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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

ショスタコーヴィチの12番を聞いた馬場管演奏会

2011年01月25日 | 日記
こ風が刺すように冷たい1月の日曜の午後、新宿文化センター高田馬場管弦楽団77回定期演奏会が開催された。今回の指揮は26歳の川瀬賢太郎氏、ちょうど2年前同じ会場でシューマンの交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」を指揮した方だ。新宿文化センターの客席は1802席、1階は8割方客が入っていた。

1曲目はニールセンの「ヘリオス序曲」。ヘリオスはギリシア神話の太陽神の名である。ニールセンという名前は知っていたが音楽を聴くのは初めてだった。カール・ニールセン(1865年6月9日―1931年10月3日)はデンマークの作曲家で、この曲は1903年彫刻家の妻とギリシア旅行に行ったときみた日の出から日没までの太陽を描写した曲である。曲に合わせてアニメ作品をつくれそうな音楽だった。
2曲目はシューマンの交響曲第4番ニ短調。昨年はシューマンの生誕200年で曲を聴く機会が多かった。3楽章と4楽章によく聞くメロディが出てくる。楽章の合間に休止を置かず、切れ目なく演奏される。この点はメインのショスタコーヴィチも同じだった。

さてメインプログラムのショスタコーヴィチの交響曲第12番である。この曲は、ショスタコーヴィチ54歳のときの作で1960年から61年にかけてつくられた。「1917年」と名づけられ、ソビエト共産党大会の祝典行事用にロシア10月革命をテーマとして作曲された。初演は61年10月、エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団による。
第1楽章 「革命のペトログラード」、 第2楽章 「ラズリフ」、第3楽章 「アウローラ」、第4楽章 「人類の夜明け」というサブタイトルが付いている。ラズリフはペトログラード近郊の湖の名でレーニンが革命の構想を練った場所、アウローラは巡洋艦の名で、冬宮への砲撃が十月革命の火蓋を切った。「人類の夜明け」は革命により新しい世界が開かれたという意味だそうで、党大会行事用のいかにもなネーミングだ。ところが演奏会のパンフによればショスタコーヴィチ自身は「その前の『交響曲11番1905年』は血の日曜日をテーマに標題音楽的だが、12番はそうではない」と言明しているそうだ。打楽器による砲撃もあるし、標題音楽そのものに聞こえたのだが。
61年というとフルシチョフ政権の時代、60年にはアメリカの偵察機U-2が撃墜され61年にはベルリンの壁が築かれ、62年にはキューバ危機であわや第三次世界大戦開戦かという米ソ両陣営による冷戦の時代だった。一方61年はガガーリンが世界初の有人宇宙飛行に成功した年で、ソビエトが科学技術力を誇示した時代でもあった。
フルシチョフは3年後に解任されブレジネフに交代し、ソビエトという国家そのものも91年末には解体した。社会主義という人類の壮大な実験は、20世紀のほんの74年間で結果が出たともいえる。ソビエト消滅20年後の2011年に聞くと感慨深いものがあった。
今回この曲がメインプログラムになったは川瀬賢太郎氏の希望によるそうだ。この曲もわたしははじめて聞いた。
演奏は、チェロとコントラバスの重く力強い第一主題提示に始まり、1楽章からガンガン飛ばし快調だった。
ファゴット、ピッコロ、クラリネットなど管楽器と打楽器が大活躍する馬場管に合う曲だった。トライアングル、シンバル、ティンパニー、小太鼓、大太鼓のパーカッションの5人が横一列に並んだ演奏は曲を盛り上げた。。
全体として、歯切れのよい川瀬氏の指揮でそつなくまとまっていた。ただフィナーレは常任指揮者の森山さんならもっと盛り上げ、さらに大きな感動を味わえたと思う。
ブラボーの歓声と度重なる拍手で何度もカーテンコールで現れた川瀬氏は、各パートのトップや団員を指名し、最後は楽譜にまで感謝を捧げた。そして拍手に応えたアンコールはエルガーの弦楽セレナードの第2楽章だった。ショスタコーヴィチの大音響とは打って変わり、静かだが盛り上がりのある感動的な曲だった。
会場を後にすると、風が冷たかったが、まるで自分の好みに合うレストランで、コース料理を食べたあとのような満足感を味わうことができた。

☆舞台をながめていて、森山崇氏が大太鼓を担当していることを発見し、うれしくなった。いつもは背中の表情しか見られないが、正面から演奏中の姿を見ると、なかなかハンサムな方だった。かつて桐朋学園のオケで指揮者の井上道義氏がコントラバスを弾いているのをみかけたことがあるが、楽器を演奏する指揮者をみることは珍しく、ちょっと得した気がした。
昨年夏の杉並公会堂大ホールの定期演奏会のメインは、ワーグナー自身の作曲による楽劇「ニーベルンクの指環」の組曲で、管楽器が死にそうなほどの曲だった。次回はドヴォルザークの交響曲6番がメインだが、森山さんの指揮が心待ちだ。

☆昨年7月から、6日に一度のペースで記事を配信してきました。しかし毎週締切が1日ずつ早まるインターバルは書く側にとってはとても不自然なので、今後は週に1度火曜から木曜のあいだにアップするように変更いたします。集会報告など急いで掲載する必要がある場合には、週2回配信で対応する予定です。
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