フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

笑顔の下の涙

2005年12月10日 21時33分56秒 | 第9章 恋愛翻弄編
トオル君は居間に戻ってくると、マントルピースの上にあった鍵の束を無造作に掴みポケットに入れた。

「父さん、後は頼みます。それから伯母様達にはお悔やみを」
「・・・・・・分かった。トオル、お前はやはり来ないのか?」
「うん」

トオル君はお母さんに「行って来るよ」と言って優しく頬に口付けした。

私はご両親にペコリと頭を下げて挨拶をすると先に出掛けた彼の後を追った。


私は、さっきの事が気になって車に乗り込むなり彼に質問した。
「トオル君、プレス発表っていってたけど、何?」

トオル君は何も答えないまま前を見つめてハンドルを握っていた。

「病院を売った」
「病院を?売ったって?」
「おばあ様が、死んだんだ」

突然、病院のことからおばあ様のことに話が飛んだ事を不審に思いながら私は疑問を打ち消し、代わりの質問を言葉に乗せた。
「トオル君、おばあさん、亡くなったの?」
「うん。昨夕ね」
「そんな・・・・・・」

お悔やみを言おうとして私は重要なことに気が付いた。
「昨夕って、じゃぁ、トオル君お通夜とか、お葬式は?」
「おばあ様は、僕を嫌っていた。それに・・・・・・」
そう言い掛けてトオル君は口を固く閉ざした。

どうして彼は行かないのか、聞いてはいけないような気がして私も口を閉ざした。
「ハルナも気付いたんだろう?!
あの家族の中で僕だけが異国の人間なんだ。
隔世遺伝でもなく、ハーフでもなく・・・・・・、それなのに、僕は日本人なんだ。
そんな僕をおばあ様は最期まで、拒絶した・・・・・・」

私は、涙が止め処も無く溢れ止まらなかった。
「ハルナ、君が泣くことじゃないよ」

トオル君は左手を伸ばすと私の髪を優しく撫でながら微笑んだ。
その微笑の下に涙を隠しながら。


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