続・エヌ氏の私設法学部社会学科

無理、矛盾、不条理、不公平、牽強付会、我田引水、頽廃、犯罪、戦争。
世間とは斯くも住み難き処なりや?

フォークソングと人間の技術・技量

2010-10-13 | 人文科学講座
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 オジサンの懐古趣味ですから、まあ、聞き流してください。

 私が若い頃は、フォークソング、ニューミュージックの全盛期で、私も、フォークギターを買い、弾き語りなどして楽しんでいました。

 最近、その頃の曲を再び聞く機会があり、中高生の頃では分からなかった歌詞の意味や機微を、あらためて感じ取ることができ、懐かしさのあまり、実家に置いたままだったフォークギターを我が家へ持ってきて、「どこへ置くつもりなのよ!」とカミさんに叱られてしまいました。

 そうした音楽に触れた世代が、80~90年代のポップスを創り、またそれに触れた世代が、現在の音楽シーンを支えていて、音楽はどんどん進化しています。
 昔は、それこそギター、ピアノ、バイオリン、ドラムぐらいしか使っていなかったものが、今では名前も知らないような楽器を多用し、コンピュータによる合成やデジタルエフェクトによって、聴いていて楽しい、まさに「音楽」そのものの出来栄えを比べると、昔の音楽は今の音楽の足元にも及びません。

 それはそれでいいことなんですが・・・

 「音楽」は確かに進化し続けています。しかし「歌」という観点から見ると、残念ながら退化していると言わざるを得ません。

 フォークソングの頃は、演奏といえばアコースティックの楽器や、せいぜいエレキギターや電子オルガンなどを使う程度で、デジタルエフェクトなどもありませんから、必然的に、作詞家・作曲家と歌手の力量が大きく問われていました。

 別な言い方をすれば、聴き手への訴求力が歌の良し悪しを決めていた、つまり、「聴かせる歌」でなければなりませんでした。また、「聴かせる」以上、歌詞も重要な位置を占め、歌詞は詩として成り立つほど、立派なものでした。
 そこではデジタル技術に頼らない、作詞者、作曲者、編曲者、そして演奏者や歌手の力量こそが勝負だったのです。

 愛だ恋だ別れだ涙だといったものではない、目新しい楽器や演奏やテクノロジーもない、何でもない唱歌であっても、歌手に、情感込めてじっくり聴かせる力量があったなら大ヒット曲になり得ることは、平井堅が「大きな古時計」で見事に証明しました。

 音楽に限らず、現代は技術が進歩し、昔なら特殊な技能を持った人しかできなかったことが、普通の人でも容易にできるようになっています。
 しかしそれは逆に、技術は進歩したけれど、人間の技量は低下する、という矛盾を生み出しています。

 昔は、車の運転は特殊技能で、免許さえあればメシが食えたものだし、読みやすいきれいな字は、書道の先生でもなければ書けませんでした。したがって、免許の欲しい人は、大変な努力をして技能を身につけたし、綺麗な字を書きたい人は、書道教室へ通ったりして、腕を磨きました。

 それが、オートマチック車の出現で、変速ギアの操作ができなかった人でも、車の運転ができるようになり、ワープロの普及で、誰でもきれいな文字を印刷できるようになりました。
 しかし逆に言うと、昔なら免許をもらえなかった程度の技量しかない者が車を運転したり、変換キーに慣れた人がいざペンを持つと、漢字を間違えたり書けなかったり・・・漢字ぐらいなら笑い話ですが、笑い話では済まないことも、そうした事例の中には多々あります。

 車は人間を運び、文字は人間が読むものです。したがって、人間の技量こそが、いざというときには大いにものを言います。
 仮に、飛行機の操縦が易しいものになり、今の車のように、誰でもが飛行機を飛ばす世の中になったとして、空の上で機体に故障が発生したとき、技量のある者とない者では、取り返しのつかない運命の差が待っています。

 技量のなさを技術が補うのは、決して悪いことではありません。
 また、新しい技術を使いこなす、新しい技量を獲得するのは大切なことです。
 しかし、技術に頼って技量が低下するのは、ぜひ防がねばなりません。

 誰でもがそこそこ美味しく飯を炊けるよう、炊飯器が登場しました。
 炊飯器を使いこなすために、ボタンの操作や炊き具合の設定をする技量があれば、より一層、美味しい飯が炊けます。
 しかし、炊飯器のスイッチを押すだけということに頼りきってしまったり、そもそも炊飯器でしか飯を炊いたことのない人ばかりの世の中で、ご飯をきちんと竈と羽釜で炊く技量のある人が、どれだけいるでしょうか?

 そんな技量はもう必要ない?
 では誰が、炊飯器のシーケンスを開発するのでしょうか?
 誰が、炊飯器の炊き具合を設定するのでしょうか?

 かく言う私も、いざ紙を前にして、漢字を忘れてしまったりして・・・偉そうなことは言えませんが。
 飯盒で飯を炊く技量ぐらいはありますので、それでご勘弁を。

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