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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

管楽演奏をたくさん聴いたラ・フォル・ジュルネ東京2023

2023年05月08日 | コンサート

4年ぶりにラ・フォル・ジュルネ東京が有楽町の東京国際フォーラムで開催された。たいていのイベントは新型コロナによる中断で3年ぶりの再開のケースが多いが、ラ・フォル・ジュルネの2020年5月中止はヨーロッパで先に新型コロナのパンデミックが発生し、演奏者が来日できなくなったからだったと思う。
4年ぶりに行ってみて、規模が縮小されたことに気づいた。たとえば有料コンサートが124から50に縮小し、ガラス棟B2(ホールE)の半分を使ってやっていた無料コンサートはなくなり、残り半分の出展者ブースも、今回は地下1階のロビーだけで、出展していたのはぴあ/OTTAVA、島村楽器、松尾弦楽器、ローランドなど8社だけだった。
したがって無料コンサートは地上広場キオスクステージ以外はエリアコンサートのみだった。再開1回目なので、無事開催できただけでもありがたい
わたしがみた有料コンサートは、シエナとマスタークラスのサックスカルテットとピアノだ。
今年のテーマはベートーヴェンだった。中止になった2020年のテーマは「ベートーヴェン」に決まっていたが、再開第1回と2005年の第1回のテーマをかけ合わせたという意味もありそうだ。わたしはなぜか管楽器の演奏をたくさん聞いた。

シエナ・ウィンド・オーケストラはラ・フォルには初登場とのことで、ユーチューブなどでは名演奏を聞いていたが、この機会にとチケットを入手した。
5000人入る大きなホールで、1階席ではあったが舞台上の人は豆粒ほどにしか見えなかった。音は聞こえるが、左右の大型ディスプレイがたよりなので、バーチャル視聴とあまり変わらない。なおマスタークラスも含め有料コンサートは撮影不可だった。したがって写真はキオスク・ステージとエリアコンサートが中心になる。
演目は4つ、序曲のような感じでトルコ行進曲(カーナウ編曲)。メインは「エクストリーム・ベートーヴェン」(デ・メイ)と「ベートーヴェン・エクスプレス」(三浦秀秋・初演)、締めはラテンの彩りの「シンフォニック・マンボNo.5」(宮川彬良)、「ティコティコ」(アプレウ作曲、岩井直溥編曲)で、充実した45分だった。
「エクストリーム・ベートーヴェン」は「皇帝」「第九」「英雄」「エグモント序曲」「トルコ行進曲」が出てきたのはわかったが、ウィキペディアによれば交響曲は1から9まですべて引用されているそうだ。まるで「1812年」のような派手な曲だった。
「ベートーヴェン・エクスプレス」は「ワルトシュタイン」の1楽章、「悲愴」の2楽章、「エリーゼのために」を素材にした作品、ウィンド・ポップスらしい好感をもてる作品だった。ラテンはもちろん楽しく、「マンボNo.5」「ティコティコ」はウィーンフィルのニューイヤーのように会場に手拍子が響く楽しい締めになった。
指揮は佐渡裕氏ではなく、栗田博文さんという方だった。わたしは初めて聴いた。白髪だったので、かなりのお年かと思ったら、ジャンピング指揮だったので、わりに若い方かもしれない。60代初めだそうだ。メリハリがよく効いた軽快な演奏だった。個々のプレイヤーの質が高く、アンサンブルもよく、いい演奏であることは間違いない。
この日、作曲家のデ・メイさん、三浦さんの2人とも来場されており指揮者から紹介された。わたしは三浦さんと面識はないが、後輩であることは確かだ。
ベートーヴェンを吹奏楽でというのはそもそも際モノ的なところがある。打楽器を大活躍させるとか、ハープやピアノ、弦バスの力を借りるとかせざるをえない。
シエナは、イーストマンともギャルドとも違うものを目指しているようだが、何なのかはわたしにはまだわからない。次回はもう少し長いコンサートを聞いてみたいと思った。

エロイカ木管5重奏団は、例年どおり楽しいコンサートだった。この団体は2005年の第1回からほぼずっと出演しているそうだ。
ミュージカル「南太平洋」の(たぶん)「魅惑の宵」に始まり、楽器紹介、「山の音楽家」メドレー、最後は「サウンドオブミュージック」から5-6曲のメドレー、「山の音楽家」も基本的には楽器紹介で、フルートのアルルの女、クラリネット・ポルカ、ファゴットの六甲おろしなどが引用された。
楽器紹介は、残念ながらわたしの立ち席までは話声が届かなかった。しかしいろいろジョークをはさんでいる様子で椅子席の聴衆に受けていた。子どもの希望者に指揮をさせるアトラクションもやっていた。
じつは別会場で、エロイカ+ピアノのピアノ協奏曲1番も少しだけ聴いた。いったいオケを木管五重奏でどう表現するのかと思ったが、ホルンとファゴットが低音部を受け持っていて安定感のある伴奏演奏をしていた。

