都圏青年ユニオンは2000年12月、パート・アルバイトなど不安定雇用の青年たちが中心となり結成した労働組合で、組合員は350人である。
いま派遣労働者の解雇が社会的に問題になっている。敷金・礼金のための手持ちのカネがなく住込みの仕事を求める人は多い。伝統的なものは旅館の手伝い、新聞販売店、パチンコ店が代表だったが、新たに寮に住む派遣労働者が加わった。家電製品、自転車、ふとんなどすべてレンタルで月6000―7000円差し引かれている。最も困窮している人を集める仕掛けとしての寮になっている。労働者派遣法改正で規制緩和により大量に生まれた派遣労働者が、減産になったからと企業の都合でクビを切られ寮まで追い出されているのがいまの状況だ。
日常活動を紹介する。たとえば残業代不払いの相談を受け組合員になると、本人に労働法のやさしいパンフを渡しタイムカードに残業時間を計算し記入してもらう。なぜ自分でやってもらうのかというと「自分の権利を会社にぶつける」のは自分でありユニオンはそれを支援するというスタンスをわかってもらうことと「何の権利を主張しようとするのか」わかってもらうためだ。この点、増田先生の「自分の頭で考える」紙上討論と似ている。そして会社のファックス番号を自分で押し、スタートボタンを押してもらう。意地悪なようだが「もう後戻りできないね」と声をかけることもある。
団交を行うときには、地域も職場もバラバラなので350人のMLに集合時間・場所を送信する。参加するのは10人前後だが、団交後に路上で当該や参加者から必ず一言発言してもらう。「よくがんばった」「会社の人の発言でわからないところがあった」「次はこうしよう」などと発表され、それを再びMLに流す。交通費も支給する。ユニオンに参加するほど生活が困窮するのではおかしな話だからだ。これを参加型団交と呼ぶ。
月一度、ユニオン組合委員会という名の執行委員会を行っている。会費200円で食事をつくりみんなでワイワイやりながら食べる。交通費は支給している。「今日のメニューは何ですか」と電話がかかってきて困惑したこともある。孤立して生きづらい状況のなか、励ましあって生きていくため、部分社会をつくり、それをネットワークで結び、やさしく柔らかい社会にしようという戦略である。
2006年、牛丼チェーンすき屋のアルバイト店員20人(組合員6人)の店舗リニューアルにともなう解雇問題では、解雇を撤回させ、未払い残業代についても過去2年遡って是正させた。
いま川崎の三菱ふそうの500人カットに取り組んでいる。組合員が3人おり12月25日で契約打切り、年末の29日退寮を通告されている。17日朝7時に工場前で行動し、その後、本社で団交の申し入れを行った。
労基法が守られない職場で働いている若者は多くいる。貧困のなかで育ち学歴もないく条件の悪い職場しか経験したことのない若者は、たまたまそういう職場に当たったのは運が悪いと考えたり、その職場を選んだ自分が悪いと思いこまされている。あきらめと絶望のなかにいる人に、本当はそうじゃないことを知らせ、希望をもって生きられるようにするには、励まして組織化し、共に闘うことが必要である。
現在専従は2人だが、もう2人増やしたい。いま支える会の会員(年会費6000円)は1000人だが、さらに多くの方の協力をお願いしたい。

