続・エヌ氏の私設法学部社会学科

無理、矛盾、不条理、不公平、牽強付会、我田引水、頽廃、犯罪、戦争。
世間とは斯くも住み難き処なりや?

反魂の術

2015-06-02 | 人文科学講座
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 今年は、テレサ・テン没後20年ということで、いろいろな催しがある中、ニュースで、追悼コンサートの模様が流れていました。
 もちろん本人は墓の中ですから、テレサに所縁のある歌手が、彼女の歌を歌っているのかと思ったら、何と、本人が舞台の上で歌っているではありませんか。そっくりさんではありません。3D技術を駆使した立体映像です。
 まだまだ発展途上の技術ですから、ブラウン管テレビのように走査線が見える気がしたり、色彩が薄く舞台の奥が透けて見えたりと、お世辞にも本物そっくりとは言えませんでした。
 しかし、そうした点も、数年のうちに改良され、「本物そっくり」になって行くのでしょう。

 あ、言い忘れていました。実は私、「ヒット集」の10枚組CDを購入するほど、テレサ・テンの歌が大好きなのです。
 ただ、私の好みはちょっと変わっていて、日本でヒットした楽曲もさることながら、中国語で歌った「何日君再来」や「夜来香」、また、日本で大ヒットした「愛人」「時の流れに身をまかせ」などの中国語版が、大のお気に入りです。
 彼女の、日本語の歌は、どうしても喉に無理をさせて日本語を発音し、歌っている感じが否めません。その点、中国語の歌は、もちろん言葉は分かりませんが、声が、彼女の喉から無理なく自然に出てきているようで、耳に心地よく響いてきます。

 最近の、ケツ振りながら歌うアイドル歌手なら、どっちでもいい話ですが。

 戯言はこれぐらいにして・・・

 科学は、既に亡くなった人が、再び動いて歌う姿を甦らせることに、とうとう成功しました。2次元であれば、映画の発明がそれにあたりますが、3次元で甦らせるのは、臨場感が、文字どおり次元が違います。

 人々は古来より、亡くなった人を惜しみ、もう一度、一目だけでも会いたいという想いを強く持っていました。そして、その欲求に応えるべく、怪しげな薬や術を使う者も現れました。
 中でもよく知られているのは、漢の武帝が、亡くなった李夫人に今一度会わんがため、方士に術を使わせて、李夫人の姿を煙の中に浮かび上がらせた話ですが、その時、方士の焚いた秘薬が反(返)魂香です。
 もちろん、そんな秘薬などあろうはずもなく、武帝が見たものは、御簾越しに揺らめくただの煙だったわけですが、方士の神秘的な演出と、武帝の、李夫人恋しさに堪えかねる気持ちが相まって、揺らめく煙の形を、李夫人の影と思い込んだ、というのが真相でしょう。加えて、もしかすると反魂香の煙には、幻覚を見せる成分が含まれていたのかもしれません。

 科学が高度に発達した現代から見れば、反魂香などインチキに決まっていますが、昔は、そのような呪術こそが、人の生死や自然現象全般をも司る、最先端の科学であったことは認識してください。そうだとすると、漢の武帝が方士の反魂香によって李夫人を見たのも、熱烈なファンが3D技術でテレサ・テンを舞台に映しだしたのも、その当時に用い得る最高の技術を以て不可能を可能にした、という観点では、変わりがありません。

 科学は次にどんな幸福を、我々に与えてくれるのでしょう。楽しみは尽きません。

 惜しむらくは、科学の3Dは、テレサの姿を再現することには成功しましたが、「魂」までは再現できないようです。「魂」さえも再現できたとき、それが、科学による反魂の術が完成するときでしょう。
 そんな事は不可能?
 いえいえ、3Dさえ、100年前には非科学的な夢物語だったのですから、100年後、200年後にはきっと。

 人類が科学で自滅しない限りは。

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