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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

ラ・フォル・ジュルネ2018 待ち時間の楽しい過ごし方

2018年05月11日 | コンサート
今年の連休も有楽町の国際フォーラムにラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2018を聞きに行った(以下、ラ・フォルと表記する)
今年のテーマは「モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ」で、異文化交流や亡命作曲家を指すようだが、よくわからなかった。

ただ新しいものへのふれあいという意味では、最後に聞いた6人の打楽器アンサンブルによる「ウェストサイド物語」は、マリンバ主体のメロディ楽器とティンパニなどのリズム楽器の組み合わせで、こんなやり方の打楽器アンサンブルでがあるのかと新発見した。40年くらい前に芸能山城組を知ったときの「衝撃」をなつかしく思い出した。

●最も楽しめた演奏2つ

Percussion Sextet-S」というグループでバーンスタインのウエスト・サイド・ストーリー(菅原淳編曲)から「プロローグsomewhereマンボトゥナイト」の4曲が演奏された(プログラムにはこの4曲しか書かれていなかったが、このほか「アメリカ」もたしかにあった)。舞台には打楽器が何種類も並んでいた。ビブラフォン、3台のマリンバ、グロッケンシュピーゲル、チューブラーベルなどがメロディ楽器として使われ、ティンパニー、ドラムセット、タンブリン、クラベス、カウベル、ボンゴなどがリズム楽器として使われる。その他、クラクションやパフパフと音の出るもの、わたくしが名前を知らない打楽器もたくさんあった。演奏も感動できるもので、こんな方法があるのなら、場合によっては演奏会を聞きにいきたいとインフォメーションで尋ねてみた。本部に問い合わせてくれて、東京音大の2年、3年、4年、院生の男性4人、女性2人のラ・フォル用に編成されたグループだということがわかった。恐るべし東京音大。

もうひとつ、わたくしが楽しめたのは、エロイカ木管五重奏団だった。わたくしは2014年のラ・フォルでヨハン・シュトラウスの「春の声」「クラプフェンの森にて」「ラデツキー行進曲」を聞いたことがある。今年のプログラムはダンツィの「木管五重奏曲」、ドヴォルザークの「スラブ舞曲8番」、ヨハン・シュトラウスの「観光列車」だった。
今回も三菱1号館での屋外コンサートだった。屋外で管楽器の音が聞こえるとうきうきしてくる。
グループ紹介のときに話されたが、演奏よりトークで人気があるグループなので、今年は演奏を充実させたそうだ。たしかにダンツィは4楽章すべてを演奏するなど演奏を重視していた。しかしやはり今年もトークは秀逸だった。屋外で少し風があったので「みな、譜面が飛ばないように注意している。でも、自分以外のメンバーの譜面が飛ぶと面白いだろうなと思っている」という話には観客みんな笑ってしまった。
オケの曲を5人で分担して演奏するのは、たしかに大変そうだった。今回フルートの女性の方はエキストラだったが、「観光列車」ではフルート、ピッコロ、さらにホイッスルまで持ち替えて演奏していた。それもあり、「観光列車」は名演だった。ちょうどわたくしがフルートやオーボエの対面に立っていたせいもあり、高音部がよく聞こえた。一方、クラリネットとホルン、ファゴットの低音のハーモニーもよかった。

