ハイ、単にバスに乗ってただけです。すみません、言ってみたかっただけです。
でもこの峠は、バスに乗ってるだけですごい迫力と爽快感を味わえますよ。どれだけすごい峠かということです。これを自転車で登るんですから、ちょっとおかしいです。
感じを掴んでいただくには、日光のいろは坂、あれで標高差1000メートル登り下りすると考えていただければ適当かと。
アルプスが生起した瞬間をそのまま止めたような巨大な褶曲を描いた岩山を、つづら折の道が、延々と天に至るまで続いています。60のカーブがあるそうです。
道が造れないところは、ちょうどバスの大きさギリギリに岩山をくりぬいた、岩がむき出しになったトンネルが堀り抜いてあり、バスはこの曲がりくねった素朴なトンネルを、身をもがくようにして通り抜けます。
てゆーか、これが対面通行になってる部分もあるんですけど。どーすんのこれ? バスはクラクションをけたたましく鳴らしながらトンネルを駆け抜けようとするのですが、対向車が来たら向こうは必死でバックして回避します。
なんともすごい道です。ところが運転手は必死なんでしょうが、景色は見事で、遙かにアルプスの連山を見ながら、山側を見上げると雪解け水が集まって流れる滝が数百メートルの長さで優美な造形をつくっており、夏の野花が一面に咲き乱れ、車中のイタリア人たちは口々に「すばらしい」「すごい!」とかいいながら写真を撮るのに忙しい。
前の席の青年が振り返って窓の外を指さして「カモシカがいるぞ−」「どこどこ?」といっても、巨大な岩肌にいるカモシカなどわかるはずもなく、「おっ、右側に滝があるぞ」「よく撮れないなー」「いまだ、シャッターチャンスだー!」などとわいわいやっていうちに知らない人がみんな仲良くなっているのがイタリアの乗り物のすごいところ。
そういうわけで、峠をバスに乗って移動するだけでも見事な眺めとスリルと和気藹々の車中を楽しめるのがこのステルヴィオ峠なんです。
ステルヴィオ峠を反対側に下りると、去年滞在していたボルツァーノに抜けます。要するにわたしは同じ辺りをうろうろしているということです。