続・エヌ氏の私設法学部社会学科

無理、矛盾、不条理、不公平、牽強付会、我田引水、頽廃、犯罪、戦争。
世間とは斯くも住み難き処なりや?

憲法第32条(裁判を受ける権利)、権利の保障、権利の行使さえ不可能な場合

2010-11-05 | 法学講座
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日本国憲法第32条
 何人も(=なんぴとも=誰であっても)、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。


 法律の解釈として、「反対解釈」という方法があります。

 ちょっと理屈っぽくなりますが、「AはBである」という命題があるとき、その裏を読んで、「AでなければBではない」と解釈する方法です。
 たとえば、「通行止めのところは、通ってはいけない」というとき、「通行止めでないところなら、通ってもよい」と解釈できるわけです。

 それに関するつまらないジョークを・・・
 許されていること以外は禁止されていると考えるのが、ドイツ人。
 禁止されていること以外は許されていると考えるのが、フランス人。
 禁止されていることでも許されていると考えるのが、イタリア人。
 許されていることでも禁止されていると考えるのが、旧ソビエト人。

 憲法第32条の条文は上記のとおりですが、私は天邪鬼ですから、これに反対解釈したものを付け加えてみます。
「・・・しかしその権利を確実に実現させるところまでは保障しない。また本人が権利を放棄してもかまわない」

 さて、刑事事件では、裁判で有罪とされない限り、刑を与えてはならない、「疑わしきは被告人の利益に」というのが大原則ですが・・・

 民事事件では、特に経済的な事例では、必ずしも裁判が行われない例がたくさんあります。

 裁判を行うには、訴訟手続そのものの費用に加え、弁護士への報酬、交通費、通信費、裁判のために仕事を休めば収入の減少など、多額の費用がかかります。せっかく裁判をしても、勝ち取った金額が、かかった費用より少なければ、結局損をします。

 まして、万一負ければ、何をかいわんや、です。

 したがって、わずか数万円の損害を裁判で取り戻そうとしても、かかる費用を考えれば、最初から諦めたほうが得策、といった、何とも納得のいかない結論に至ります。

 しかし、わずか数万円と書きましたが、数万円なんて庶民にとっては大金で(私の、何か月分のお小遣いだろう・・・どうでもいいですが)、諦めろと言うほうが無理です。

 しかも、詐欺や盗難で失ったお金を諦めるということは、むざむざ犯人に金をくれてやるようなもので、もっと言えば、そうした犯罪を「割があう」ものにしてしまい、犯罪を助長することになってしまいます。
 実際、振込め詐欺や、寸借詐欺、スリや空き巣などは、まんまと利益を得ています。

 おまけに、犯人が捕まり、刑事裁判で有罪になったからといっても、自動的に被害にあった金品が戻ってくるわけではありません。
 被害者が民事裁判を起こして、取り戻さなくてはならず、しかも、被害にあった金品が、元々自分に所有権のあるものだということを、被害者自身が立証しなければならないのです。(犯人にも、犯人自身の財物がありますから)

 さらに、被害分を損害賠償請求しようと思っても、金がないから盗みをはたらくような奴に、そもそも賠償能力などあるわけがありません。

 実は過去に、アパートを退去する時、敷金の清算を求めたら、修繕費やリフォーム代などの名目で、入居時に差入れていた敷金ではまだ足りないから、追加で十数万円を支払え、という請求をされたことがあります。
 話し合いもまとまらず、私は管理会社を相手取り、裁判所に、少額訴訟を起こしました。

 結局、勝訴し、いくらかは取り戻せましたが、手間や時間はとられるわ、出費もかさむわ、会社は何度も休むわ、結局、手元にはほとんど残らず、自分のお金を返してもらおうとしただけなのに、なぜ、こんな目に遭わなければならないのか、正直、情けなくなってしまいました。

 でも、何も知らない人だったら、言われるままのお金を払っていたでしょう。

 管理会社もプロですから、法外な請求が罷り通るはずがないことぐらい、知らないわけはありません。
 知ってるくせに、入居者が反論して正規の清算になっても、それでもともと、うまくいけば、本来できないはずの請求分まで支払ってくれて丸儲けですから、皆が、黙って払ったり、裁判までは、と尻込みするのを見越して、卑怯にも、権利がないはずの請求をしているに違いありません。
 実際、敷金返還時のトラブルは、社会問題化しています。

 つまり、憲法でいくら裁判を受ける権利を謳っていても、本当に誰でもが、「この話はおかしいから、どっちが正しいのか、客観的に判断してほしい」と思った場合、何の負担もなく裁判が受けられるような体制が整備されない限り、憲法第32条は空文に等しく、悪知恵がはたらく奴らを、のさばらせるばかりです。

 下手をすれば、「泥棒に追い銭」を地で行く結果にもなりかねず、これでは犯罪や、犯罪とまでは言えなくとも卑怯な商売を、「割の合う」行為にしてしまい、法の目的である「正義と公平」(駄文『法の女神テミスをご参照ください』は、到底達成されません。

 悪いことでも卑怯なことでも、「やった者勝ち」の世の中が、いい世の中だと思いますか?
 何か、裁判でなくてもいいから、「やった者勝ち」を許さない施策はないものでしょうか。

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2 コメント

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はじめまして? ()
2010-11-05 18:51:05
 オンナノコぶろぐのコメントを拝見させていただきました。実に的確な指摘ありがとうございました。
 既にそちらの方にもコメントを書かせていただきましたが、明らかな私の勘違いによるコメントでお恥ずかしいかぎりです。
 たかがコメントとあなどり、昔の記憶をろくに確認もせず、暴行罪と強姦罪をごっちゃにしてしまうというどうしようもないミスです。
 ブログ拝見させていただきました。読んで、以前青木雄二が言っていた、だから日本はヤクザの出番があるということを思いだしました。
 裁判で弁護士を頼んでも金と時間がかかるが、ヤクザを頼めば金はかかるが時間はかからないという理由です。
 本当どうにかならないものかと思います。
 もし差し支えなければ、今後ともいろいろご教授いただければ幸いです。
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ご丁寧にありがとうございます (pingupapa)
2010-11-05 22:42:11
 ご丁寧なコメントを、ありがとうございました。
 お互い法学士ですが、細かい点に拘って、「この場合はこう、あの場合はああ」というのは、面倒くさくはあるけれど、面白いですよね。

 私も、青木雄二氏の著作は、「ナニワ金融道」をはじめ、「カネと非情の法律講座」ほかを読んでおります。
 青木氏自身は、著作の表紙裏に、「資本論」を読んでいる自画像を載せたり、(生前は)参議院選挙の際に、日本共産党の協賛者に名を連ねたりしていましたが、考え方そのものは非常にまっとうなもので、強者が弱者を食い物にしている様子を描きながら、実は、弱者の視点から描いていることが手に取るように判り、私もずいぶん影響を受けました。

 さて、私も、凛さんのブログを拝見いたしましたが、軽佻浮薄なブログが数多ある中、リカさん同様、物事を真摯に考えていこうという態度には、貴重だと思います。

 私は遅筆で、今日の出来事(尖閣諸島ビデオ流出など)を、今日記事にするような芸当はできませんが、法律などを切り口にして、時勢を批評して参りたいと考え、当ブログを綴っております。

 その際には、ぜひ、時事に即応する凛さんのブログからもヒントを頂戴したいと思いますので、もしよろしかったら、ご了承ください。

 もちろん、駄文が、凛さんのブログに、何らかのお役に立てれば幸甚ですので、どうぞ、これからもよろしくお願い申し上げます。
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