「ファミリアの軌跡」展をみた。「ファミちゃん」「手刺繍・ドレス」「デニムバッグ」などテーマが5つあり、同じものを銀座本店と神戸元町本店で5月まで巡回展示している。NHKの朝ドラ「べっぴんさん」のモデル坂野惇子(あつこ)など4人の女性創業者たちとファミリアの歩みの展示だ。昨年夏の朝ドラ「とと姉ちゃん」の関連企画「深川生まれの大橋鎭子さん」と同じ趣旨だ。
思っていたより実話がベースになっていた。たとえばゆかた地の巻おむつに代え四角いおむつを導入したこと、当初、嫁入り道具のハイヒールを買い取ってもらおうとモトヤ靴店を訪れたが「それはあなたのためにつくったもの」と断られ、その代わり手作りの写真ケースをみた店主から「うちの陳列ケースを提供します」と提案があり、そこから靴店でベビーショップを始めたこと、たまたま空いた隣の店(万年筆店)で1号店をつくったというのも本当だった。モトヤ靴店の店主元田蓮が1950年設立した株式会社ファミリアの初代社長ということも事実だった。
明美のモデルもちゃんといて共同経営者は別の人だが、長女を出産したあと3か月間育児法を教えてもらった大ヶ瀬久子である。「ファミリアガイド」も1952年に発刊された。
阪急百貨店への出店のころ、ファミリアのマークをはずせば「阪急特選」のマークを、といわれたが、父から「商標は大事」だといわれていたので断ったというのも実話だった。
細かいところでは、すみれの父の名は五十八(いそや)だが、坂野惇子の父の名は佐々木八十八(やそはち)と同じように数字の名だ。なお細かいエピソードなどは立志伝(朝ドラ「べっぴんさん」)というサイト(http://nobunaga-oda.com/beppinsan/)を参考にしている。
もちろんフィクションなのだから違う点もいろいろある。一番違っているのは4人の関係だ。ドラマでは3人が女学校の同級生で、1人だけ幼馴染の看護婦(ベビーナース)という設定だが、実際には同級生は2人だけ、1人はその義姉(11歳年上)、また1人は近所の人ではあるが5歳下だった。この村井ミヨ子は1歳から7歳までビルマやインドで過ごした人で、興味がある。戦時中、神戸の岡本のあたりで犬の散歩をしている新婚の坂野夫妻から子犬をもらったことで惇子と知り合いになった。
なおすみれ以外の娘たちの実家の詳細はわからないが、実際には坂野惇子の家はレナウン創業者、田村江つ子の父はバンドー化学や内外護謨の社長、田村光子の父は田村駒の創業者、村井ミヨ子の父はニチメンの東京支店長と、いずれ劣らぬ「良家」のお嬢さまたちだった。
年齢も、ドラマのすみれは1924年か25年の生まれだが板野は1918年生まれなので少し年長だ。1940年に22歳で結婚し、42年に24歳で長女を生んでいる(ドラマでは44年ごろさくら誕生)。
また、すみれの父の実家は滋賀県の「近江」(現在の米原市)でそこに疎開したことになっているが、実際は坂野の姉の嫁ぎ先の実家である岡山県真庭市勝山に疎開した。
展示をみて、勘違いしていたことをひとつ発見した。
ドラマで伊武雅刀がやっている阪急の社長は小林一三だと思っていたが、正しくは清水雅だった。清水というと東宝社長のイメージが強いが、略歴をみるとたしかに百貨店の初代社長だった。
もうひとつ勘違いを。関西で「べっぴん」というと美人の意味の別嬪だと思っていたが、そうではなく「別品」つまり特別製のよい品を指す。
ファミちゃん、リアちゃん
わたくしはファミリアという社名は知っていても、ベビー・子ども向け商品まではあまり知らない。しかし会場で商品を見てみると、ファミちゃん・リアちゃんの小熊には記憶があった。熊のアップリケのついたベビー服や食器の記憶もある。ただ、Ken、Will、Tomの仲間、リスのカリカリとポリポリ、小鳥のチッチとピッピ、犬のバーディがいるということまでは知らなかった。品質やデザインのレベルが高いからなのだろうが、何をとっても高価であることは確かだ。
神戸元町店(現在の神戸元町本店)は元町一番街のアーケード(元町通1丁目)にあるが、年表では1966年オープンとある。ではそれまでどこに店があったのか、店のひとに聞いてみた。400mほど北東の三宮センター街2丁目のアーケードにあったそうだ。その場所はいまはパルコの三宮ゼロゲート(仮称)という4階建てビルになっており、ちょうど神戸別品博覧会というイベントをやっていた。「べっぴんさん」展のコーナーにはあさや靴店のセットもあった。なおこのビルの斜め前がモトヤ靴店跡だったと聞くと感慨深かった。
一方銀座本店も現在は銀座8-8-8という並び数字の場所にあるが、2014年までは5丁目の名鉄メルサにあったらしい
ここから先は、ドラマの話についてである。
文芸評論家の斎藤美奈子が「べっぴんさん」について「放映中のNHKの連続テレビ小説が劇的におもしろくない」と酷評していた(東京新聞2016年12月21日朝刊23面「本音のコラム」)。理由は「停滞の一因は主人公のすみれが「裕福な家に生まれた手芸好きのお嬢さん」から一歩も成長していないことだろう」という。たしかにそういう面もあるし、テンポが遅いということもある。
ただ特徴として、どこの家庭にでも起こりそうな食い違い、たとえばどちらも特別には悪くない嫁姑問題、嫁の勤労と家事のバランス、育児の悩み問題、女性同士の行き違い、母娘問題などを次から次へと「問題提起」していることがある。直後の番組「アサイチ」で取り上げられそうなテーマばかりだ。スーパーウーマンではなく、等身大の人物をヒロインにしているという点では好ましいといえる。ただ、それぞれの問題はごく一時的な上辺の問題にしかなっていないので、共感を生むまでに至らないという面はある。だから盛り上がらないということにもなるのだが・・・。
斎藤さんは「「カーネーション」のヒロイン糸子に一喝してもらいたい。あんたな、いい加減にしーや!」と提言していた。
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