●クラリネットを聞いた
前記のエロイカ木管五重奏団と後述の島村楽器のブースで、クラリネットの音色を聞いたが、今年のマスタークラスには珍しくクラリネットのクラスがあった。
先生のラファエル・セヴェールは1994年生まれ、14歳でパリ国立音楽院に入学、2014年パリ国立音楽院の3人の同窓生とアンサンブル・メシアンを結成。ということはまだ23-24歳、生徒の若山修平さんも大学院生だと思われるので、年はあまり変わらないはずだ。
そのせいか「○○してもよい」「わたしは別のやり方をしている」というふうにていねいな言い方のアドバイスをしていた。練習曲はシューマンの幻想小曲集作品73、ホルンやチェロでも演奏される。
「コントラストをつけていい。ピアニッシモをもっと小さくすべき。フォルテはもっと吹けたらいいなあ」「1回目は大きく、2回目は、そのコントラストで小さく」「恐れず表現しきる」「もっとミステリアスに」などと演奏のアドバイスをしていた。
「ピアノに寄り添い、カーブを描いて曲を終わる」「中間部が早すぎた。テンポの統一感が重要」「ここは動き過ぎ。3曲目への余力を残すためテンポアップしすぎない」とのコメントもあった。
もうひとつ、有料コンサートで、ストラヴィンスキーの「兵士の物語」のクラリネット+ピアノ、ヴァイオリン版の演奏を聴いた。吉田誠(クラリネット)、オリヴィエ・シャルリエ (ヴァイオリン)、エマニュエル・シュトロッセ (ピアノ)の3人の演奏だった。鋭角的な曲で、クラリネットは旋律楽器というよりリズム楽器として使われている感じだった。
いつもいっしょに活動している強みかとも思えたが、わたくしには、チェロのヤン・ソンウォンを加えたトリオ・オウオンのドヴォルザークの「ピアノ三重奏曲 第4番ホ短調 ドゥムキー」のほうが印象が強く、聞きごたえがあった。わたくしがピアノ・トリオを聞くのは、94年1月の宋倫匡、林峰男、仲道郁代のコンサート(曲目はハイドン、ヘンデル、ブラームス)以来なので24年ぶりになる。
シュトロッセの安定し力強いピアノが音楽を支え、メインはシャルリエのヴァイオリン、シャルリエをみつめ演奏するヤン・ソンウォン、3人の息が合った演奏だった。6楽章形式だが4楽章のメロディには聞き覚えがあった。ピアノ・トリオというとアルゲリッチなり中村紘子さんなり、バリバリ弾きすぎる三大巨匠の競演のような演奏になりがちだが、今回はピアノが非常に安定して落ち着いた演奏で、こういうスタイルもよいということを発見した。なお昨年マスタークラスで教えるシャルリエをみた。

●ラ・フォル・ジュルネの楽しみ方
わたくしが来場するのは今回で6回目になる。2013年に「この音楽祭は無料のプログラムが充実している」、2015年には「若手音楽家の育成がメインで、発表の場としての無料コンサートが聞きもの」と書き、昨年は無料プログラムの混雑や時間について少し書いた。
無料プログラムの「聴き歩き」をする場合、重要なのが時間管理だ。コンサートの開始時間に間に合わないといけないし、一方コンサートの終演が5分、10分延びることもある。終演予定時間の5分から10分後にそわそわ小走りに退場する方をよく見かける。座って聞こうとすれば1時間近く前に行き、待っているあいだ何をするか考えておいた方がよい。
マスタークラスの場合は90分前から整理券配布なので、先生の人気度も考慮して配布開始の15分前でよいのかあるいは30分前にいった方がよいか判断もいる。
並んでいる時間、待ち時間の使い方もひとつの課題だ。たとえば1時間待って初めの10分だけ聞いて、マスタークラスの整理券を取りに走るということも今回あった。
今年の体験談から待ち時間の過ごし方を記す。
地下2階のキオスクホールの場合、回りの企業ブースでイベントがある。わたくしはローランドで坂本真由美という方の電子ピアノ演奏のラフマニノフの前奏曲「鐘」、島村楽器のブースのクラリネットの「リーフレック」という音量増幅パーツ体験を、待ち時間に聞いた。わたくしが聞いたのはクラリネットだが、ピッコロ、フルート、サックス、トランペット、コルネット、フレンチホルンにも共通して使える器具だそうだ。

洗足学園大学オケは本番の20分前からリハーサルをやっていた。客席から檀上のコンマスに声をかけている人がいたので、家族かと思った。しかし次にコントラバスの人にも声をかけていた。どうやら、見映えの問題かなにかで、客席への姿勢の角度を指示しておられる教員の方のようだった。しばらくして指揮者登場。ところが3分ほど演奏して、指揮者が突如、台から下りて客席中央の通路まで駆けだした。何事かと思ったらどうやらスタッフの人と、音の回り方をチェックされていたようだ。普通のホールではないのでこういう配慮も必要なのかもしれない。
映画とは違うので「メイキング」とはいわないかもしれないが、音楽がつくられていく段取りを見学するのも待ち時間の楽しい過ごし方のひとつということがわかった。音楽のつくりかたの見学という点では、マスタークラス見学も似ている。
そして並んでいる前後の方とのおしゃべりという手もある。クラシック愛好者という共通点があるので、話が合うこともある。マスタークラスの待ち行列で、後ろの女性と話をすると、バッハ(2009年第5回)やモーツァルト(2006年第2回)のときのマスタークラスのことを話しておられたので、わたしよりずっと古いラ・フォルのファンのようだった。
その他、三菱一号館など回りを見渡せる屋外会場の場合、演奏者の向こう側に立つ観客の表情、ファッションをみるというやり方もある。ただ、待ち時間はひたすらスマホをみたり本を読んでいる人もかなり多いのは当然だ。
地上キオスクステージやB2のキオスクステージは、偶然通りかかって「チラ聴き」する機会もある。たとえば地下1階を通行中に、曽我大介指揮・アマデウス・ソサイエティのイタリア奇想曲が聞こえてきた。下を見下ろすかたちだったので蘇我さんのややオーバーアクション気味の指揮がみえた。あとで調べると慶応ワグネルのOBオケとして発足したとあるので、レベルも高そうだ。一度じっくり聴いてみたくなった。
地上キオスクステージでのヴァイオリン・リサイタル プロコフィエフの「5つのメロディ」の初めのほうを少し聞いた。演奏者は洗足学園の2人の学生で、若い才能を育てるこのイベントの趣旨に合うものだった。
こういう偶然の出会いの「チラ聴き」も楽しい
わたくしはエリアコンサートはほとんど聞いていないが、実際には聴く価値のあるプログラムもたくさんあるのではないかと思う。今後のことで主催者に希望するなら、いまは会場、時間、演奏者名しか発表されないが、できればプログラム(曲目)も事前に公表してほしい。もっとも往復の時間のことも考えるとなかなか行けないかもしれないが・・・。