●フリーター全般労働組合 清水直子さん

フリーター全般労働組合は2004年に結成した組合で、当初はイベントや勉強会が中心だった。2006年4月の「自由と生存のメーデー」で3人が不当逮捕され、その後、労働相談など労組の活動を再開した。組合員は20代が4割、30代が4割、残りは40歳前後で、年収200万以下の人が多い。不安定労働の人が中心でだれでも、一人でも加入できる組合である。「北斗の拳」のような弱肉強食の世界で徒党を組んで身を守る子どもたちのイメージを考えてもらえばよい。専従は置かず執行委員が1人3-4件争議を分担し手弁当で対応している。
前日予約、毎回違う職場に派遣され今日だけ来ればよいといった、使い捨てに近い労働を強いられている派遣労働者がいる。安定した職場なら仕事を教えられ、だんだん自信をつけられるがそういう機会もなく、回りの人とのコミュニケーションも身につけづらく、働く場で尊重される経験が少ない。合理的理由もなく1か月とか3か月の有期契約になっており、いつでも切られる存在であることが前提になっている。かつて公害は環境をこわすということで問題になり規制法ができた。派遣労働も同様に社会をこわすものなので規制が必要だ
フリーター全般労組は労働問題と表現活動を車の両輪にしている。日常、矛盾を感じたり言いたいことを、祭りのような場をつくり、面白そうなこと、自分たちがやりたいことことをやる。そして仲間とつながる。こうした祭りの場でパワーが蓄えられそれを日常に戻すという、よい循環になっている。
たとえば「自由と生存のメーデー」ではサウンドデモを行っている。これは車に乗り込んだDJがみんなで踊れる曲をかけ、参加者は思い思いにプラカードや権力者を揶揄するパペットをもち行進するものだ。
今年10月26日「麻生でてこい!!リアリティツアー」を実施し3人が不当逮捕された。メンバーにフリーのカメラマンがいて一部始終をビデオで撮影し、刑事が大騒ぎしている様子がユーチューブで全世界に公開され、後追いでメディアが報道した。
今年2月昭和シェル系の神奈川のスタンドでアルバイトが解雇された。団交申し入れを行い、その返事を待つ間、組合員が1人でストを実行した。このストは自分の解雇撤回もあったが、アルバイトのシフトが減らされたしわ寄せで正社員がサービス残業を強いられ、疲労から労災事故が起こったことへの抗議の意味もあった。スタンドを占拠しキャンプのようにテントを張り一晩過ごした。27歳の人だったが「生きてきたなかで一番楽しかった」と感想を述べた。この争議は労働審判で和解が成立した。
いま、月収15万クラスの組合員がシェルターのように住める住宅を求めている。使っていない家をお持ちの方がいればぜひお知らせいただきたい。

左は多田謡子反権力人権基金事務局長・辻恵氏、右は多田さんの遺影
増田都子さんは、紙上討論という方法で日本の侵略と植民地支配、国民主権などの憲法原則を中学の社会科で教えていた。1997年一保護者の「反米偏向教育」という攻撃をきっかけに産経新聞、土屋・古賀・田代都議、都教委の三位一体の攻撃を受け、2006年分限免職処分を受けた。現在解雇撤回訴訟を闘っている。この闘いを、2005年11月の韓国MBCテレビ制作の隔離強制研修のドキュメンタリー、2006年4月の韓国KBSテレビの免職のニュース、2007年11月のイギリス・チャンネル4の「軍国主義復活の日本」をテーマにしたドキュメンタリーの映像を使って説明した。

死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム'90について高田さんから説明があった。この会は1989年12月国連で死刑廃止国際条約が採択されたのを契機に、死刑廃止運動をしていたいくつかの運動体がゆるやかに広くつながり1990年春、結成された。結成された当時は3年間死刑執行がなかったが、93年3月に後藤田法相が再開し、いまは死刑判決そのものが10年前の3-4倍に増え、死刑執行も鳩山法相の「ベルトコンベア方式」の言葉どおりになった。来年5月裁判員制度が始まると市民一人ひとりが死刑判決に直面することになる。先進国で死刑を執行しているのは日本とアメリカのみである。
そのあと今年7月に行った死刑囚105人へのアンケート調査がビデオで紹介された。回答は77人。再審請求をしている人は43人、今後求める人は18人と多かった。28人から回答がなかったが、なかにはコミュニケーションが成り立たなくなっている人もいる。

☆受賞発表会に続き、パーティが催された。多田さんにゆかりの方を中心に人権活動を行っている人たちの和やかな集いだった。死後22年もたつのに、これほど大勢の人が集まりパーティをやってもらえる人は、ある意味で幸せかもしれない。
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