キオスク・ステージのエリプソス四重奏団
マスタークラスも、サクソフォンカルテットを聴いた。生徒は洗足学園の大学4年生4人、先生はフランスのエリプソス四重奏団で曲目はピアノソナタ23番「熱情」1楽章。今年からマスタークラス視聴は有料になった。しかし以前のように30-40分並び先着順で入場するより500円なのでよかった。
まず生徒に1楽章をまるごと演奏させる。もちろんうまいのだが、わたしの正面がバリトンだからか少し音量が大きくバランスが悪く乱暴な部分があった。また全体にやや単調な感じがした。それで過去に聴いたクラスのように曲作りやメリハリのつけ方を教えるのかと思った。ただしいままではピアノなりヴァイオリンなり独奏しか聴いたことがなかったが、今回はアンサンブルである。またベートーヴェンのそれもピアノソナタをサックスで、というのは際モノの側面がある。
先生方のアドバイスは大きくいうと2つ、ひとつは演奏に関することで、たとえば休符は休みでなくフレーズの問いかけへの答えを待つ、休符が意味を持つので緊張感をもつようにといったことだ。アンサンブルなので、和音の音を正確に出せると、大きな音でなくても遠くまで音が飛ぶ。音を正確に出すため、まず同音を4楽器でオクターブ違いで出し、つぎに5度の和音、さらに3度で吹く。またバッハのコラールから任意の番号を毎日音合わせも兼ねて練習しているそうだ。
もうひとつはテクニックに関することだ、たとえばピアノはフレーズの繰り返しは容易だが連打がむずかしい。サックスは繰り返しより、連打をタンギングでできるので容易である、また和音を吹くことはできないので、サックスはオクターブ音を交えて十六分音符を連打すれば効果が出せる。バリトンなどで、空気はずっと出しっぱなしで下あごをぐっと緩め、舌がつくかつかないかギリギリでタンギングすると柔らかい音が出せる、といったことだ。
たしかにレッスン終盤に、少しメリハリがつき、乱暴さが消えていった
翌日、屋外のキオスク・ステージでエリプソス四重奏団の演奏を聴いた。曲目はピアノソナタ8番「悲愴」。すごくチームワークがよく、聞いていて心地よい演奏だった。本番の10分ほど前から練習場面をみられた。四重奏ならぬ四重唱も上手だった。

KITTE1階で芸劇オーケストラ・アカデミー・フォー・ウインドの木管五重奏を聴いた。曲目はベートーヴェンの交響曲6番「田園」1楽章ほか2曲だった。これはもともと木管が活躍する曲なので、あまり編曲による違和感は感じなかった。芸劇とは池袋の東京芸術劇場のことで、「演奏家から〈音楽家〉へ」をスローガンに、レッスンとキャリアアップゼミを受ける3年制の教育制度のようだ。「エロイカ」とは対照的に、ホルン、ファゴットの低音楽器も含め軽いハーモニーの仕上がりになっていた。メンバーは5人のうち4人が女性、若い人たち(とはいっても大学院終了なので、おそらく20台後半だと思われる)で、今後に期待が持て、いつものように「日本のクラシック音楽界の未来は明るい」との感想を抱いた。
キオスクステージでローランドのエアロフォンの音を聴いた。息で吹くシンセサイザだそうで、サックス、クラリネット、オーボエ、フルート、トランペット、チェロ、尺八などいろんな楽器の音色を出せる。予想外にチェロやトランペットがよかった。ちょっと高額なおもちゃのようにも思えたが、合奏の可能性もありそうだった。
その他、今年は、8年間「きらクラ!」のMCを務めたふかわりょうさんのパフォーマンス、弾き語りフォーユー小原孝さん、ピアニストの福間洸太朗さんのトークショーもあった。

最後に、管楽器ではない話をひとつ。マスタークラスのピアノを聴いた。曲目はピアノソナタ24番「テレーゼ」。先生はジャン=クロード・ペヌティエさん、生徒は藝大ピアノ科のマスター1年生。ふつうは先生と生徒が、ピアノを前に並んで座ることが多いが、このレッスンでは先生と通訳が最前列中央に座る。
したがって先生のお顔や表情はまったくみえないが、その代わり生徒の表情がよくみえる。
ペヌティエさんはひととおり聴いたあと「聴衆にとって、サプライズがなかった」、アンドレ・ジイドの言葉を引用し「演奏者は、自分は何もかも知っていることを聴衆に見せないほうがよい」と評した。
いろんな名言があった。たとえば「ベートーヴェンはアクセントのマイスターだ。アクセントは3種類ある。ひとつは普通のアクセント、ふたつ目はカウンターの合いの手として向き合う感じ、3つ目はベートーヴェンの発明で重ねたアクセントだ」
「長調と短調のすばらしい対照、喜びがはじけるが、けしてキツい音ではない」「音楽は演劇に近い、聴衆は演奏者を目でもみていることを忘れないように」などなど。タッチについて、和音のあとすばやく手を上げる、時間をかけてひとつひとつ歌う。通訳を通した言葉だし、わたしはピアノを弾けるわけでもなく、理解しにくいところもあったが、全体として「さすが」と納得するレッスンだった。
生徒が観客のほうに向き、先生と話していた。先生の目をのぞき込み、にこやかな顔をしてしっかり聞き、うなずく。教え上手な先生がいることはこれまで見てきたが、「教わり上手」な人もいることがわかった。

オーディオコンサート
ところで、今回エリアコンサートも含め、無料コンサートをほんの一部分見ただけのものも含め7つ聴いた。どこも超満員で、座って聞くには30-40分前から座席確保しないと難しい。その点、今年からマスタークラスを有料にしたのはよかったと思う。しかしずっと立って演奏を聞くのは、年のせいもあり疲れる。今回一番落ち着ける場所だったのは、ガラス棟4階で開催されていた「高級スピーカーによるオーディオコンサート」だった。Bowers & Wilkinsのスピーカーでベートーヴェンを聞くと、わたしはあまり聞きにいったことはないが、名曲喫茶にいるような感じだった。それで、2日とも最後はこの部屋を訪ね、一息入れてから帰宅した。
来年は今回以上に盛り上がることを期待する

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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