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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

10月14日・会田誠の疾走

2021-10-14 | 美術
10月14日は、「ポロ」ブランドで知られるファッションデザイナー、ラルフ・ローレンが生まれた日(1939年)だが、現代日本を代表する芸術家、会田誠の誕生日でもある。

会田誠は、1965年、新潟で生まれた。父親は社会学を教える大学教授だった。子どものころ、授業中も落ちつきなく歩きまわる多動性障害児童だったという誠は、東京芸術大学で油彩画を学び、26歳の年に同大学院を卒業し、同年「あぜ道」を発表した。
「あぜ道」は、タテ70チメートル、ヨコ50センチほどのアクリル画で、田んぼのなかに後ろを向いて立ったセーラー服の少女の肩から上がアップで描かれている。少女は髪を左右で結んでいて、髪はまん中で分けられているのだけれど、髪の分け目がそのまま背景のあぜ道と一本につながっている、というだまし絵のような作品だった。
28歳のときには「巨大フジ隊員VSキングギドラ」を発表。これはタテ3メートル、ヨコ4メートルもあるアクリル画の大作で、住宅街に身長百メートルくらいに巨大化した「ウルトラマン」の科学特捜隊の女性隊員、フジ隊員が、家々を押しつぶす恰好で倒れていて、そこにたくさんの頭をもつ怪獣、キングギドラがからみついている構図だった。フジ隊員の衣服ははがされ、乳首がさらされ、キングギドラの頭のひとつは彼女の腸をくわえて引きだし、ひとつは彼女の陰部にもぐりこんでいた。
以後、会田は、「ジューサーミキサー」「切腹女子高生」「滝の絵」「灰色の山」「電信柱、カラス、その他」など、スクール水着やセーラー服、あるいは全裸の美少女が躍動し、戦争や殺りくなど残虐、無残な風景が淡々と描かれた美しい問題作をつぎつぎと発表しつづけている。圧倒的な賛辞を受ける一方で強烈な拒絶反応を巻き起こす作家である。

以前、会田誠の個展を観にいった。エロ、グロ、ロリコンが満開、意図的にタブーを前面に押しだした芸術作品が、これでもかと並べられ、日ごろから商業デザインばかり目にして頭が硬くなっていたので、忘れかけていた芸術の自由の風にさわやかに吹かれ、脳が解放された。

それは、これまでの会田誠の主要作品が網羅された回顧展で、壮観だった。絵画作品や立体オブジェのほか、ビデオ作品もあって、ビン・ラディンに扮した会田がこたつに入って、ひとり酒を飲んでくだを巻いている動画や、会田が全裸になって、「少女ポルノ」だったか、なにかわいせつな熟語を書いた文字の前に立ち、その文字だけで欲情できるかに挑み、延々とひたすらマスターベイションに励んでいるビデオもあって、感心した。
「この人はほんとうになんでも体当たりでやってしまう人なんだ」
彼の作品に、眉をしかめる人、嫌悪する人はすくなくないだろう。なんで、こんなものを描くのか、と。しかし、その芸術的なインパクトの鮮やかさといったらなかった。美少女をさらりと描き上げる技量もさることながら、芸術を創造する上では、倫理観とか善悪とかにはこだわらず、考えたまま、感じたままに表現に走る、その純粋さ、度量の大きさに感じた。現代日本の芸術の最先端を突っ走っている芸術家である。
(2021年10月14日)



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