その他いくつかの演奏を聴いたので、一言コメントを記しておく。
丸の内フェスティバルシンガーズ&丸の内交響楽団(総監督・指揮 岸本祐有乃

今年はオッフェンバックのオペレッタ「天国と地獄」ハイライトだった。オアゾの「おおひろば」というロビーの後ろのほうからみたので、歌はまだ聞こえるが、セリフがあまり聞き取れなかった。残念ながらストーリーはほとんどわからなかった。
前方にオーケストラがいたが、少なくとも管打はたいへんじょうずだった。ひょっとすると音大出身者が何人か入っているのかもしれない。

アンサンブル・オプシディエンヌ 

見たことも聞いたこともないグループで、曲目は13世紀から15世紀のアルフォンソ10世、バイユー、ヘンリー8世などの曲。自分たちで、笛や弦楽器、打楽器を演奏しながら合唱する古楽アンサンブルだった。世俗曲ではあるが、王侯貴族の音楽はこんなものだったのかと思った。「ロミオとジュリエット」の映画を思い出した。

クレームをひとつ。楽しい2日だったが、スタッフの方があまりに何も知らずちょっと弱った。
アンサンブル・オプシディエンヌは、まったく知らないグループだったので、地下2階のインフォメーションで、器楽なのか合唱なのかと尋ねてみたが、まったくわからなかった。正解は楽器演奏をしながら歌うスタイルだったのだが・・・。
アンドレイ・コロベイニコフのマスタークラスの整理券は並んで無事に入手できたが、2分前に会場に行くと「開演5分前で締切」でキャンセル待ちになってしまった。整理券配布の際に説明したはずだとスタッフがいうが、わたしの周りの人は同様に聞いていないとのこと。たしかに整理券に「開場は15分前」の下のほうに小さい字で「開演5分前までにお越しいただけない場合は・・」という但し書きはあるのだが・・・。
40分くらいしたところで、出てきた人がいて、かつ指導終了が10分ほど延びたので合計30分ほど聴くことができた。また40分待っているあいだに列の後ろの方とお話ができたのはよかった。アンドレイのファンで、「日本人は技術は高くても演奏家としての能力が低いといっている」ことなどいろいろ教えていただいた。
練習曲はベッリーニ=リストの「ノルマの回想」、生徒は太田糸音さん。入場すると、「イントネーションをつける」「悪い預言者が語るようにシリアスに」「ここはオーケストラの伴奏のイメージで。ここで歌手が出てくる」など、実践的で演出家風のアドバイスが山のように出てきた。入場前にお聞きしたお話がよくわかる指導だった。
●エレベータの乗り場で、スタッフに「昨年はマスタークラスがあったが、今年はどこで聴けるのか」と尋ねておられる方がいた。ところが「今年はありません」と説明していた。そんなことはないので、ガラス棟の4階で、開演の90分前から整理券を配布すると説明してあげたが、なんともひどい話だ。
●B2のブースに「クラシカ・ジャパン」が出展しているはずなので、場所がどこかB2で立っていたスタッフに聞いてみたが、「B1のインフォメーションに上がって聞いてほしい」との返事、ちょっとひどいと思った。
10年以上やっているイベントなので、主催者のKAJIMOTOも少し緊張感が緩んでいるのかもしれない。
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